第46話 アペリエンスミッション始動!
「それと別に、まだ霊量士、というか現霊士になって間もない亜里沙さんと、九龍・時枝・間城・五丈厳は街中の調査をお願いします」
また、ハーネイトはまだ現霊を獲得してから日の浅い人たちに対して別の指示を出す。今回のAミッションはある程度具現霊の扱いに慣れて初めて参加できるからである。
「そうですか、それがベストな判断だというならば従うまでですね」
「そうね時枝君、私たちは見回りとかそっちで貢献しましょ?」
「兄貴の指示なら仕方ねえな、俺も早く戦いてえ!」
「ケッ、足手まといは今回来るなってか?まあいい、何かあったら連絡よこせや先公」
九龍はうずうずしていることが分かるようなことを言い、五丈厳はイラついたようにそう言い啖呵を切る。
「今回は調査を主軸とした任務なのでね。ある程度分かった時点で君たちにも参加していただく形になる。各場所における異界化および異界亀裂による影響を減らし、多くの人の安全を確保するうえでも大切な作戦だ」
ハーネイトはそう言い今回の目的を説明した。それを聞いて五丈厳はおとなしくなり、間城はとても興奮していた。彼女はこういうのが好きなようである。
しかしそもそも、彼らはまだどのような適性があるかハーネイトと伯爵は評価できていない。少しずつ捜査が進展してきているとはいえ未知数な点が多いため、いつもより慎重に事を進めていた。
「内部調査というわけですか、先生」
「私気になるなあ、動画に撮りたい!ってやっぱだめだよねえへへ」
「今は、耐えるときということですねハーネイト様。一応私たちはその気運というのが亀裂の外に漏れていないか調べておきますわ」
「本当に済まないね君たち。まだそれぞれ固有の技能を正確に把握できていないからな……。私の仲間を呼べるようになればその人たちから技術を習い参加できるようになるが、まずはどのような行動が得意か、具現霊と対話して打ち合わせをお願いします」
ある程度戦闘経験のある人たちならば、まだ連携がうまく取れなかったとしてもある程度現場で調整はできる。
しかしまだクラスに関して素質評価が終わっていない彼らを連れて行くのは不安であるとハーネイトは思っていた。そのため、現霊士になってすぐの人について、自身ともう一度向き合い何が得意かを自己分析するようにと指示を出していたのであった。
「2人とも、俺はどうすればいいんだ?」
「大和さんにはナビゲーターの補佐として私の仕事内容をよく見ていてください。場合によってはという場合もあるので」
大和はそれを聞いて、自分にも今できることがあると自覚し快諾したのであった。
結局参加するのはナビゲーターとしてハーネイト及び大和、リーダーが伯爵、リリーがサポーター、響と彩音、翼がアタッカーとする合計7人であった。ハーネイトと伯爵はマスタークラスという、どのクラスの仕事もこなせるクラスであり、戦闘実演をハーネイトが行った後は大和が指揮をすることになることを打ち合わせたのであった。
九龍たちはその後ホテルを後にし、自宅で各々がCデパイサーや瞑想による自主練を行っていた。
「俺も、早く彩音たちに追いつきてえ」
「焦るな、鮮那美。足手まといになるような真似をするな」
「そうだな、マスラオ。っしゃ、修業するぜ!」
九龍は家である九龍ジムに帰宅すると、食事や風呂を済ませてから体を鍛えつつ心の中でさらなる高みを目指そうと意気込んでいた。それにマスラオは焦ることはない、じっくり力をつけることだと彼女を諭し、それに納得した彼女はハーネイトたちから教えてもらった方法を試すことにしたのであった。
「父上、私も正式にあの人たちのもとで活動したいです」
「うむ、彼らの監視の方、頼んだぞ亜里沙。少しでも困っていそうならば手を貸してやってくれ」
「はい、分かりましたお父様」
「妹よ……あの男たちが言っていた修行法、試すぞ」
「そうね、私にもできることを」
その頃亜里沙は宗次郎と食事をしながら、ハーネイトが新たな作戦を打ち出したことについて報告していた。宗次郎はいつも通り彼らを見張っていてくれと言いながらも、できることがあれば惜しまずに協力するように娘にそう言う。
その後食事を終えると亜里沙は心の中で、兄の魂を宿した碧銀孔雀に促され部屋に戻り次第修業を本格的に始めるのであった。
「ったく、いまいちバイトも身が入らねえ。だが、思う存分暴れられるってのは悪かねえな」
「お前は昔から変わらないな」
五丈厳はバイトを終え帰宅中、具現霊スサノオと心の中で対話していた。
最初は巻き込まれて力を発現したことについて納得がいかなかったものの、ポジティブに考えいつでも戦えるようにと意気込んでいた。その鋭い瞳がきらりと光る。
「スサノオ、そう言って貴様もうずうずしてんだろうが」
「ばれたか、フッ」
「……とりあえずジムで鍛えながら瞑想でもするか」
元々喧嘩友達だった須佐野だったが、それは具現霊になろうとも変わらず互いに気持ちは同じだと思いながら話を続けて、その上で五丈厳はジムに行って汗を流そうと、行きつけの九龍ジムに足を運んだのであった。
九龍と五丈厳は小学1年生からの幼馴染でもあり、2人は小さい時からそれぞれいろんな意味で名を馳せていたという。
「思ったより事態は深刻だな間城」
時枝と間城はハンバーガーショップで夕食を取りながら話をしていた。邪神の気運とは何なのだろうか、新しい脅威の話についてしばらく話したのち間城はそれらをまとめる。
「でも、見過ごせば、ね。すべての謎、解き明かしましょ?」
「ああ、その通りだ。さあ、帰ったら早速対話と瞑想だ」
「そうね、じゃあ店を出ましょ!」
2人とも能力向上のためにやれることは何でもやると決意を固め、それぞれ自宅に戻ると落ち着いてから静かに自分との対話をするため瞑想を行い、どのクラスでの役割が最も自分に適しているのか考えていたのであった。
「伯爵、例の場所はここだな?」
「ああ、奥からにじみ出てくるのが分かってくるぜ」
「ええ、何だか怖いわ」
その頃ハーネイトたちは、気運の影響を受けているその場所まで移動していた。既に亀裂の外にほんのわずかだが気運が漏れ出ている。放置すれば多くの生物の命が危険に晒される。今まで以上に気を引き締めていくぞと全員腹を括る。
「でも、行くしかないんだろ先生」
「さっさと攻略して帰ろうぜ、響」
「ああ、いつでも準備はできている!」
集まったチーム全員の士気は高かった。本格的な任務に就けるとあって、高校生たち3人は気力体力共に万全の状態でここにいる。
それを見たハーネイト達は問題ないと見て、改めて亀裂のある方向を見て状態を確認する。それからタイミングを窺うと全員で汚染領域内に突入したのであった。




