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第12話 鳥籠の鳥

「 相も変わらず閑古鳥鳴いてますね 」

「 昔ね 田舎の田んぼ道の真ん中にぽつりんとタバコ屋があってね 」

「 また唐突に何言ってるんス 」

「 まあ聞きたまえツクヨ君 でね 夏の暑い日でさぁ ベンチが置いてあったんで車を停めて一服したんだ お店自体は営業してなくてタバコとジュースの自販機があってさ 民家の軒先営業みたいな感じかな 家の中に人がいたのかは分からない 缶コーヒー片手にタバコを吸ってると突然 ”ププッ” と車のクラクションが鳴るんだ ところが辺りを見回しても車どころか人っ子ひとりいやしない田舎の一本道だ するとまた ”プゥー” てね 」

「 えェェ ヤメて下さいよ 怖いやつだと泣いちゃいますヨ 」

「 僕も最初はビックリしてね 何処からかわ分からないけどものすごく近くで鳴ってるのは分かるからね そして3回目でようやく気付いたんだ 」

「 なんだったんです 」

「 九官鳥だよ 」

「 へッ 」

「 知らないのか カラスみたいなヤツだよ 」

「 いや知ってます 」

「 軒先に鳥籠が吊るしてあったんだ あれは凄いぞ そのあと救急車のサイレンも披露してくれてドップラー効果まで見事に再現していたからな 」

「 何で九官鳥が ”おはよ” とかじゃなく車の発する音を真似するんです 」

「 田舎だからね 聞こえてくる音がそれしかないんだろう 」

「 鳥籠の中で聞こえる音は車の発する音だけだなんてなんか寂しいですね ッて これ何の話なんですか なんかしんみりしちゃったじゃないですか 」

「 いや君が閑古鳥が鳴くって言うから 」

「 その鳥ちゃうねん てか店長 もしかして私が1カ月くらい休んじゃったから寂しかったんですか 来る日も来る日も ”ピンポーン” いらっしゃいませ の毎日にその九官鳥と自身を重ね合わせてません 」

「 君が居なかったくだりはさて置き 繰り返されるコピペされた日常にはちと飽きたかな バイトでも入れ替えて気分転換してみるのも悪くないかもな 」

「 なんで店長の気分転換のタメに私がクビになるんです この冷血野郎 」


 ここは東京の西のはずれに位置するコンビニエンスストア ”セブンスマート” の店内である。お客さんがいない店内のレジカウンターでお喋りしてるのが私 鳥迫月夜(とりさこつくよ)と店長である。

 祖父の葬儀から休ませて貰っていたので1カ月ぶりくらいの出勤である。あれから色んなことがあり過ぎて二度とこの日常には戻ることは出来ないのではと思っていたのだけれど ここには変わらぬ顔があった。

 しかし私は知ってしまっている 2年前の私が知らなかった事を知ってしまった やはりもう戻れない。


「 店長 2年前の話をしてもいいですか 」

「 あの時言ったはずだよ あの話に後日譚はいらないと 」

「 でも …


 あなたは燃やしてしまった あの社を 彼女と一緒に 時間と一緒に 私の為に 私の所為なのに 店長はその時どんな気持ちだったのだろう 私の事を恨んでいるのだろうか 恨んで欲しい お前の所為だと言って欲しい そしたら そうしたら 私は女々しく泣けるのに



 ピンポーン ”ちィーす 宅配でェーす”


 突然の声に驚くと宅配便屋さんだった。


「 店長 荷物です ん?鉄の棒って書いてますよ 」

「 おっ 来たか 」

「 来ましたか 」

「 うわぁ ユキちゃん いつの間に 」

「 なに言ってるんです 今配送の人と一緒に入って来たじゃないですか てかツクさん久しぶりです 」

「 うん久しぶり 私が休みの間ユキちゃんには…

「 それより店長 店閉めましょう 」

「えッ お店閉めちゃうの なんで 」


 予期せぬ出現にも驚かされたが普段のクールなイメージのユキのハイテンションさに圧倒される。

 八島(やしま)ユキ セブンスマートのもう一人のアルバイトで私の唯一の同僚だ 都内の女子校に通う高校三年生 とは言っても1年間休学してたらしいので私の1歳下になる。今日は白のセーラー服姿でショートボブの髪型が似合っている くっきりした目鼻立ちは可愛いよりは美人と表現した方がよいだろう。


「 店長 早く早く」

「 まッまてまてユキ君 女子校生に急かされると手が震えてしまうじゃないか 」


 本当に店を閉めてしまいバックルームで宅配便を開封しているとこである。中から出てきたのは ”鉄の棒” ならぬ


「 うぎゃッ 」

「 うぉぉぉぉッ 」

「 うん 」


 刀の刀身だった。


「 ちょッ ちょッ 店長 絶対にこっち向けないで下さいよ 私ストレスで死んじゃいますよ 」

「 ツクさん先端恐怖症だったんですか 」

「 イヤ イヤ これそんなレベルじゃないっしょ こわい こわい こわい 」


 ひと目で恐怖心が焼き付けられてしまった。店長の手にするそれは鋭く長く美しかった。それは人を殺す為だけに作り上げられ磨きぬかれた武器だ。こんな物に美しさを求める それは狂気だ。


「 それ絶対本物ですよね なんで店長が てか宅配便ってこの国の銃刀法はどうなってるんですか 」

「 知り合いの刀鍛冶に打って貰ったんだ 別に悪事に使用するわけじゃないから安心したまえ 」

「 手で持ってるけど大丈夫なんです 」

「 この部分に刃は付いてないからね まあ柄を付けないといけないんだが 」

「 なんか斬ってみましょう 」


 なにを言っているんだこの子は ユキのイメージが崩壊していく そういえば たしかお家が有名な剣道の道場で本人も剣道のインターハイで優勝したことがあるとか聞いた気がする。剣道少女だったのか にしても真剣を見てこんなに興奮するなんて人は見た目では分からないものである。


 その後 興奮気味のユキを帰らせた後に店の営業を再開した。日曜日の夜はお客さんが少なく22時を回って客足がぴったり止まったので早目に店を閉め バックルームで2人で廃棄のお弁当を食べた くだらない話をした これから家の方と出版社の仕事が忙しくなるかもしれないからあまりこちらは出られないかもと伝えて店を後にした。

 結局 2年前のことは話せなかった。





「 ウワバミ 」

「 その名で呼ぶなバカユウリ 」

「 お前気づいたか 」

「 ああ 気づいたさ けものの匂いじゃ 」

「 よくないやつ だよなやっぱり 」

「 それはわからん ただ旧いやつじゃ 」

「 しばらく来ないと思ったらあいつ何に巻き込まれてんだ まったく 」

「 自分で聞けばいいじゃろ お前らを観てるとなんかイライラするのじゃ 」

「 大人には大人の事情ってのがあるんだよお子様 」

「 なめるでないぞ 呑み込むぞ それよりあのことは教えなくてよいのか 」

「 そッだよなぁ なんか知っちゃってるみたいだったし 逆に困らせてるよな なにをやってんだか僕は 」

「 バカのくせに考えようとするからじゃ 」

「 だよな 」








久方ぶりのユキ登場のセブンスマート回でした。

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