第48話 Aミッション初陣・2
「一気に仕留めた方がいいよね。さあ、覚悟なさい!」
「待て彩音、迂闊に近づくな!敵は範囲攻撃をしかけてくるぞ」
「彩音ちゃん、引くんだ!」
彩音は一目散に突撃を仕掛けるが、ハーネイトと大和はそれを止めようとする。と次の瞬間黒白は眩いほどのエネルギー弾を彼女に向けて放った。
「きゃあっ!」
「っ、紅蓮障壁!!!」
「せ、先生……!」
それをハーネイトは瞬時に展開した紅蓮の外套で防ぎ彩音の盾になった。恐怖で足がすくんだ彼女を大和は腕で抱き支える。
「大丈夫か彩音」
「は、はい!大和さんありがとうございます。あの、先生の方は……?」
「大丈夫、なんともないよ。こうやって味方を守るのがシールダークラスの役割だ。まあ私はマスタークラスというか、オールラウンダーなのでね」
「そ、そうですか。……今のはよくなかったわね、もっと敵を見ないと」
「相手はそうやすやすと勝たせてはくれないぞ、皆、深呼吸して心を落ち着かせるんだ」
ハーネイトは自身を気遣う彩音に対し、自身はクラスの役割に徹したまでだと言いながら防衛を担当するクラス、シールダーの説明を行う。
その間に大和は他のメンバー、特に響と翼に対し一旦頭に上った血を冷やすんだと指示する。
「そうだな親父、ふう……あの野郎、何かを守っているような感じだぜ。射線に入るとエネルギー波か」
「それに向こうが受けた傷が回復している。恐らく結界の影響か、それとも……」
彩音の手を取り黒白の射線から退いたハーネイトは、伯爵と今起きたことについてすかさず分析し結論を下す。
「てことは、まだあそこに3つあるけど全て壊せば」
「それで結界による支援及び侵入不可の状態は解除されるとみていい。既に50%は切っているが、10%以下になるまで引き続き石碑の破壊と獣の駆除を!ついでに何か使えそうなものが落ちてたら拾ってきて」
ハーネイトはいつになく勇ましく命令を出す。それを聞いた響たちは一斉に残りの結界石や魂食獣に攻撃を仕掛け、これを撃破していったのであった。
「結構骨が折れるなこれ」
「はあ、でも大分このエリアも楽になってきたわね」
「相棒、この結界石とやらは誰が設置したんだろうな」
結界石を壊すたびに、このエリアを満たす気運の濃度が比例して減少する。それを体感しながら伯爵はこれらを置いた犯人についてハーネイトと話をする。
航空偵察および分析の結果ハーネイトは、この結界石自体にも幾つか機能が搭載されていると推測する。
それは、そこを起点に気運汚染や魂食獣の出現、防衛対象を守る結界の構築が行われていることであるという理由であり、全て壊さなければ再び神柱級の気運汚染でここが危険な領域に戻ると彼は説明した。
問題はそこまでやる目的がまだ完全に判明していないことであったが、すでにハーネイトはこの気運を用いて他の生物を汚染し、支配もしくは神柱が封印から復活する儀式に必要な生贄にするのではないかと言う。
伯爵はそれも恐ろしいが、この気運自体が対策を取っていない者が徐々に触れると生命力を奪われていく力を持っており、そのやり方がやはり血徒のやり方と似ているなと思い不快感を示していた。
「皆さん、このエリアの汚染率がそろそろ10%を切ります。敵の射線上に極力立たないように接近し、あの獣を撃破してください。攻撃予兆と範囲はこちらで分析し随時表示するのでそれを活用してください」
「了解しました先生!それなら安心ですね」
「んじゃブッ倒すまでだぜ響!」
このエリアを恐らく支配しているこの魂食獣を倒せば終わる、そうハーネイトは命令し全員対ボス戦に移行させる、
「響、翼!敵の攻撃が来るわよ!」
「分かったって彩音、支援を頼む」
「はいな!」
彩音は早速音の力で黒白の動きを鈍らせ、彼女の背後から同時に2人が飛び道具となる投擲刀とプロミネンスボレーを食らわせて大きくよろけさせる。それを見るな否やリリーと伯爵は息の合った連携で怒涛のラッシュを決める。
「ここで一気に行くわよ!大魔法雷の3式・電縛刃!」
「ブッ醸すほどグレイトォォ!サルモネラブレイザーーー!ついでにこれも冥土への駄賃だぜ!醸せ、菌幻自在!」
黒白は暴れながら周囲を攻撃するも事前にハーネイトが全員に攻撃予測データを送っていたため届かず、遠距離からの一撃で相当体力が削れ弱っていた。
「おい、敵が最後のあがきを見せるぞ!射線から引くんだ!」
「翼、響くん、もう少し左に寄るんだ!」
黒白は消えかかりながらも、最後の力を振り絞りエネルギーの奔流を口から強烈に吐き出した。だがそれもハーネイトと伯爵の前には無力であり攻撃をすべて吸収する。
「げっ、あんな攻撃を全部受け止めるのかよ兄貴たちは」
「やっぱり人、ではないんだよね……でもすごいわ!
「止めは俺が行く!先生、援護を」
「特別支援攻撃か。いいだろう、行くぞ!」
響は言乃葉と共に突貫し、ふらふらと立ち上がる魂食獣に対し斬りかかりながら吹き飛ばす。
「言呪・解!これで最後だ、剣の嵐が貴様を喰らう!飛刃斬!!!」
「刀を高速で投擲し切り刻むか、ならば私はこうだ!創金剣術・剣雨」
響は最後に、確実に止めを刺すため敵の防御を下げる言霊呪術と言乃葉の戦技を組み合わせ使用し、ハーネイトはナビゲーターの特別支援攻撃という形で剣の雨を無数に降らせる。
さながら豪雨のようなそれは無慈悲な一撃であり、響との同時攻撃にて装置を守る魂食獣・黒白を華麗に撃破したのであった。
「相棒、あそこに妙な装置があるぜ」
「ああ、あれが親機のようだな。機能停止させる!」
「げっ、お前ら引けやぁ!」
「ちょ、自爆???」
消えた黒白の背後にそびえたつように置かれた巨大な何かの発信機。ハーネイトと伯爵でそれを停止させたところ自壊するような形で装置は爆発したのであった。するとたちまち残っていた気運も消滅し、この亀裂内の脅威は消滅したのであった。
それに合わせて、装置の向こうには広大な空間が広がっていた。まだハーネイトたちも調査できていない領域であり、今回ミッションを行った場所はもしかすると敵組織の居所へとつながるかもしれない場所だと考えたハーネイトと大和はすぐに話をし、ここにすぐ移動できるように記録と目印を付けたのであった。
「状況終了、思ったよりやれたな」
「なんだか、一種のゲームみたいね、こんな言い方するとあれだけど先生」
「……いや、あながち間違ってはいないかもな彩音。あまり気負わず作戦に参加する方が、色々いいかもしれない」
「そ、そうですか……はい」
「私たちがついている、君たちのやるようにやってみるといいさ」
ハーネイトは今回の任務が無事完了したことを全員に告げた。それに対し彩音は思ったことを口に出しながらもどうかと思っていたが、先生であるハーネイトも同感だと言ったことにほっとしていた。
「んにしても、なかなか妙な敵が湧いて出てくるな。霊量子の塊ってなら、集めれば霊量子系の研究は捗るよなあ」
「そうね、それともう少しサポーターらしいことできればよかったわね。魔法が故郷と違って思うような威力で使えないのが残念ね」
浄化された空間を見ながら伯爵とリリーは今後も同様の任務が起きるだろうと踏んで今回の反省について後で話そうとしていた。
「伯爵さんもリリーさんも、強いですね……」
「当たりめえだろ響。だが、お前らも以前よりかなり強くなったぜ。俺が認めるんだからな。デバフと剣技、いい組み合わせだ。彩音の音攻撃も、翼の火炎攻撃も頼もしいなあへへへ」
響の言葉に伯爵は大笑いしながら以前よりも強くなったことについて素直に褒めていた。
「リリーさんのあの魔法っていうのか、俺たちは覚えられるのか?」
「さっきの雷の刃?えーと、みんなは自分の具現霊の力を高めた方が効率がいいと思うわよ。大魔法って扱える人が、あまりいないのよね。魔法協会って組織が開発しているんだけど……」
「何だ、気になるのか皆」
思っていたよりサポートがしづらく少しため息をつくリリーの周りに、響たちが集まるのを見たハーネイトは、大魔法について簡潔な説明を行った。
「あれは魔粒子というエネルギーを用いて行う自然現象の再現だが、先に霊量士になった君たちには……」
「ど、どうしてもだめなのですか?」
「全くできなくはない、ユミロやリリエットはそれでも覚えきれたが……時間の無駄というべきか、効率がその……」
ハーネイトは響たちに対し、なぜ霊量士は大魔法をうまく使えないのかについてどう説明していいか久しぶりに困惑していた。




