第10話 始まりの始まり
「 本当に道合ってるんス 」
「 そのはずだが 」
海乃の言葉に地図を見ながら小夜が答える。
「 でも 新幹線とか高速に乗ってると 明らかに文明の気配が皆無な場所に突如近代的な建造物とか謎の工場とかが現われてビックリしません 誰が何の目的でこんな辺鄙な場所に造ったんだよッて 不穏な空気しか感じないんスけど 」
「 あッ わかる 俺 気になって高速降りて確認しに行ったりするもん 」
私の話に海乃が乗ってきた。
「 それでどうだったんです 」
「 それが そういう時に限って出口が遠くて 降りても辿り着くルートが見つかんないんスよ 」
「 目にしてすぐ行動するからそうなるんだ サル海乃 そういう時は2回目に通った時 チャンと位置を把握してナビを使用してルートを確保してから行動しろ 何年この仕事やってるんだ 」
「 うぐぅぅぅ 」
「 まあ辿り着いても拍子抜けするだけだよ 新幹線とか高速の利用者の目に付いている段階で不穏じゃないだろう だいたい新幹線や高速は生活圏の一番外っ側に作られているからな 要は裏側から見た図なのだよ 」
「 裏側? 」
「 そう 正面側の生活圏側から見れば不便な場所ではあるのだろうがそれほど突拍子もない場所ってわけでもないんだよ 高速なんて乗ってると物凄く人里離れた山奥を走り続けてる気になるが実はそうでもない 人の目を上手く除けるように作られているだけだからな 」
「 あッ 分かります 出口は山奥だったはずなのに5分も走れば大都会になっててビックリしたことありますもん 」
「 自分側から見える景色だけで人里を離れてると勝手に思い込んでるだけなんだよ 」
「 でも 此処は確実に人里離れてますよね 」
今 私達は東京から車で3時間ほど西北に下った山中を走行している。メンバーは私 鳥迫月夜と出版社百目堂書房 百目奇譚編集部 副編集長兼取材班班長 三刀小夜 カメラマン兼記者 海乃大洋の計3名である。目的地は私の祖父の遺品が保管されている場所である。目的はその中味の確認だ。
「 そろそろゲートに着くはずなんですけど 」
その門は西洋風な鉄製のものだった、一面に蔓植物がびっしり絡みつきここ何年か開閉された痕跡は見受けられない。どれ位の間放置されていたのだろうか ”私有地につき立ち入り禁止” と書かれた札もすでに朽ちかけている。
「 これは相当だな 開くのかこの門 鍵が錆びついて開かないじゃ話しにならんぞ 」
「 こっから先 車使えないと困りますよ とにかく開けましょう 」
懸念に反し掛けられていた3つの巨大な南京錠はすんなり開きバリバリと植物を引き千切りながら門は押し開かれた。その先には鬱蒼と木々が茂るなか 廃道が続いていた。
「 しかし 私有地ぐるっと柵で囲ってるんスかねェ 相当ありますよ 」
「 さすがに道に面したとこだけじゃないんですか 」
「 いや 隠したい物がある以上中途半端な事はしないんじゃないか まあ乗り越えようと思えば中には入れるのだが さすがに周りが山だらけのこの場所で柵を乗り越えてまで山に入ろうとする馬鹿はそういないだろう 」
「 門閉めて行きますか 内側からも鍵掛けられるッスよ 」
「 ああ そうしよう 用心に越した事はないだろうからな 」
「 ところで班長 気になってたんスけど 会長って本当は何歳だったんスか 」
門を閉めて鍵を掛けながら海乃が小夜に聞いた。
「 あの話が本当なら115歳くらいだろうな 」
「 ひェェェッ 」
「 製薬会社の会長だぞ 一般には出回らない薬もあるのだろう 月㮈さんの容姿も異常だったからな 」
「 私のおばあちゃんですよねぇ 」
「 ああ 亡くなった時80は超えてたはずだが 60歳くらいにしか見えんかったからな 」
「 ひェェェッ 」
廃道をしばらく進むと拓けた場所にでた。そこには煉瓦造の旧びた切妻屋根の倉庫が3棟並んでいた。
「 着いたな 」
「 はい 右端の倉庫です 」
「 シャッターとドアがあるけどどうします 」
「 シャッターを開けよう 見通しは良くしておきたいからな 」
「 でも このシャッターでかいッスよ 手動で開くんッスかねェ 錆びついてなきゃいいけど 」
シャッターの鍵を開け3人でしゃがみこんで持ち上げた。 ”ガラガラガラ” 意外にすんなり持ち上った が 50センチほどで止まってしまいびくりともしなくなってしまった。
「 ダメッスね これ以上無理みたいッス 」
「 しかたない これで入るか 」
3人はシャッターの隙間を潜り抜け中へと入った。
倉庫の中は意外に広い、学校の体育館くらいだろうか。
「 外から見たより広く感じるッスね 」
シャッターの隙間から射し込む明かりだけでは心許なく奥の方までは薄暗くて見通せないが何も無くがらんとした感じがする。目が慣れてくると倉庫の真ん中あたりに異様な塊が現れた。
塊は一辺が10mくらいのコンクリート製の立方体の建物で正面には大きな観音開きの扉が付けられている。外壁の至る所には大小様々な長方形の読めない文字が書かれた紙が貼り付けられている、護符或は魔除けの札と呼ばれるような物なのだろうか、そして一際異様さを際立たせているのは鎖だ、建物の周回をぐるぐると幾重にも巻き付けられ縛り上げて扉の正面で何個もの錠により固められている。外側から開けられないようにではなく内側から決して出られない為にそうしたかのように。
海乃は興奮した様子で持ってきた大型の懐中電灯を地面に置き建物の周りを回りながら写真を撮っている。
「 車田に沢山の鍵を渡された時は嫌がらせかと思ったが まさか本当に全部必要だとはな 海乃 写真が終わったら鍵を開けるぞ 」
「 ハイッス 」
「 でも鍵穴の部分にも小さな札が貼り付けられてるんですけど これ突き破っていいんですか 」
「 本当は剥がしたいところだがこれは無理だろう 準備を整えて出直すという手もあるがこれを見てしまった以上このままここを離れてはいけない気がしてならない 」
それから30分程かけて錠を外していった。預かっていた48個の鍵をまず大きさ順に並べてから小さな物からあたりをつけて試していく、錠は様々で よく見るオーソドックスな南京錠から見たこともない物 時代劇なんかに出て来る大型の錠前まである。
作業は比較的スムーズに進行した。最後の鍵をガチャリと外すとジャラジャラと鎖がほどけて地に落ちた。
海乃が右で私と小夜が左の取っ手を力を込めて引っ張るとギィーと軋む音を立てながらゆっくり重たく扉は開かれていった。と、その瞬間扉の内側で何かが一斉に身じろいだ 大きな石をめくった時に下にいたジッとしてた蟲たちが一斉に狂ったようにウジャウジャする様が脳裏に浮かぶ。同時に異臭が鼻を突いた。
「 すまんツク 甘く見ていた 正直葛籠の中の鼬だか何だかの動物の骨を然るべく供養すれば終わらせる事の出来るミッションだと高を括っていた これは想定外すぎる なにせ人間の死体が5つも出て来たんだからな これはもう私らの手には負えんよ 」
( 数週間前 都内某所 )
「 仕事ッだよ〜ン 」
「 ワンワン 」
「 アラートよ 」
「 アラート?どうせクッだんねェやつだろ 」
「 お国のネット上の検知システムにワードが引っかかったの ”トリカリキヨジ” 90年以上足取りが全く掴めなかった戦犯だってさ 」
「 90年?やっぱチョーくだんねェ だいたいソイツ何歳なんだよ 」
「 ターゲットはソイツの持っていたスペシャルな物よ 」
「 ダースベイダーのフィギュアかなんかか 」
「 いいや ”パンドラの箱” よ 」
「 パンドラねェ 」
「 いくわよ トーマくん♪ 」
「 ヘイヘイ リサ様の仰せのままに ワンワン 」
やっと物語が動き出したかな。ここからは2日に1話を目指して頑張りたいであります。ではでは