第72話 病院内の異変と間城の友人
「はい、春花病院の地下に、幽霊のような何かと息子が見たという、光る亀裂が……」
その後自身もその霊的な物が見えたという現場近くまで確認しに行くと、そこにはぼんやりと光る亀裂がその場にできていた。
しかし同行した同僚の男性看護師、樋川は特に何も見えず、それが理由で急いで会えるかどうか確認してきたのであった。
「おいおい、またかよ」
「それで、そこを調べて欲しいと」
「はい、それとこれを。前に言っていた様々な事件に関する資料です。どうか目を通してください」
「有難うございます。その件はこちらで調査しましょう。貴女は私たちが病院内に入りやすいように手筈を」
なぜそのような場所にできたのか2人とも謎に思っていたが、対処が必要であると判断し調査する旨を伝える。
「しかしよく見えましたね」
「私も霊感は強いもので……そもそも矢田神村の住民たちは全員そうですね」
京子はそう言い、夫のことを思い出していた。あの時、自身は夫を助けられなかった。しかし目の前にいる青年たち、そして息子の今の力ならあの化け物を倒せる。でもその力がもし手に入るならと彼女は思っていた。
「では私は昼から勤務なので病院に戻ります」
「気を付けてくださいよ京子さん。その亀裂、近づかないでくださいね」
「ええ、分かりました。それとアップルパイを差し入れで持ってきました。どうぞ食べてくださいね」
「ありがとうございます。ああ、そうですね、特別にこれを貴女にプレゼントします」
ハーネイトはそういうと席を立ち、棚に置いてある腕に装着するタイプの通信機器、つまりCデパイサーを彼女にプレゼントした。
「通信機器?ああ、響もつけていたわね」
「本来能力者用の装置ですが、機能を制限して通信機能と防御機能をオンにしています。何かあればこのボタンを押せば、すぐに私たちが駆け付けますので」
「ありがたいわね、では……これで失礼します」
そうして京子は一礼し事務所を出て、病院まで向かったのであった。
「伯爵、至急招集命令だ」
「ああ……おおっと?間城と彩音が病院に向かっているみてえだ。後は他の奴らを」
伯爵はリリーを始め全員に連絡する。すると響や五丈厳、時枝が来るのに時間がかかると連絡があった。
「先生、部活があるので少し遅れます。終わり次第すぐに向かいます」
「俺もバイトがまだ終わらねえ。終わったら行くぜ!待ってな先公!」
伯爵とハーネイトはそう連絡を聞き、集められる分のメンバーだけで行こうと決めた。その時ドアの方から声がし2人とも振り向く。
「話は聞いたよ、病院の方であれって?車で送ろうか?」
「大和さん、いつの間に。てか盗み聞きは……まあいいか、ではお願いします。嫌な予感がするのです」
「話は聞いたぜ兄貴。手伝いに行くぜ」
「私もいけますわ」
翼は大和と共にホテルを訪れていたためすぐに駆け付け、亜里沙もまたホテルに来ていたためすぐに事務所を訪れ合流した。
「それとヴァン、シャックス!仕事だ!」
「話は聞いた。行こう」
「リシェルたちが故郷に帰っている以上、私たちがカギですね。玄関で落ち合いましょう。ヨハンやミカエルは今回はホテルの方にいてもらった方がいいと思います」
その後ハーネイトは部屋でポーカーをしていたヴァンとシャックスに声をかけついてくるように指示を出す。
「オーケーだ」
「了解しました、ではすぐに支度を」
それから数分後、ハーネイトたちは地下駐車場に移動、大和は新しく買った大型車に全員を載せて、いや正確には伯爵だけ車の天井に張り付き記念病院まで車を走らせたのであった。
その少し前、京子は病院に向かう途中で携帯電話の着信音が鳴り、ポケットから取り応対する。すると声の主は同僚の裏川であった。しかし様子がおかしい。いつもの彼女とは違う慌てて動揺しているような感じに京子は何があったのか彼女に尋ねる。
「京子、さん……病院、来ちゃ、ダメ……っ!みんな急に倒れて……わ、わた…」
「裏川さん?裏川さん!な、何が起きているのよ。えーと、これを押せば通信できるのね。ハーネイト、これはいい物ね。って彩音ちゃんが近くに?」
Cデパイサーには、レーダーが搭載されており同じくCデパイサーを持つ者の位置を示すことができる機能がある。それを利用し京子は近くにいた彩音に対し連絡を取るのであった。
「はい、彩音です。って京子さん!なんでCデパイサーを!」
「事情は後で話すわ。響はそばにいないの?」
「まだ部活中ですよ、しかしおばさん慌ててどうしたのです?」
「ハーネイトさんの事務所を訪れて、その後病院に出勤しようとしたら同僚から電話があって、病院内で大変な事態が起きているみたいで……!」
正直パニック一歩寸前だった京子だが、どうにか冷静に取り繕い、今病院で起きている異変を2人に伝えた。
「えええ?看護師たちが気を失っている?」
「ちょ、どういうことよ彩音」
それから京子は2人にも、ここ最近の病院内で起きていたことと光る亀裂の件についてハーネイトと伯爵に話した内容を伝えた。それに彩音と間城は想定されることを考えた。
「病院……光る亀裂……獣……まさか!」
「それって星奈ちゃんの入院している病院が危ないってこと?やばいじゃん!」
「急ぎましょう、先生たちも病院に向かっているって」
「分かったわ彩音。……星奈、それにみんな、無事でいて……!」
京子はそのあと病院近くで2人と合流し、病院の正面玄関まで向かう。するとその時点ですでに異様な気が充満していたのを3人は確信した。
これは異界空間に入っているときと同じ感覚だ、そう思うと彩音と間城はCデパイサーでハーネイトに連絡を取る。既に病院に向かっているのだが、それならばさらに急ごうと彼は言い慎重に病院内を探索してくれと指示が出る。
「もうすでにおかしいわね。何人やられているのかしら」
「合流できたのはいいですが、ハーネイトさんたちが車で到着するまであと15分かかります」
「でも行くしかないじゃない彩音!その化け物の仕業よ!死霊騎士だったらなおのこと!どうにかしないと!」
3人はハーネイトの指示通り病院の中に入り状況を確認する。中は電気がついていないようで薄暗く、多くの人がその場で倒れているのを3人は目撃しすぐに駆け寄る。
どうも全員気を失っているだけで命に別状はないものの、生気を失っているような感じであった。
「すでに何人も魂を抜かれている……のかしら」
「少しでも多くの人を助けないと、手伝って2人とも!」
「とりあえず待合場所のソファーに全員寝かせないと。先生には倒れた人たちのことについて話しているから、到着次第必要な治療を施してくれるわ」
治療は先生に任せるとして、地下の亀裂さえどうにかすれば元に戻ると考えた3人は再度ハーネイトに連絡を取り、被害者たちの数などを教えると急いで地下に向かったのであった。
「魂食獣の気配がするわ。それにあの亀裂、しかも大きいわね」
「え、ちょ、星奈、星奈なの!?私よ、間城よ!意識が戻ったの!?」
そのまさか、何とそこにいたのは意識不明だった海原星奈であった。しかし様子がおかしい。半分目覚めているようであり、ふらふらと立って呆然としていた。
彼女を助けようと近づこうとした3人に対し、星奈はまさかの行動をとったのであった。




