第23話 呉越同舟
「 まず確定している事実のみを確認したいわ いいかしら 」
まず口火を切ったのはありさだった。
「 いいだろう 私らは月夜が祖父から遺品として5体のミイラと葛篭を受け取った それらは警察に押収された 現在月夜が心当たりのない妊娠をしている その3つだろうな 」
「 僕達は事実なんて持ち合わせてないよ しいてあげるなら僕が100年以上生きているって事くらいだ これも嘘だと言われればそれまでなんだけどね 」
「 私達は 警察から箱とミイラを入手して本国に移送した 移送中 艦隊が行方不明になった 本国が津波被害に遭った かしら 」
「 なんだそりゃ こんだけ長々やって確認出来たことはそんだけかよ しかもユウリだっけ お前が100歳だなんてどうでもいいし 」
「 トーマだっけ だから最初から無関係だって言ってるじゃないか 」
「 チョットあんた達ヤメなさいよ 」
「 ちッ ンでどうすんだよこれから 」
「 事実のみから判断するなら君達の艦隊は津波に巻き込まれた 自然災害って事になる 」
「 あァァ お前らの訳分かんねェ話し聞かされた後で何でそうなんだよ 」
トーマがユウリに食ってかかる。
「 いんや どうであれ自然災害は自然災害なんだよ 」
「 どういうこと あんたの話 聞いてあげるから話してみなさいユウリ 」
「 そもそも葛籠に封じ込められていたものは畏れなんだと思う 畏れとはもともと自然災害を具現化して名前を与えたものなんだ そうすることにより 人の扱う事の出来るものになる 信仰する事も出来るし味方にする事も出来る 封じ込める事だって 」
「 じゃあ あの箱がどういう物であったにしろ 元を正せば自然災害意外の何物でも無いってことかしら 」
「 まあそんな感じだよありさ君 今日僕達がした話はあくまでも僕達個人的な問題ばかりだ ツクヨ君達は関わりたくもないし信じたくもないのに問題ばかり降りかかってくる 君達は関わってしまった為に自分達の責任を感じてしまっている 僕は過去の因果に囚われている 関係無い人達にとってはどうでもいいことばかりなんだよ 彼等にとってはあれは単なる自然災害なんだよ 例えば君達の国と敵対する国や対立する宗教の人間はなんて言ってる ”私達の祈りが届いた 私達の神様が罰を与えた” 彼等に関係無い人間にとってはどうでもいい戯言だ 」
「 じゃあ私達はどうすればいいって言うの 」
「 だから言ったろう 個人的な問題だって 個人的な問題は個人で解決するしかない 葛籠を探せ 」
「 ちょまてよ そんなモン探せる訳ねェだろ 」
「 いや きっとある だろ ウワバミ 」
「 その名で呼ぶでないバカユウリ だが葛籠はあるじゃろうな 」
「 あの葛籠ってまだあるんですか そんな訳無いじゃないですか 津波に巻き込まれたんですよ じゃあ中に閉じ込められてたあれは … まだ … 葛籠の中に …
「 ツク落ち着け とりあえず話を聞こう 」
小夜が手を握ってくれた、私はどうしてしまったのだろう。
「 過去の契約がどの様な物かは知れんが被害が甚大すぎじゃ 怒りを感じる 相当怒らせる様な事をしておるはずじゃ 」
「 そもそもお前らの国は何を知ってた 葛籠をどうするつもりだった 」
「 わからないわ ただ極秘裏に何かが行なわれようとしてたのは事実よ それも大掛かりにね 」
「 とにかく怒りを買ったのじゃ あれは波に乗って何かを猛烈に追いかけておる お前らの民は巻き添えを食らったのじゃ 最深部にゆけ そこに必ず答えがあるはずじゃ 」
「 最深部って 」
「 一番深く津波が到達した地点のことだと思うよ 」
「 それこそ無理な話だ 俺達はあの国じゃ他所者だかんな 下手すりゃその場で拘束されて一生収容所だ 」
「 待ちなさいトーマ こんな時の為に信頼出来る人脈はそれなりに築いてきたつもりよ ここからでも出来る事はあるはずよ トーマは何も考えずにいつもどおり私の為にワンワン吠えてなさい 」
「 へいへい リサ様の仰せのままに ワン! 」
「 なんか微笑ましいですね 店長 」
「 ユキ君? 」
「 パソコンを借りれないかしら 」
「 よいぞ わしがジャンクパーツで組み上げたウルトラスペックマシンを貸してしんぜよう 」
「 チョッ何このOS見た事ないんだけど 」
「 中東の天才プログラマーが開発したヤツじゃ ほとんど世には出回っておらん アップルやマイクロソフトとは訳が違うぞ 外からの干渉は100%拒絶する完璧な自己完結型の自立ソフトじゃ 」
「 ネット環境はどうなってんの 」
「 お前らの衛星回線をハックしておる 」
「 … ハぁぁぁぁぁ…
「 トーマ あなたは話に参加してて 私は要件を済ませるわ おチビちゃんはチョット借りるわね このOS癖があり過ぎるわ 」
「 了解 じゃ続けようぜ 俺達の事はリサにまかせときゃなんとかしてくれるだろう 問題はツクヨだっけ のお腹の中のものだ それが新たな脅威になるならさすがにほってはおけねェからな 」
「 それは心配ないと思うよ 」
「 なんでそう言い切れる 」
「 トーマ ミイラは何年前の物だった 」
「 50年前後だったッけかな 」
「 ちょっと待て 話が違うぞ 私達は100年前後だと聞いている 」
「 それだと話がややっこしくなるから俺達が工作したんだ でもそれがどう関係すんだよ 」
「 僕はその頃に葛籠は1度開けられたんだと思う 」
「 そうか それで封印し直す必要があったのか 5人の僧侶を柱にしてまで でもなんの為に葛籠を開けたんだ ユウリ店長はどう考えてる 」
「 開けたのは月㮈だと思う そして葛籠の中のものと何らかの約束を交わした 」
「 月㮈さんが それがツクの懐妊に関係があると言うのか でもなんで 」
「 4〜50年前に起こった出来事でなんか心当たりないですか 」
「 4〜50年だとさすがに私も生まれ … いや真月が生まれた 月㮈さんの遅すぎる懐妊 」
「 じゃあ その月㮈って人が子供を授けて下さいってお願いしたッつうことなのか 」
「 いや 月㮈は鳥追虎一の娘だ 鳥追一族の生き残りだ 父のそして一族の意思を継いでいても何の不思議もない 」
「 じゃあ私の祖母は葛籠の事を最初から知っていた ていうかその為に祖父に近づいたんですか 」
「 いやツク じいさんの話じゃ訪ねて行ったのはじいさんの方だ それは運命だったんだろう 」
「 で いったいどんな約束を交わしたッつうんだよ 」
「 それはわからんよ ただ災厄の契約を交わしたのはクニガミだ 鳥追一族はそれを阻止するためお前らの国と協力していた 鳥追はトーマ達の敵ではないよ 」
「 わかった 」
トーマがすんなり引き下がったのは意外だった。
「 で ツクヨ君はどうしたいんだい 」
「 産んでみようと思ってます 」
「 私も対処法がわからん以上それが一番いいように思うんだが 」
「 僕もそれがいいような気がするよ やっぱり葛籠の契約が発動したことがトリガーになってるのは明白だからね もし月㮈が仕込んだことなら目的があるはずだ 」
「 ユウリはその目的ッてのはなんだと思ってんだ 」
「 おそらく葛籠の契約が発動するのは遅かれ早かれ避けられなかったんだと思う 契約というのはそういうものだからね 問題はその後だ 」
「 そのあとというのは 」
「 続きが始まったんだよ 」
「 続きッてのはなんなんだよ 」
「 ヤツは終わってないと言ったんだ 」
「 クニガミですか 」
「 ヤツが動く時 国が動く 」
ピンポンピンポン
みんなのスマホがいっせいにけたたましい声をあげた。
「 どうした 地震警報か 海乃 確認してくれ 」
「 班長 日本国政府が解散しました 同時に新政府が発足されました 新大日本帝国政府の樹立です 」
少しだけストーリーが進展しました。牛歩の歩みなのであります。




