第44話 創金術での金策と不吉な血徒の活動
「それで、本当にあれらと戦うのかい?」
「ああ、俺は事件の真相が知りたいんだ。あの日喧嘩していた中親父は仕事を全うするため飛び出て、そのまま帰ってこなかった。気に食わねえ親父だったがよ、いなくなって初めてありがたみが分かった。親父をあんな目に合わせたやつを、俺は倒す」
九龍はあの日のことを思い出しながら、自分のような思いを、誰にもしてほしくないと強調し皆を守りたい、その力が欲しいと訴える。
亡き父が、災害から多くの人を救ってきたように、自分もそうでありたい。それが彼女の気持ちであった。
「昔から見えていたんだ、見たくねえものがよ。俺は友を見殺しにした。んでよ、あれからあんな化け物にビビッて今まで生きてきた。だが倒し方があるなら、俺はあいつらをすべて倒す。俺は恐怖を乗り越えてえ……!昔の俺と、訣別してえんだよ!」
勝也は、今まで自分はあの時からどこか逃げていた。事実をどこかで受け入れられなかった自分がずっと嫌だった。だが、どこかで折り合いは、けじめはつけないといけない。今がその時なら、もう迷わない。彼の決意はまるで鋼のように硬かった。
自分は自分可愛さに事件の証拠を消し保身に走り、被害者を黙殺させる大人たちは大嫌いだ。だが今目の前にいる男は今まで見た大人たちとは違う何かを持っている。もう一度、誰かを信じてみようと思い改めて、ハーネイトに対し仲間にしてくれと頼んだのであった。
その姿を見たハーネイトは、昔のことを思い出し少し表情が暗くなる。もうあんな思いは自分だけでいい、なのになぜまだ苦しむ人がいるのか。そう思うと胸が痛くなる。
「……分かった。だが無茶をするなよ。命あっての戦いだからな。私たち大人が本来、率先して解決すべき案件なのだが……もどかしいな」
意気込みはよく伝わったが、大切なことは戦いにおいて無事に全員で帰還し、目的を果たすことだとハーネイトは2人にそう教え、その上で自身の心境を明かす。
「人手が、足りねえのはあいつらから聞いた。動けるときは、あん中に入って見てきてやる。先公は、先公のやるべき事をしろよ」
「んだな勝也。俺もいろいろやることがあるけど、できるだけ調査とやらには参加するぜ」
「ああ、その時は頼む。というわけで、更に仲間が増えたわけだが亜里沙さん、問題はなさそうか?」
2人の言葉にハーネイトは少し微笑み、その後亜里沙に対し話しかける。
「何の問題でしょうか」
「この施設に関しての運用面での話です。人員の数がこの先更に増えても受け入れられるキャパシティ、というものが大丈夫かというあれです」
ハーネイトは、これから自分たちの部下もここに連れてきたいと考えており、その人たちの寝泊まりする場所などについての話を亜里沙に行いその答えを聞くのであった。
「今のところは大丈夫でしょう。父上も、ホテル内の部屋に関して一般客に影響がなければ使用してかまわないとおっしゃっていますし、地下の方はホテルの敷地をはみ出さない限り拡張できるならしてもいいと」
亜里沙は父である宗次郎からの伝言も合わせ、ハーネイトたちがこの世界でのルールを順守する限りできるだけ好きにやらせてみたいことと、今後自身も直接依頼を出すことがあるという話を彼に伝えた。
「それともし、その気がおありのようでしたら私たち刈谷グループの所有する施設を提供いたします。父上は、貴方たちの活動に非常に興味を持っておられますし、できる限りの支援は行うと。何なりと申し付けください」
「は、はあ。そこまでねえ、まあ、できる限りスポンサーの要望に応えられるよう努力しますよ」
亜里沙や宗次郎らの支援の手厚さにどこか違和感を覚えつつも、ハーネイトは利用できるものは最大限利用するというスタンスを崩さず営業スマイルで対応する。
その時事務所のドアをノックし、大和と宗次郎がアタッシュケースを手に持ち部屋に入ってきた。相当重たそうにしており、ハーネイトは持つのを手伝い近くにあるテーブルにそれを静かに置いた。
「っと、大和さん。ここの場所まだきちんと教えていなかったのによくわかりましたね」
「宗次郎さんが直接教えてくれたのでね。ほら、運用資金だ。換金してきたから確認してくれ」
「うむ、しかしそのような芸当までできるとは、驚きだ」
大和はそのケースを開ける。すると札束がぎっしりと詰められていた。およそ一億を大和は換金してきたのであった。もちろんハーネイトが創金術で生み出した24金によるものである。
「そのために動いていたのですね、ありがとうございます」
「うひょおお!流石創金士だぜ、パーっと使いてえなあ?」
ハーネイトは代わりに行ってきてくれた大和にお礼をしいつの間にか戻ってきていた伯爵はというと札束を手に取り目の色を輝かせていた。
「伯爵、それはまだ駄目。後で協力してくれているみんなに配らないとね。一応雇用契約の形を結んでいるからさ。もちろん大和さんも受け取ってください。給与という形であれなんですが」
「本当に恐ろしいなこのお方は。大和君から話を聞いたときは信じてはいなかったが、うむ。その力をこれからも貸して頂きたい。それと、新たな仲間ができたようだな」
宗次郎は大和から聞いた、空気中から金を生み出した話に最初半信半疑だったが事実であることを確認し驚愕していた。
霊量子という物質から原子、元素を組み物質化させる技術は、もしかするとある問題を解決できるかもしれないと彼は考えつつ、今回の一件に関してもハーネイトたちの活躍をねぎらいながら事件の影響について懸念していた。
「あの時の被害者ですよ。やはり何らかの影響を受けていますね」
「俺も瞑想とかしているが、まだあれだな」
「時間をかけてでも慎重にしてください。焦るのは危険ですし」
「大和は情報を集めていればいいんだよ。蹴散らすのは俺らでできる」
大和は焦っていた。確かにあの時傷を受けた。しかし幻聴などがまだ聞こえる気配がない。それについて話すとハーネイトと伯爵はそれぞれそう言いアドバイスしたうえで、年齢が高いほど一般的に幻霊が出てくるのが遅い傾向にあるという研究結果を彼に教え安心させようとしていた。
「そう、か。ありがとう2人とも」
「いえいえ、当分はそれでお願いします。異世界から来たゆえ、できないことも多くてつい大和さん頼みになってしまいますね。しかし私が前に出なくてもやれそうなまでに皆さん、実力がついてきた」
「そうねえ、みんなよくやるわよ」
ハーネイトも伯爵も、この星の人たちが持つ潜在能力の高さに驚いていた。予想以上に霊量士になった人の数が多いうえに戦闘などに関する技量も持ち合わせている点を評価していた。
「では俺は街の調査に出向いてくる。どうも隣町でもあれが出ている目撃証言がある。集めてから持ってこよう」
「ではお願いします。私たちは気運の回収と汚染された場所の事前偵察を行います」
「分かった、お互い気を付けて動こう」
「相手が相手なのでね、うまく立ち回らないとな」
「ということで、後は皆さん自由にしていてください。近いうちに、作戦の詳細を伝えますのでそれまでは準備期間ということでよろしくです」
そういい大和は部屋を出て、隣町の方まで足を運び独自に情報を足で稼いでいた。
ハーネイトたちは今日の今後の予定を決め、Aミッションという除染浄化任務に必要な現地の情報収集と汚染している気運などについてのサンプル回収を行い、高校生たちには何時でも万全の状態で作戦に臨めるようにと指示を出しておいた。
「今回は俺たちだけで行こう。何があるか分からない」
「まあたまにはな。んじゃ飯食ってから行こうぜ」
「はーい分かったわ」
そうして彼らは一旦ホテル2階のレストランで食事をとってから調査を再開したのであった。
その頃、異界空間内ではある赤いドレスを着た女性が歩いていた。手には大きな日傘のような、先端が銃剣となっている仕込み傘剣を持ち威風堂々とした歩き方が目につく桃色の髪が美しいその女性は、どこかイライラしている様子で周囲を探索している。
「全く、あの2人はどこにいるんだか、もう!私は探索苦手なのに」
彼女はそう叫びながらも至って真面目に周囲を調査しつつ警戒していた。
彼女の名前は、エヴィラ・ブラッドフォルナ。見た目こそ貴婦人のような物であるが、これは実質アバターという存在に近い。彼女は人間ではなく、ウイルス系の微生界人なのである。
その上実は彼女、あの伯爵たちが行方を追っている「血徒」の元最高位、つまり王でもある。
と言っても既にその地位を降りているので元女王なのであるが、未だ実力は全く衰えていないどころか霊量術及びU=ONEという能力のおかげでけた違いの破壊力を持つ存在である。単純火力ならハーネイトをわずかに上回るほどには出せるというから、その恐ろしさがよく分かる。
これだけ聞くとかなりの危険な存在であると認識せざるを得ないが、これでもハーネイトたちの仲間であり、離反者を出し、それらが作る組織が世界を壊そうとしていることについて止められなかった自身の罪を償うため、それにハーネイトたちへ恩を返すために彼女は放浪し戦い続けているのであった。
彼女は、ハーネイトの過去についてよく知る人物の1人である。そう、ハーネイトの初恋の人にして、恩師である女性を殺した犯人を知っているのである。それは、彼女の妹でありハーネイトの心が酷く歪んだ一件を知ってから、彼女は彼のために犯人を追っているという。
そんな中、彼女の前に一匹の獣が立ちはだかる。彼女よりも背丈が2倍近く大きいそのライオンのような見た目の獣は、人語を話しながらエヴィラを食い入るように見る。
「ウマソウダナ、ジュルルル」
「魔獣ね、ふうん。血徒の刻印が出ているなら、引きずり出すまで!」
「ギャオオオオン!!!」
自身を襲おうとする魔獣の首には、血徒感染者だけに現れる刻印が見える。それを確認できる存在は非常に限られているがもちろん彼女には全てお見通しである。
ライオン型の魔獣は前足の爪で彼女の胴体を引き裂こうとしたが、次の瞬間全身を赤い糸で縛り上げられ拘束されたのであった。
「弱いわね、血禍刺糸!」
「グルルルッ、グッ!!!」
「藻掻くほど苦しむわよ?さあ、出てきなさい!」
魔獣の動きを拘束してからエヴィラは、魔獣の胸に手を伸ばし体内に差し込む。
すると何かを引きずり出し、強引かつ豪快にそれを自身の後方に放り投げたのであった。それと同時に魔獣は絶命し、その場に横たわる。
「あら、裏切者発見。さあ、覚悟はできているのでしょうね?」
「何をとぼけた真似を言う貴様ぁ!俺がジステンパー様であることを分かってのこと……なっ!お前は女王っ!」
「遅いわ、血禍呪剣・血斬舞!!!」
「そんな、ばかなっ、あのお方らが、亡き者にしたんじゃ、ないのかっ、ぐぬぬ」
魔獣から引きずり出されたそれは、人のような何かでありふらふらと立ち上がりエヴィラを睨むように見て啖呵を切る。
彼はウイルス系微生界人のジステンパーと名乗りまだ抵抗の構えを見せる。だがそれを彼女は一撃で粉砕する。傘剣の先端から赤いエネルギーソードを展開すると、一瞬で数回その場で周りを切り裂く。
その攻撃を受けたジステンパーと名乗る微生界人は、一気に肉体を傷つけられ膝をついてしまったのであった。
「フフフ、それにしても本来血徒でない貴方が、何故あいつらに加わっているのかしらね、白状してもらうわ」
「っ、原初にして、究極……その存在があれば、神をも、堕とせるっ……なぜ、分からぬ、がはっ!」
エヴィラの質問に対しジステンパーは、血徒に入り計画に協力する見返りに限界を超えた力を授かり、本来感染しても無症状である人間相手にも醸して分身、もとい眷属を増やせるようになるようになりたいと自身の狙いを話す。
だがその方法はほぼないようなものであり、確かに第1世代神造兵器の力を使えばそうなれるかもしれない、そういう伝承はあるのをエヴィラも知ってはいる。
だがそれが封印されていた理由を知っているため、自分たちの種族では兵器の完全制御はまず不可能であると理解していた。
しかし血徒のほとんどは、その事実を知る機会がなく自分たちならそれを可能にし、自分たちをあえて不完全に作った存在を抹殺し世界を代わりに支配できる。そう考えていたのであった。
「分かっていないのはそちらの方よ。あのヴィダールでさえ、生み出した神とやらでさえ手に負えないその兵器を封印し、その管理をするため微生界人は生み出されたのよ。まともに制御できる保証なんて、ないでしょう?」
「な、そんなこと、信じられるかぁ!あのお方は、そんなことを」
「信じるも何も、それが事実なのよ。さあ、眠りなさい」
エヴィラは容赦なく血徒に加わった存在も切り捨てようとする。だが邪悪な神気を感じ一瞬手が止まる。その隙にジステンパーは瞬間移動でもしたかのようにその場から姿を消したのであった。
「ちっ、今のは何よ。っ、この先に何かあるわね」
仕留め損ねたことを残念がるも、今感じた気は只者ではない。ヴィダールの神柱級である神気の力強さと負の怨念、それにわずかに混じる同族の匂い。彼女は感じた気のある場所に急いで向かう。
するとそこには、当たり一面例の気運で汚染された空間が存在していた。
「うわぁ、これはひどいわね。……こんなやり方をするの、血徒以外にはいないんじゃない?汚染、もとい領域を広げ地と血を支配する。……不愉快ね、元血徒の王である私が言える義理ではないのだけれど」
まるでその汚染具合ややり方が自分たち血徒が昔やっていたような物であり、明らかに元仲間が関与している可能性があると分析し憤るも、自分たちもまだ力の制御に慣れていないときはこのようにして勢力を広げていたなと思い返すと失笑する。
「2人に連絡しておきましょう。と言ってもそろそろこれに気付いているかしらね。あー、早くハーネイトに会いたいわ」
エヴィラは一旦その場から立ち去り、以前ハーネイトから贈与してもらった少し旧式のCデパイサーでメールと手に入れた情報に関する写真などを合わせてハーネイトと伯爵に対し送信したのであった。
その後も彼女は、自由気ままに異界空間内を探索しては巨大な怪物や魂食獣と戦いそれを食していたのであった。




