第92話 異界亀裂内追撃戦・1
「とうとう見つけたぜ、エンテリカ・ヴァルドラウン!」
「アントラックス、伯爵と呼んであげなさい」
「お前ら、何故血徒に入りやがったあああああ!」
「へっ、何も守れなかった王族の者が何を言う!」
伯爵はアントラックスと目を合わせると、敵意をむき出しにして突っかかる。なぜ自分たちの同胞が血徒に入っているのか、双方の主張ががぶつかり合う。
「待て待て、ここで言い争っている場合ではないぞ。どうも彼は、正式にサルモネラ家を継ぐ者ではない。資格はきっちりあるのにのう」
「何だと?確かにこいつは、ヴァルドラウンはサルモネラ家に伝わる特異伝子を持っている」
「なあ伯爵よ、わしらも色々集めたものがあるんじゃが、もしかするとお主、合成菌魔人かもしれん」
ルべオラは、今までの伯爵の言動や振る舞いなどから、血徒の拠点の1つにあったある資料の中身と関係があるのではと口に出す。
それは、伯爵が微生界人でない何者かに生み出されたかもしれないということであった。
「どういうことだルべオラ」
「話はあの売人を捕まえた後に話してやるから、早うハーネイトちゃんが鍛え上げているあの子たちを呼んでくるのじゃ」
「もうそれについては各自に連絡してありますって」
このままでは話が終わらないと思ったルべオラは場をまとめ、ハーネイトに対し響たちを連れてくるように指示する。
「先生、犯人を見つけたな」
「急ぎましょ、その前にこいつを!!!」
「燃えて来たぜ。しかも2チームいるのかよ」
その間にCデパイサーから続々と連絡が来る。高校生たちはほぼ全員参加できるようで、ハーネイトはホテルにあるポータルを使えば即座に自身のもとに移動できると指示した。
「準備はできてるぜ九龍」
「おうよ!燃えて来たぜ」
「敵の手下か、ある意味あの連中より位が上の敵とやりあうことになるのか。いいだろう」
「この時を待っていたよね時枝君。早くホテルに移動して、先生の置いたポータルを使いましょう」
「先生の近くに転送できるとかマジか」
五丈厳と九龍は互いに気合を入れあい、時枝と間城が早く先生のもとに向かおうと指示し8人はホテル内のポータル前に集合すると、Cデパイサーとリンクさせハーネイトのところまで瞬時に移動したのであった。
実は例の転送ポータル、通常はポータル間同士でしか行き来できないのだが、特別に権限を持つハーネイト、伯爵、リリーのもとに直接移動できるという機能も備えてありそれを利用して駆け付けたのであった。
「俺ら8名、現在ポータルを使ってここまで来ました。リシェルさんたちもすぐに来るかと」
響を始めとし、彩音、翼、間城、時枝、九龍、五丈厳、天糸の8名が待ち合わせ場所に到着しハーネイト達と合流した。更に少し遅れて、リシェルたちも到着し合流する。
「リシェルです。シノとヨハン、ブラッドを連れてきました」
「あれ、ブラッドまた来てたの?」
「格ゲー全制覇したいらしいと」
「おうよ、って大分色々いるなおい。後で戦おうぜへへへ」
「はあ……まあいい、2チームいるからな。追撃担当と制圧担当がいる」
今回は今までと違い、2チームの編成が必要であり、逃げた売人を追いかける追撃チーム、それを支援しながら道を開く制圧チームを用意しようとしていた。
「で師匠はどちらに」
「追撃だ。犯人が追跡不能な場所に行く前に捕らえる。リシェルもついて来い。それとミロク、文治郎がこちらにはいる。あとは、亜里沙とシノ、こちらについてきてくれ」
「了解しましたハーネイト様」
「ああ、構わんぞ」
ハーネイト自身は売人の追跡を行い、今述べたように5人を連れていくことを告げる。
「残りの人たちは私たちの突破支援と帰ってくるまでにできるだけ多くの敵性存在を撃破してくれ。異常に数が多い。ブラッドたちの手伝いをしながらうまく立ち回ってくれ」
「あ、おい待て。さっきちょっち見てきたが魔獣の中に感染個体がいる」
「そいつらを俺たちが醸してやるから、残りはお前らでやれ」
「了解した、先生、と貴方たちは」
「俺はアントラックス、伯爵と同郷の微生界人だ。よろしく!」
「俺はぺスティス、あんたらが別の血徒に乗っ取られないように立ち回るから」
「けっ、また妙なのが増えやがったな。まあ俺たちには殲滅の方がお似合いだな、なあスサノオ」
「サポートがいるなら、近接戦闘も行けそうだな」
「私も頑張る!でもなんか不安」
ルべオラはともかく、他の微生界人2人のことを知らない響たちは彼らの名前を聞き、協力してくれることを聞いて自分たちも全力で事に当たると気合を入れていく。
「さあ、みんないっくわよ!!!!」
「心してかかれ!あとわしは追撃の方に回るからの」
こうして、全員が亀裂に吸い込まれる形で移動し、広大な砂地に降り立つとすぐに手分けして作戦を始めるのであった。
「応よ、全部大火葬だぜ!!!」
「血の気が多すぎると困りますね。では僕から。行くぞ、不動四斬剣!!!」
早速ヨハンがしかけ、具現霊不動明王と共に剣による連続攻撃で突貫する。それに続いてブラッドも拳に焔を纏いながら地面を殴り火柱をあげる。
「あれが人間か?」
「強いな、だが俺らも!血徒刻印付きはお前らには見分けがつかんだろう!」
「やるぞぺスティス!血闘術・呪血鎖だ!」
「任せておけ!作戦の下ごしらえは俺らがやる!血闘術・血爆剣だぁ!」
事前の打ち合わせ通り、アントラックスとぺスティスはそれぞれ感染して暴走している魔獣に対し飛び上がり、上から襲い掛かるように攻撃を繰り出し、一撃で撃破していく。
「とりあえず感染個体はもういないはずだ。一応監視はしておくがな」
「ふう、後は頼んだぜ」
それから3分ほどで、2人は血徒に感染している魔獣たちをすべて撃破することに成功したのであった。
「まさかお前らと再び肩を並べることになるとはな」
「フン、ルべオラから話は聞いた。血雨を浴びた王族までも暴走したとな」
「それをも倒して見せるとは、やはりあんた何か秘密を隠しているな」
「知らねえよ!イライラするぜ、失せろ!」
伯爵とシノはそれぞれそう言いながら、後を追う形で戦技を繰り出す。伯爵は手元から凝縮した菌の弾で、シノブレードは双剣からそれぞれ赤と青の衝撃波を飛ばし切り裂いていく。
その連携により、また一体、一体と魔獣たちの群れは蹴散らされ、ハーネイトたち追撃チームの行動支援を行うのであった。
「おいお前ら、新入りだってな。まあそこら辺から俺たちの戦いでも見ときな!」
「役に立てぬのか、この私は」
「なんて奴らだ。あれが人間なわけあるか」
スカーファと黒龍は離れたところで、時枝と間城の傍から響たちの戦いぶりを見ていた。リシェルに自分たちの近くにいるように指示され、従う2人はその光景を目に焼き付けていたのであった。
「っ、俺もハーネイト先生と共に行きたかったが」
「ぼやいている暇あるなら倒すのよ響!」
「わかってるって彩音。行くぞ言之葉!疾風斬!」
「本当に、きりがないわね!痛い目に遭いたくなかったら逃げなさい!じゃないと!」
響の独り言に彩音が指摘しつつ、迫りくる獣たちに対し攻撃し吹き飛ばす.。時間のある時には鍛錬と探索、捜査と彼らはひたすら活動し続けてきた。
それは、ハーネイトに地球の人として初めて弟子として認められたあの時から自分たちが率先してやっていかなければという責務によるものであった。
「ミチザネ、まだいけるか」
「無論だ。雷神と化した我の力、解放せん!」
「アイアス、みんなの状況は」
「まあまあってところだな。だが数がとにかく多いぜ姉貴」
時枝と間城はCデパイサーを見ながら、的確に支援攻撃を行う。しかし本当に数が多いため、どこから制圧しようか迷っていた。
「話に聞いたわ、私も手伝うわ」
「ええ?星奈?何で分かったの?」
「私も、あのお兄さんからこれをもらったのよ。それでここを見つけたの」
更に少し遅れて、星奈も亀裂の中に入り間城たちと合流した。Cデパイサーづてにここまで来たと言い、自身も具現霊ワダツミを召還し攻撃を仕掛ける。
「とにかくこの化け物たちを倒すの手伝って」
「任せて璃里ちゃん」
そう星奈が言うと、ワダツミは手にした槍を頭上で回転させたのち、地面に突き刺しそこから大波を召還した。それは多くの獣たちを押し流したのであった。
「すごい、星奈の具現霊は水を操れるのね」
「こいつは頼もしいな。今ので敵が怯んだぜ、一気に行くぞ!」
「任せなさい、この私が!」
「行くわよみんな、戦場をかき回しちゃえ!」
「御意!」
天糸はすかさず4人の具現霊を呼び出し、それぞれが響や星奈たちのもとに向かい支援攻撃を挟む。
しかしまだ慣れていないのか、集中して動かすことに気を取られ回避が疎かになっていた。そこに迫る蛇型の獣に対し翼が遠距離からプロミネンスボレー、リシェルが魔閃砲で打ち抜き援護した。
「ブラッドと言ったな、あの辺りを焼き尽くしてくれ!」
「何もねえじゃねえか」
「あるだろう、あれは血徒感染していた魔獣の血だ。あそこから湧いてくるんだよ」
「仕方ねえ、こいつぁ熱々だぜ!カグツチ、劫火斗苦天だぜ!」
その間にぺスティスは戦域全体を監視し、血徒汚染を受けた魔獣が流す血に警戒し火炎属性が得意なブラッドに指示を出し、敵の増援を防ぐための行動を取るように言い、彼は強力な火炎攻撃を敢行する。
そうやって徐々に敵勢力を追い詰めていく中、ハーネイトたちは売人であるコ゚モスと対峙していた。




