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レヴェネイター  謎多き魔法探偵と霊量士(クォルタード)の活動録  作者: トッキー
第1部 邪神復活事案 レヴェネイターズ始動!
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第39話 亜里沙の具現霊・碧銀孔雀


「この辺りか?」


「はい。異様な気が伝わってきます」


「同じくだ。被害が出る前に片付けよう。死霊騎士たちの手下かもしれん」


 亜里沙の指定された場所の付近で、2人は神経を集中して周囲を探索する。それをする以前からこの付近では異様な気を感知していた。


 それから少しして発信源を特定したハーネイトは、さっと無意識に刀の柄を握る。


「そうら、やはりいたか。早速浄霊させてもらう!」


 ハーネイトは軽やかに空を飛び、空中で3回転ひねりこみを決めながら剣技を繰り出す。あまりの出来事に魂食獣の集団は対応がわずかに遅れる。


「弧月流・四巡斬月しじゅんざんげつ!」


「ギギャ!!!」


「次!創金剣術・剣弾ブレイドミサイル!」


 息をもつかせる怒涛の猛攻、そういえばよいのだろうか。ハーネイトはすべての攻撃をぎりぎりでかわしながら多彩な戦技を繰り出し速やかに獣たちを蹴散らし消滅させていく。


 剣のミサイルが獣の頭を的確に貫き、彼の振るう刀の一閃は数体をまとめて切り裂き霧散させる。


 普段の穏やかで優しい一面とは全く違う苛烈にして容赦ない行動。その光景とギャップに亜里沙は助けてもらった時のことを思い出しながら、いかにこの男が戦い慣れているかを理解する。


 けれど、本来の彼の性格は戦いを好まない優しい性格。では今見せている姿は何か。


 それは、彼が自身の気持ちを押し殺し嘘をつき、誰かの幸せと平和のために戦い勝利を収める戦神としての一面であった。


「すごい、やはりこの男、相当手馴れているわ。あの霊たちが全く寄り付けないほどに彼の攻撃は静かなのにどこか過激……!」


 思わず周囲の警戒を怠ってでもハーネイトの戦いを見入ってしまう亜里沙だったが、近くに危機が迫っていることにまだ気づいていなかった。


「思ったより弱いな。ってこの気配は!」


 魂食獣の多さにハーネイトもわずかに周囲への警戒が薄れる。その隙にある影が亜里沙のいるところに向かっていた。


 それに気づきハーネイトは創金剣を空中で生み出しその気配の元へ射出するも、すでにその影は実体化し、亜里沙を背後から襲おうとしていた。


「逃げろ!亜里沙さん!」


「え、えええ!?いつの間にっ!」


「貴様らの命、もらい受ける!!!」


「……そうは、させるかよ!!!」


 亜里沙の危機に、その若き男の霊はようやく目覚めた。いや、正確には彼女が彼を感知できるようになったと言えよう。


 その男こそ、矢田神村の調査に出向き命を落とした彼女の兄、紅魔ヶ原 龍渡である。


 美しい緑の衣を身に纏い、手には巨大な扇子を持ち不敵な笑みで亜里沙を襲おうとした死霊騎士、イヴェントを見つめる。


 互いに武器を構え対峙する中、先に動いたのは龍渡だった。手にした扇子を用いて強烈な風の弾丸を撃ち飛ばし、イヴェントの右肩や左脚の装甲を破壊する。


「ぐがぁあああ!貴様ぁあ!」


「悪いが、妹に手を出す奴は俺が倒す!この碧銀孔雀がな!」


 龍渡こと碧銀孔雀は怒気をはらんだ声でけん制する。実は昨日の夜、亜里沙は悪夢にうなされていた。そう、幻霊の見せる過去の記憶に苦しめられていた。


 矢田神村で異変が起きた時、担当だった領域を任されていた紅魔ヶ原一族は退魔士の派遣を決めていた。

 

 しかし先鋒隊が続々とやられ次期当主であった兄の龍渡も出向くしかないと判断し、村に向かおうとした。けれど幼かった亜里沙は兄に迫る危険に気づいていた。


 しかし兄の決意は固く引き止めることができなかったのであった。その数日後、兄は帰らぬ人となり無言の帰宅をしたのであった。それが彼女の後悔であった。


 だからこそ彼女は長年兄の仇を取り、兄を超えて次期当主としてふさわしい存在になろうと必死に努力し力を上げてきた。けれども兄を殺した犯人の手掛かりに今一歩迫れず焦っていたのであった。

 

 そんな彼女にとって今回の一件とハーネイトたちとの出会いは奇跡であったと言えよう。既に覚悟と決意を決めていた彼女は、兄の魂が宿った具現霊を知らず間に現霊化できていた。


「ぐっ、こちらもまだ安定しねえっ!」


「これで終わりだぁ!」


「それはこちらのセリフだ、穿て、霊閃レイヨン!」


 まだ発現したばかりの碧銀孔雀は亜里沙の霊量子コントロールがうまくいかないせいで動きが鈍る。それを見逃さずイヴェントは力を振り絞り襲い掛かる。


 その時だった。ハーネイトは指先から霊量子の奔流を発射し騎士の胴体を打ち抜いた。


「ぐっ、これほどの力を持つとは、っ、何故だ、邪魔をする……!ソロン様の復活こそ、ヴィダールを……貴様も、ヴィダールならばっ……!!!」


「なんだと!っ……どういう意味だ、最後の言葉は」


 捕縛系の魔法を使って捕らえ尋問した方が良かったなとハーネイトは思ったが状況があれなだけに仕方ないと思いつつ、最後の断末魔の意味についてしばし悩んでいた。


 その間に亜里沙は碧銀孔雀に対し、恐る恐る声をかけた。


「兄さん……?兄さんなのね!」


「亜里沙……ようやく俺が見えるようになったか」


「私、あの時、兄さんを……」


「いや、お前は何も悪くない。俺の力不足だ。ったく、あの化け物は本当に強かった」


 兄はなぜ自分が死んだのかを彼女に語った。巨大な幾つもの尻尾を持つ光る獣が、村の住民の生命力を少しづつ吸収していた。それを全員で止めようとしたがあまりに歯が立たず、今までの術では全く意味をなさず次々と同士が倒れていったという。


 それから自分も戦ったが、勝てなかったと亜里沙にそう話したのであった。


「噂には聞いている。あの男、強いな。優男に見えるが、内面はかなり恐ろしい。だが俺たちが強くなるためには欠かせないだろうな」


「兄さん、私、あの化け物たちを倒せる力を……」


「わかっているさ、俺とお前、これからは一緒に鍛えまくって、敵とろうや。てことで、契約の言葉を共に。頭の中で思うことを、そのまま口に出せばいい」


「ええ……。縁を結び、現世うつしよに現霊映し出す者よ、我が名は碧銀孔雀。疾風と青嵐にて汝を護る者なり!」


 こうして、亜里沙は具現霊と成った碧銀孔雀と正式にパスを繋ぎ我がものとすることに成功したのであった。


 それから碧銀孔雀となった龍渡は、扇子を展開し緑色の鋭い風を飛ばし、魂食獣の体から霊量子を抜き取り自分のものとした。


 力を奪われた獣はその場で徐々に消滅していく。それを見たハーネイトは亜里沙に声をかけた。無事かどうかを確認し、そのうえで彼女も現霊士としての能力を獲得できたことも把握した。


「亜里沙さん、どうにか力を得られたようだね」


「はい、私の兄は、貴方のことを見て力を貸すと言ってくれました」


 兄が死んだと聞いたその日から、ずっと後悔して生きてきた。亜里沙はあの時強引にでも引き止めればよかったと思っていた。


 その後悔、無念、また会いたいと思うその気持ちが、奇跡を起こしたのであった。


「この先、現霊士になるのにかなりつらい修行をせねばならない。それでもやるか?」


「ええ、もちろんです。もう、後悔したくありませんので。それに私は退魔師ですから」


 あの事件は本来、他の退魔師たちと連携してでも解決しなければならなかった。けれどあれは自身らの手に負えるような代物ではなく、多くの死者を出してしまった。


 けれど代々受け継いできた退魔師の誇りをこれ以上汚すものか、亜里沙は今度こそ事件を解決し全てを晴らしたい。そう考えていた。


 その後ハーネイトは亜里沙を連れホテルの事務所に戻り、宗次郎に報告したのちソファーにゆったりともたれ掛かりそのまま寝てしまったのであった。


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