第21話 ほとおりぼしの少女
「 無関係とは言ったがサヤさんの話を聞いて知っている事はある 」
「 と言うと 」
ユウリの言葉に小夜が問う。
「 まず ツクヨ君の苗字の鳥迫僕も最初は気にしなかったがトリオイ製薬の関係者と聞いて元々は鳥追だったんじゃないかと思った もしやとは思っていたんだが僕は鳥追と言う名を知っている 」
「 確かに祖父の若い頃は鳥追と名乗っていたと聞いた事があります 会社を始めてから姓名判断で変えたとか 」
私は祖父から聞いたことのある話を補足した。
「 で ユウリ店長はどこで知っていたんだ 」
「 鳥追と言うのは軍の情報部にいた奴の名だ 」
「 軍というのはどこの軍を指しているんだ 」
「 この国で軍と言えば帝国軍だ 奴は敵側にも情報を流していた 所謂二重スパイだったらしい 奴の所為で広島と長崎に原爆が投下されたと聞いた 鳥追討伐の任に就いたのは僕の部隊だった 生き残ったのは月㮈という少女だけのはずだ 僕が見逃した 」
「 ちょっと待て 何を言っているんだユウリ店長 わけがわからんぞ 」
「 僕は100年前の戦争と言う名の亡霊なんだよ 君達の見た葛籠の中味と同じだ 」
「 もうやってらんねェ さっさと殺して1抜けさせてくれよ 頭おかしくなりそうだぜ 」
「 まあそうイキんなよスパイくん 同年代の無所属に完封されたより100年以上生き続けた亡霊に手も足も出なかったほうが格好付くじゃないか 」
「 ッんだと テメェェ 」
「 トーマやめなさい あんたの真意はわかんないけど話は聞くわ 続けて 」
ありさがトーマを諫めながらそう言った。
私は泣きだしそうになるのを堪えるのに必死だった。どうして、どうして、全部知ってしまおうと決めたくせに、どうして私はこんなに弱いんだろう。今 泣きだしたら彼は話すのをやめてくれるだろうか、冗談だよと慰さめてくれるだろうか、みんなで私をかわいそうだと気に掛けてくれるのだろうか、違う 違う違う違う違う、今は泣いちゃあ駄目なんだ、泣きたいならあとでこっそり泣けばいい あの葛籠の中で。
「 鳥追のその後は知らないが月㮈以外は根絶やしにされたはずだ 鳥追は旧くから続く隠密の家系だと聞いた 私が討った月㮈の父鳥追虎一は忍びの剣のかなりの使い手だった 」
「 じいさんの話でも確か隠密だかなんだか言っていたな 」
「 鳥追について僕が話せるのはそれだけた 」
「 ユウリ店長の話だと葛籠を敵国に売ったのは月夜の曾祖父ということになるな これはややこしい話になってきたぞ 」
「 トリカリと言う名は覚えがないが サヤさん その写真は見れないだろうか 」
「 海乃 お前のタブレットに入ってるよな 」
「 はい班長 待って下さいよッと 」
海乃がカバンからタブレットを取り出しデータをあさると祖父から渡された軍服姿の集合写真が出てきた。画像処理され以前より鮮明だ。
タブレットを手にユウリの顔が幾分険しくなった。
「 知ってる顔がいくつかある まず前列の左から3番目の軍人はリンバラ いやウリンバラスダメだ 」
「 そこでその名が出て来るのか いやなんでも無い 続けてくれ 」
「 あとウリンバラの部下が3人 ウリンバラの隊は当時この神職の姿をした男の護衛に付いていた 名をクニガミと名乗っていた 」
「 クニガミだと ちょっと見せてくれ … まさかこれだったとはな ツク どうだ 」
「 はい たしかにあの男に似てますね 」
「 サヤさんとツクヨはこの男に会ったのか 」
「 はい よく似たクニガミと名乗る男に鼠仔猫島で会いました 」
「 見つけた … 」
ユウリの声音が変わる、表情が変わる、目つきが変わる。そして空気がピンと張り詰める。
( ビシャリ )
ヒメが社の端で小さな水鉄砲を構えていた。ユウリの顔を狙い射ったのだ。
「 殺気が溢れ漏れておるぞ、わしらを祟る気かこの未熟者めが 」
「 すまんウワバミ 」
「 その名で呼ぶでない まあ今日一緒にお風呂で遊んでくれたら許してやるのじゃ ツクヨも一緒じゃ 」
「 なっ なっ なっ何を言ってるのかなヒメちゃん 」
「 なんじゃ おぬしら もう恥ずかしがるような仲でもあるまいに 」
「 なっ なっ なっ なっ なっ…
「 みんなも知っているだろうが 先の戦争でこの国が優位に立てたのは先制の奇襲攻撃だけだった あとはジリ貧だ よくあんなんで戦争なんてやろうと思ったものだ とにかく戦力差があり過ぎた 物資が違う 武力が違う 火力が違う 技術力が違う 兵力が違う 鉄製の軍隊に木と布で作った植物性な自然に優しい軍隊で挑む様なもんだ こちらの攻撃は届かないのに あちらの攻撃は易々と届く こちらの攻撃が当たってもビクともしないのに あちらの攻撃が当たると火を噴いて燃え上がる 戦ってるのか消火活動してるのか分からん有様だ 戦ってた僕らはみんな気付いていたさ 勝てる訳ないってね 軍部も匙を投げていた 敗戦色もいよいよ濃厚になってきた時 国から1人の男が軍に送り込まれてきた それがクニガミだ 」
「 それではクニガミは軍部ではなく国家側の人間ということでいいのか 」
「 ああ ただそれが政府なのか朝廷なのかは僕はよく知らない このクニガミと言う男の指揮のもと いくつかの作戦が実行された ツクヨ君のおじいさんのそれもその一つなのだと思う 」
「 それがどういう作戦だったのかユウリ店長は知らんのか 」
「 僕は当時、他の任務に就いていたからね 」
「 それはどんなものだったか教えて貰えないだろうか 」
「 僕は隊を率いて1人の少女の護衛をしていた 名を星宿零( ほとおりぼしれい )と言い10歳くらいの不思議な少女だった いくつかの壺を使い焔を操るんだ 相模湾沖で僕らの隊で敵艦隊を迎え撃った時 彼女の焔が敵艦隊を焼き払った それは凄まじいものだったよ 龍の巫女と呼ばれていた 本土決戦でこの国の守護龍になると 」
「 ファイヤースターターれい なのか 」
「 たしか君達の雑誌でよく特集されてるよね 」
「 うゥゥゥ … レイ様は実在したんスね 」
海乃はもう泣いている。
「 星宿零 私達もその名は知ってるわ この国の最重要危険人物としてね でももう死んでるでしょ 」
ありさの問いにユウリは答える。
「 渋谷大火炎の夜 空から1匹の龍が降るのを見た あれは間違い無く 零の最期の焔だよ 」
「 そんな秘密兵器を持ってて あんたらはなんで降伏したの 」
「 原爆だよ こちらの最高火力を上回る火力を見せつけられたんだ 白旗を上げるしかないじゃないか 」
「 レイの火力を以ってしても及ばないなら仕方ない か その後レイはどうなったかユウリ店長は知ってるのか 」
「 戦後の復興期に自警団を率いて新宿ら辺で暴れていたよ 僕も暫く身を寄せてた事がある 後のガーディアンズの前身だ お淑やかな印象の少女だったんだが久方ぶりに会って逞しくも狂暴な女性に成長していたのには驚いたが嬉しくもあったよ 1年ほどで僕は離れたから その後彼女がどういう人生を送ったかはわからないけどね 」
「 店長 その娘となんかあったんですか 」
「 な なにを言い出すんだいツクヨ君 」
「 感です 」
「 女の感を舐めない方がいいわよ 私はそっちの娘に1票入れるわ 」
「 同感だな 私もツクに1票 」
「 私もツクさんに1票 」
「 わしも1票じゃ ソウルが囁いておるのじゃ 」
「 …… 」
昔話はまだ続きます。




