第47話 Aミッション初陣・1
作戦領域内を各自見回すと、ヴィダールの神柱・ソロンの物と思われる気運で空間内の至る所が汚染されていた。
「幸い、あれからほとんど汚染範囲は変わっていないな」
「だけど、早く処置しないと気運が自分たちの世界にまで入ってきますからね」
「ああ、早急にこのエリアの汚染を浄化し、あそこにある装置を破壊または回収しないといけない。もしかすると敵の拠点と繋がる道がどこかにあるかもしれないが……」
汚染範囲の酷いところとそうでないところがあり、ハーネイトはそれを確認するとどこからともなく無人偵察機を召喚し飛ばし、5分ほどかけて情報を収集する。
ハーネイトは一応魔法使いとして名が通っているが、機械や銃なども魔法と組み合わせ使う最新な魔法使いでもある。
バイザーカーニアと呼ばれる魔法秘密結社にて、特別魔法教官を担当している彼は、魔法の発動に必要な魔粒子を動力源にした魔法機械の製作などにも長けており、機械と魔法の融合を極めようとする若い魔法使いから絶大なる人気があるという。今飛ばしているのも、その産物と言える。
「っと、これでいいな。各員、まずはCデパイサーを見てくれ。私が今集めたエリア情報を確認するんだ」
「了解だハーネイト。うひゃあ、これは……お守りってのがあっても入りたくない場所だな。この紫色で表示されたこれは」
「これが汚染された領域……どうすればこれを……?」
彩音はそれを見て、どうやってきれいにすればよいのか理解できず戸惑っていた。しかしハーネイトの指示を聞くと彼女は納得した。
「では作戦を開始する。まず君たちは近くにある、気運で汚染された床の前へそれぞれ移動してくれ」
「了解した先生」
「行くわよ!」
各自リーダー兼ナビゲーターであるハーネイトの指示に従い、先に響、彩音、翼、伯爵が前に進み任意の場所で立ち止まる。
「そこで立ち止まると、やはりな、下級魂食獣だ!全員迎撃してくれ」
ハーネイトの指示通り、汚染された場所に近づくと待ち伏せの如く魂食獣が突然出現した。すると響たちに向かって鋭い爪で襲い掛かろうとする。
「言乃葉、あれをやるぞ!」
「有無、旋風斬……!」
「邪魔よ、吹っ飛ばす!!!!」
「うらうらぁ!ロナウ、サウザンドバーニングキックだ!」
響は言之葉に指示を出し、旋風斬で獣を切り刻む。彩音と翼も同時に襲い掛かる獣を撃破した。
「ギャアアアオオオォォォ!!!」
「ふう、なんか倒したら少し楽になったな。まさか……」
「こっちも同じよ、少し気運が薄れた感じね」
響たちは魂食獣を撃破した途端に先ほどから体に受けていた圧迫感が少し薄れたことを感じ、全員が同じ感覚を味わっていたことを理解した。それを聞いたハーネイトはある結論に行きついた。
「そうか、魂食獣もまた霊量子の塊……倒した際に放出されたそれは気運と干渉しているな。浄化し続けていけばもっと良くなる。それ、と!霊量子回収だ」
ハーネイトは大和に対し観測を怠らないようにと指示を出してから、響たちが倒した敵が放出する霊量子をCデパイサーで吸収していく。
「どんどん集めていこう。研究開発に霊量子ことCPは欠かせないのでね」
「そうすか、んじゃかたっぱしから消しまくればいいんだな兄貴!」
「少し待て翼、あれは……ああ、その石碑みたいな代物が発生源の1つみたいだ。今なら近づけるはず、翼と響で先行してあれを破壊してくれ。伯爵はリリー、彩音ともう一つ見えるあの石碑を破壊してくれ」
ハーネイトはマップの分析結果を再度Cデパイサーに手早く入力し、作戦に参加している全員のCデパイサーに戦略データを送信し共有した。
これによりチーム員全てが残りの浄化率と結界石などの情報を速やかに把握できるようになった。
ナビゲーターの基本任務は、戦域管理に尽きる。もし苦戦している場合は、特別攻撃命令を使用し戦線を引き上げたり回復支援なども状況に応じ使用しないといけない。
総じて、前線での経験と広範囲を見渡し分析する力が問われるクラスである。そのためか、このナビゲーターになれる人材は万年不足気味だとハーネイトは言う。
「やはりこの男、できるな。さあ、俺もこういうことできるようにしないとな」
ハーネイトの後ろで大和は、彼の仕事ぶりを見ながら自身も早く貢献したいと思っていた。しかし自分はまだ目覚めていない以上、ナビゲーターとしての役割に当分徹した方が良いと考えしばし黙って、ハーネイトの行動を逐一観察していた。
「了解、さあ行くぞ!」
「オーケーだ相棒。彩音、リリー、一気に仕留めに行くぜ!」
各自ハーネイトの指示通りに展開し、二手に分かれ結晶石を破壊する。しかしその前に、石を守る魂食獣が現れ立ちはだかる。すると敵意むき出しで響たちにすかさず襲い掛かってきた。
「やはりか、少し大型だが、俺たちの敵ではないな!」
「プラージュシュートォ!!!」
「疾風斬!」
「グギャルルル!!」
翼はそれに対してロナウの力を用いて、太陽の力を秘めた火炎弾を脚から蹴るように放ち獣の体を激しく炎上させる。それに止めを刺すかのように響も素早い斬撃を言之葉から射出しバラバラに引き裂いた。
「俺がひきつける、2人であれを壊せ!」
「ギャオ、ギャオ!!」
伯爵たちの前にも鳥潟の獣が立ちはだかる。だが伯爵は笑いながら自分が囮になると言い、彩音とリリーに石の破壊を命令した。
「っせえんだよ!菌弾!(ヴァイラスバレット)」
「今よ彩音、大魔法火の1式、相炎走!!!」
「せいぃいいい!音響撃!これでおしまいよ!」
「そっちもぶっ壊してあげる。大魔法火の6式・發火止!」
その連携はうまく決まり、伯爵は確実に獣の頭を菌の塊で打ち抜いた。リリーは魔法、彩音は弁天と力を合わせ堅牢な結界石を容易く破壊する。
「みんな、やはりその石碑が一つの原因だ。しかも結界と連動している。ほら、あれを見てくれ」
チームの様子を観察しながらハーネイトは装置付近を守るかのように展開されている怪しい光の壁も監視していた。その光が揺らぐのを確認し、伯爵たちに情報を伝える。
「ん、確かに弱まっているな、んで奥にいるのは、黒白か!」
「今回のボスがあれってわけだな先生」
「あれが、村を襲った魂食獣……?」
その結界の奥には、狼型の魂食獣黒白が、背後にそびえたつ装置を主人であるかのごとく、守るように立ちはだかっていた。




