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レヴェネイター  謎多き魔法探偵と霊量士(クォルタード)の活動録  作者: トッキー
第1部 邪神復活事案 レヴェネイターズ始動!
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第40話 移転後初の来客者


 朝になりハーネイトは、身だしなみを整えてから朝食をレストランで食べる。


 外の景色はとても素晴らしく、眺めながらパンとソーセージを食べ、リリーは牛乳を飲みながら伯爵と話をしていた。

 

 既にホテル自体は開業しており、多くの宿泊客が食事を取り自由にしていた。中にはハーネイトたちの姿を見て違和感を覚える人たちもいたが、これから忙しい人たちは気にしなかったことにして部屋に戻っていた。


「しかし、思ったよりも良いところだな。これを機にさらに勉強しておくか」


「本当にハーネイトは真面目ね。そこんところは伯爵も見習ってほしいわ」


「ふん、俺だって一応してるっつの」


「そうには見えないわねえ」


 今拠点を置いているこのホテルの評価と、自身の経営していたホテルの比較をしながらハーネイトは平和な朝を実感し、伯爵とリリーは相変わらずのやり取りを繰り広げていた。


「言うじゃねえかリリー、久しぶりに勝負するか、ああ?」


「そんなこと言っている間に、誰か来たようだ。出迎えてくれるか?」


「へいへい、行くってよ相棒」


 朝早くから来客者がいるとCデパイサーを通じて亜里沙から連絡があり、急いで残りを食べて3人はホテルのフロントに向かう。そこには彩音たちと同じ制服を着た、茶髪の髪をポニーテールにまとめた少女が待っていた。


「あ、あの、ここが新しくできた探偵事務所、ですか?」


「……確かにそうだが、看板はまだ用意していない。さて、どこでこの事務所のことを聞いたのかい?お嬢さん」


 ハーネイトは一目見て、あの事件の被害者の1人であることを理解したがそれでもなぜ、ここが分かったのかが疑問であった。彼の質問に彼女は彩音からここの話を聞いたことを話した。

 

 一通り簡潔に話を聞いて理由が分かったのでハーネイト達は、丁重に事務所に彼女を連れていき全員でソファーに座りながら彼女の相談を聞くことにした。


「それで一体この探偵事務所に何か御用でしょうか、お客様。一先ず、自己紹介でもして頂けると有難いです」


「分かった、俺は九龍鮮那美くりゅう あざなみ。九条学園高等部で柔道やってんだ……。あの事件の後、変な声が聞こえるようになってさ。それが、4年前死んだ親父の声に似ているんだ」


 それを聞いた3人は、彼女も事件の影響で感知能力が上がっているのではと思い話を進める。


「死んだお父さんのか?……もしかすると、事件に巻き込まれた影響かもしれないな」


「そ、そうなのか?俺ってあまり霊感ない感じだったけど……」


「刺激されて目覚めたのだろう。もしかするとそれは何かを訴えかけているのかもしれない」


「ほ、本当にすげえな、おっさんたち。こんなこと聞いて、誰も信じちゃくれねえかと思ってたんだけどよ、彩音の奴やたら進めてくるからさ。来たんだけど、なんだか嬉しいぜ」


 ハーネイトと伯爵はそれぞれ、なぜそうなったかの推測を口に出し九龍に説明する。それを聞いて何故か納得した彼女は尊敬のまなざしを向けるも、ハーネイトは複雑そうな顔で彼女を見つめていたのであった。


「……おっさんではない。まだ20代だ」


「え、あ、そう、なのか。……悪いな、こう話に付き合ってもらっちゃってさ」


「別に、これも仕事だからね。話して少しは楽になったでしょう」


「お、おう。何だか、そうだな」


 ハーネイトは仕事柄、人の話を聞いてそれとなくアドバイスを行うことも少なくない。それだけで心が落ち着く人もそれなりにいる。九龍は少し笑い、ハーネイトに感謝する。


「しかし、あの事件の被害者は少なからず後遺症が出ているように見える。追跡調査をすべきだな」


「後遺症?」


「君も見ただろう、あの青い空間を。どういうわけか条件を満たした存在をそこに引きずり込む輩がいてね、その調査もしているのだ」


 ハーネイトの言葉に九龍は反応し、今回起きた事件について被害者の特徴を聞くと顔が青ざめる。


「条件を満たしたって、じゃあそれに引っかかる奴はまた……引きずり込まれるかもしれねえの?」


「そういうことになるな、生意気なお嬢さんよ」


「んだよ、やべーじゃねえかよ!俺ぁもう嫌だぜあんなのは!」


「いちいちうるさい奴だぜ、なあ」


 少し礼のなっていない、非常に声が大きくうるさい彼女だが、お客様である以上ハーネイトは彼女の話を辛抱強く聞いていた。一方で伯爵は彼女の振る舞いに少し困っていた。


「はあ、とりあえず状況は理解した。君のお父さんとの間に何があったかは分からないが、折り合いが付ければ力になってくれるかもしれない。周りに気を付けることだ」


「あ、ありがとう、ございます」


「フッ、それでこちらからもいくつか質問をしたいのだが」


 ハーネイトは九龍にいくつかアドバイスをした。それに彼女は少し顔を赤くしてお礼をし、ハーネイトの質問に答える。


「別にいいっすよ」


「本当に軽いな、では、彩音とはどういう関係で、彼女がどんな素性なのかを少し聞かせてくれ」


「彩音っちは、時々何考えているのか分からないけど、悪口は絶対に言わないしノリもいいから気軽にいろんなところに遊びに行く仲っすね。彼女も格闘技していたし、私とは違う意味で強いよ」


「ほう、かなり仲が良いのだな」


「っても知り合ったのは中学生の時っすけど」


「まあ、仲がいいことはいいことだよな相棒。んで、今度はそっちが何か聞いていいぜお嬢さん」


 九龍は先ほど質問されたことをそのまま彼らに返した。この男たちがなぜ彩音のことを知っているのかが気が気でならなかったのであった。


「……少し前に、彼女とその幼馴染の命を助けたまでだ。そのあと仲良くなってね」


「それ、本当……?」


「本当だ。偶然だったんだがな、怪物に襲われていた響と彩音を2人で助けた。彼らは、こちらの話を全て聞いたうえで可能な限り協力してくれているのだよ」


 どんどん知らない言葉が出てきて九龍は困惑しつつも話を辛抱強く聞いていた。


 自身もそういえば亀裂が気になって覗いたら引きずり込まれた。それを思い出しあれはマジでただ事じゃないよなと思い話を続ける。


「住んでいる街で、おっかねえ事件が起きている、か。5年前の事件といい、何だか世界ごと呪われている感じだぜ」


「私もそう思うな」


「俺も現に事件に巻き込まれたしな……って、今思い出したけどあんたらあの時の!」


 九龍はそう叫ぶと3人に指を指しながら後ずさった。相当彼女はびっくりしているようで、思わず身構えていた。


「はあ……今更気づくとは」


「だ、だってよ、あんとき俺も頭がぼーっとしていたしさ」


 あの時のことについて彼女は完全には覚えていないものの、それでもハーネイトたちの姿だけはしっかりと覚えていたのであった。しかしあまりにも当時と雰囲気が違うので彼女は気づくのが遅れていた。


「だけどよ、おかげで助かった。ありがとな兄貴たち」


「まあいい……フッ、だが残りの仮面騎士たちや死霊騎士たちが再び狙う可能性があるな……」


「んじゃよ、あの変な光るやつを倒せるのか?あれが悪さしてるんだろ?」


「まあ、あの時も響と彩音はな……」


 九龍はあの化け物たちを倒せる方法があることに興味津々で、目の前で響と彩音が不思議な力で撃退していたのを覚えていたからこそさらに質問する。


「んじゃ何で倒せるんだよ。まさかその亀裂とか関係あるのかよ。なあ教えてくれよ兄貴」


「迂闊に教えるわけにはいかん。……どうしてもというのならば、こちらで素質を見定めてもらう。だが、極力多くの人を巻き込みたくないのでな」


「あのさ……俺、さっき父さんが4年前に死んだって言ったけど、あの後火事を調べた人たちから話を聞いたら、おかしい点がいくつもあったんだ。それに……」


 九龍は父が死んだ火事について、今まで集めた情報を彼らに教えた。その中でハーネイトは炎に包まれる建物の中で白く光る獣がいたこと、その建物は昔から無人でよく幽霊が出るとうわさの場所であったこと、何よりも火元が見つからなかったということが気になった。


「なんと……散発的に事件が起きていたのか。……恐らく君の父上は何者かに狙われたか、あるいは巻き込まれたかのどちらだ」


「だからさ、はっきりさせてえんだよ。なんで親父はあの時……俺たちを置いていったのか」


 鮮那美はため息をつきながら、あの時のことを思い出していた。


 ある日の夜、些細なことで喧嘩していた中、あの火事が起きた。結局父は何を伝えようとしたのか分からずじまいであった。それと、言いすぎたことを謝る機会を失ったこと、それが彼女にとって一番の気がかりであり辛い所であった。


「それも、調べる必要があるな。事件に関する資料があればそこから何か分かるだろう」


「そうだな……分かったよ。相談を聞いてくれてありがとな。また来るぜ、へへへ」


「暇な時はいつでも来るといい」


「ありがとな兄貴たち!今度うちの道場に来てくれよ、ご馳走するぜ!」


 鮮那美はまた来るぜと元気よく言い、事務所を出てホテルを後にした。彼女は街の中央を走る道路沿いの歩道を歩きながらハーネイトの顔を思い出し、少し顔を赤らめていた。


 一見体格がやや細くひ弱そうに見えたが、その中にある圧倒的な力に彼女は気づいていたのであった。強い男を見つけて婿に取れ、父の良く言っていた一言を思い出し彼女はかすかに笑い、心の中で今は亡き父に向けてこうつぶやいた。


「親父……あれからもうすぐ5年だぜ。俺は見ての通り、柔道で全国に言って優勝できた。だけど、物足りねえんだ……」


「おい、浮かねえ顔してんな。らしくねえなあ」


「勝也……おう」


 そこから学校へ行く道とは違う、商店街に行く道を歩いていた鮮那美は電信柱に寄りかかっていた同年代の、やや逆立った銀髪の男に声をかけられた。


 それは彼女の友達であり五丈厳勝也ごじょうげん かつやという。


 一見ガラの悪いいわゆる不良少年だが、実際には不器用で素直になれないだけの、根はまじめでしっかりした年相応の男だというのが彼女が初めて見た彼への感想であった。


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