第49話 霊量子による魔法術の問題点
霊量子を用いた魔法術の研究はハーネイトがプロジェクトのリーダーとして、過去に行われていた。だがある問題が見つかり研究は途中で一旦中止することとなったという。
その最たる理由が、霊量子で術を再現しようとすると発動までに既存の同じ魔法の約7倍時間がかかるという点である。
元々ハーネイトたちの住む故郷の星では魔粒子という霊量子に酷似した物質が存在し、それを使い魔導師たちは魔法を行使し、戦争から日常生活までそれを運用していた。
では何故術式に時間がかかるのが問題かというと、単純に発動前に敵の攻撃や妨害で潰されるのを術者が嫌うからである。
それと付け足しもう1つ、霊量子で火や風など自然現象を引き起こすのは魔粒子でそれをするよりも、イメージのしづらさや根本的な生み出し方の違いなどから難しい面があるという。
ハーネイトは以上の点に関して響たちに説明を行ったが、それでも彼らは変わらずリリーの使っている大魔法を使いたいという。やれやれだと頭を掻きながら彼は、一度凍結していたその霊量子魔法術の技術研究を再開しようと考えたのであった。
「分かった、霊量子で実用的な面まで行けるようになるから研究してみるから。……よく考えれば、ヴァンとブラッドは水や炎で攻撃する霊量士だ。彼らから話を聞けば何かいけるかもしれない」
思い返すと、自分の仲間には霊量子自体を操り攻撃に使う者が少なくない。その中で霊量子自体を何か別のエネルギーなどに変えて攻撃できる人物が何名かいるのを思い出し、彼らから話を聞けば新たな技術開発ができるかもしれない。彼は何か閃いたようであった。
「お、何かいいアイデア浮かんだか?」
「とりあえず外に出ましょ。ここはもう大丈夫だわ」
伯爵はハーネイトの顔を見て、これは何かいいことを閃いた顔だなとニヤニヤし、リリーが全員に外に出るように命じた。
「今日はこの場で解散しよう。君たちも学業や部活で忙しいだろうに、良く付き合ってくれるな」
「強くなりたい、俺たちはその一心で食らいついているんですよ先生」
「先生たちといると、退屈しませんし楽しいです。学業の方もきちんとしていますからご心配なく!」
「俺は部活が忙しい時は、力を貸せないかもしれないが行けるときはすぐ駆けつけるっす兄貴」
全員ができる限り協力してくれることにハーネイトはただただ感謝していた。彼らならばあと少しすれば新たな霊量技術を教えても問題ない、そう判断してから高校生たちに対しその場で解散し帰宅するように指示した。
「ありがとう皆。では今日は解散だ。よく眠るようにね」
「先生、また明日です」
「またね先生!」
翼と大和以外は全員帰宅し、ホテルの事務所までハーネイト達は帰還する。2人がついてきた理由は、ハーネイトに対し話があるからである。
「あれが、例の化け物……。どうでしたかね、ナビゲーターって様になってましたか?」
「貴方もなかなかですよ、冷静に指示を出せたのですから。いざという時はお願いします」
「父さん、まじで助かったぜ」
大和はまだ自分が、現霊士として覚醒していないことを気にしておりせめて今回のように手伝えればいいなと思い、どうだったか確かめる。
それに対しハーネイトと伯爵は、自分たちと違う目線で彼は指示を出して支援できていた。危険察知もなかなかいい線である。それを考慮してハーネイトは使えると考え、いざという時には代理の指示を任せると改めて伝えた。
「ああ、俺でよければ。……さあ翼、帰ろうか」
「そうだな親父。っ……お腹空いたぜっ」
「だったらレストランで食事をとってから帰るといい。シェフたちに連絡しておくよ」
「それは済まないね、ハーネイトは気配り上手だな」
それを聞いた2人は帰る準備をしてから挨拶をする。
「じゃあ兄貴……じゃなくて先生、またな」
「2人とも気を付けてくださいね」
「今後も頼むぜ2人とも」
そうして大和と翼はホテル2階のレストランで食事をとってから帰宅したのであった。
その後3人は事務所でコーヒーや紅茶を飲みながら一息つき、先に休息を取った伯爵とリリーをよそに、ハーネイトは早速霊量子で魔法を使う研究について計画を立てていたのであった。
翌日の朝、ハーネイトら3人はホテルのレストランで話しながら食事をとっていた。昨日の件について話をし、想定される事態について議論していた。
「初めてにしては上出来だったが、いやな予感しかしない」
「でしょうね、結構面倒だったし。まあハーネイトと伯爵ならどうにかなるわよね」
「簡単に言ってくれるなリリー、ったくよぉ」
「今回のは序の口だろう。向こうも多様な仕掛けや敵を配置して妨害を仕掛けてくるだろうね」
「そうなると本当に戦える人材がもっといるわね。霊量子を操り行使できる霊量士、霊量子を組み合わせ元素や物質を生み出せる創金士、霊量子で構築される具現霊による攻撃ができる現霊士。これら以外の攻撃は全て意味をなさないんだからねえ」
今回の調査で、まだほとんど足を踏み入れていない異界空間内の領域が存在しその入り口を守るかのように汚染地帯が構築されていたことから3人は、その未知の空間にこそ犯人たちの活動拠点があるのではないかと考えていた。
かつて彼の故郷AM星でも、暴走した古代人や血徒との戦いがあり多くの仲間が戦い抜いた。12のヴィダールの大神柱が眠りしオベリスクタワー攻略を実行したこともある。異界空間という領域を見つけそこから来襲してくる敵も多く倒してきた。
戦いに明け暮れる日々の中で戦闘術に関しては自分も含め今のところ問題ない。しかし今回のは、それらとはまた違う何かを求められる、そう彼は感じていた。
「……決めた、次元融合装置の使用準備に入る。私以外の先生に倣った方が効率よく技術を習得できる人もいるだろうし」
「実はホームシックだから仲間を呼ぼうってか?」
「伯爵、次言うと……!」
伯爵の挑発にハーネイトはむっとしてジトっと睨みつけた矢先、亜里沙がレストランに入ってきて食事をしていた3人に話しかけた。
「亜里沙か、何かあったのか?」
「いえ、皆さん楽しそうにしていますねと」
「それなりに……ね。しかし色々観光とやらをしてみたいのだが」
ハーネイトはこの土地についての情報をまだ多くは手に入れられていないため、時間の都合がつくときに実際に目で見て確かめたいと告げる。すると亜里沙はある提案をした。
「観光ですか、もし時間を言っていただければ私が各所を案内しましょうか?」
「そうだな、その時はよろしくお願いしよう」
ハーネイトはそれについて了承すると、亜里沙は別の話題を切り出した。
「あの……例の任務、どうでしたか?」
「思ったより状態は良くなかったが無事クリアしたよ」
「この世界の住民は思った以上に強いぜ、ハハハ」
「そうですか、あの、ハーネイト様」
「どうした?」
「修行の場所を用意すると言っていましたがいつまでに……」
亜里沙もまた、ハーネイトたちの任務を聞いて早く協力したいと思っていた。そして約束の修行場所について質問するとハーネイトは、
「……そうだったな。本当にすまない。地下一階の北側の大部屋、そこにあれを開いて、修練部屋を作る」
と言い、亜里沙たちの修行場所を作る旨をハーネイトは謝罪してから伝えたのであった。




