第38話 ハーネイトの仲間たちと、旅を始めた理由
「そういえば、ハーネイト先生のお仲間さんって、どんな人がいるのですか?」
「ああ、昔からの友達や、戦いの中で出会った仲間、そして元敵だった人たちまでもう様々だよ」
全員が至福の時間を味わっている中、彩音の質問にハーネイトは、フフっと思い出しながら笑顔で、どういった仲間がいるのかを紹介し始めた。
ハーネイトは旅を始めてすぐに、ある事件に巻き込まれ初恋の人と親身にしてくれていた村人とその村を失っている過去がある。
その事件の唯一の生き残りが彼であり、なぜあの状況下で生き残ったのか自身の体や能力に果てしない疑問と葛藤を抱くようになり、出自の秘密を知るために真の生みの親を探しながら二度と後悔しないために、恩師の意思と研究を引き継ぎ形にするために旅を続けたという。
その中で、内なる力の謎を解き明かす大冒険の数々にて、数えきれないほどの仲間を得た彼は、現在自身の立ち上げた会社、「ハーネイト・ザ・カンパニード」で働く社員となった仲間たちのことを説明していく。
「刀で文字を描いて攻撃か、俺の言之葉とどこか似ているような。話を聞いてみたいが、激辛大好きで違法唐辛子を栽培している?まるで意味が解らん」
「巨人族に宇宙人、古代人に魔界の獣人?幅広すぎじゃないのか?」
「ハーネイト先生の幼馴染……気になるわね、どんな人なのかしら?というか、色々聞いてみたけど皆キャラ濃いね?」
「そうだな間城。個性派揃いと言えばいいのか?癖あり過ぎそうなのをよくまとめられますね」
ハーネイトの故郷であるAM星は、主に地球の人が転移現象で流れてきた人が多いところで、彼らにとっての故郷である地球が忘れられず、元々地球にあった物と類似した都市や国を作ってきたという。
その中でも特に日本の影響を受けて作られた日之国についての説明をしながら、伝説の剣豪である八紋堀について話をし、次いで霊量士たちの話もする。
「なんだと?そのブラッドルという競技は。それで先生もその選手だってのか」
ハーネイトは更に、球技を得意とする翼が関心を持てそうな話も切り出した。
地球人が流れ着く環境とはいえ、ハーネイトの故郷では独自の球技が最も盛んであり、それをブラッドルと呼ぶ。
黒いボールを蹴る、または投げて敵のゴールにいれる単純かつルールも緩い競技であるが、選手の多くが魔法の素養がある人が多く、強化した肉体から放たれる一撃は多くの観客を魅了し沸かせるという。
それを聞いた翼は案の定それについて質問し、自身もその球技に関わってきた者の一人だと告げた。
「ブラッドルはね、私の世界では大昔からある競技でね、それを誰でも遊べるようにしたのが私なわけだ」
「そうなのか……今度やってみてえな」
「もう少し人が集まったら、できるかな。いいよ、覚えておこう」
話を聞いた人全員がその異世界で大人気の球技に関心を持ち、人が集まったらその時は実際にここでやってみようという話になった。
「しかし、50㎞の射程を狙い撃つ魔銃士に、ハーネイトと同じ術を使える不思議な忍者、そして異星人に元敵対勢力の戦闘員や幹部たち、か、よく仲間にできるな」
「はは、大和さん。昔からなぜかこうなるのですよ」
「カリスマ、という奴か。……人に好かれるのはとても大切なことだからな」
「そうですね、皆さん個性強調しすぎなメンツですが、凄く頼りになる人たちです」
これが、彼の実力。話を聞く限り、やはりどう見ても只者ではない。けれど悪人では決してなく、皆から好かれるリーダーであることは分かる。大和もその雰囲気を気に入っていたのであった。
もとより、初対面での印象もとても礼儀正しく、謙虚な印象が強くとても強者が振舞うような傲慢で威圧的な感じが全くといっていいほどせず、パートナーとしては最適な人当たりのいい印象を持っていたという。
「ようやく準備が整ったわけだ。有難いな、本当に」
「そうよね。流石ハーネイト、人を惑わせることに関しては一流ね。誰からも愛される、って普通無理よ」
「リリー、ここ最近口が悪いんじゃないのか?」
「ごめんって、もう。で伯爵は何しているのよ」
リリーの言葉に対し注意するハーネイト、そして目を閉じて瞑想している伯爵を見たリリーは静かに声をかける。
「ああ、ちと街中を探っている感じだ」
「例の能力か」
「せやで。大分このあたりも制圧できたし、探知もしやすい。しっかしエヴィラの野郎は大丈夫か?」
「彼女は彼女で動いているからな」
「今のところ、奴らは積極的な動きは見せていない、それが気がかりだぜ。ゼノンちゃんもアストレアちゃんも、仲間の方はあれから見つかっていないらしいぜ」
「こういう何もない時こそ、用心と備えが大切なのだ。色々気がかりなことがあるが、うーん」
伯爵は自身の能力で、無数に存在する微生物群から情報を手に入れていた。ただ意識を遠くまで飛ばし情報を集めるにはある程度条件がいるようで、幸いここはいい場所らしい。
その後別に協力者がいることについて話をし、仮面騎士たちからの報告も含め確かにここ数日は目立った動きを向こうは見せていない。だからこそ注意を払う必要があるとハーネイトはそう言ったのであった。
「では、私は引き続き施設の案内を聞かせてもらうとしよう」
「そうか、んじゃ俺様は……」
「伯爵も行きなさいよ」
「ちっ、分かったよリリー」
そうしてハーネイトと伯爵は引き続きホテル内を歩き回り確認することにした。一方の響たちはどうするか決めあぐねていた。
「それで、あなたたちはどうするの?」
「俺は用事があるので一旦失礼します」
「ああ、そろそろ部活の時間だ。行かねえとな」
「私もよ、亜里沙さん、ハーネイト先生のことよろしくね」
「ええ、彩音さん」
そういい彼らはホテルを一旦後にして、各自用事を済ませていった。その一時間後、ハーネイトたちはホテルのフロントで話をしていた。
「とりあえず、大体のことは分かった。セキュリティの穴はこちらでどうにかするとして、好きに使用していい場所をどうするかだな」
「ああ、そうだな。しかしよ、異世界ってのも不便だろ?」
伯爵はハーネイトの顔色を伺いながらそう言い、今の生活環境や置かれている状況についてどうなのかと確認する。
「ま、まあ……当然の話だが迂闊に魔法は使えないし、空を飛ぶ時も見えないようにしないといけない。お金の扱い方や社会ルールも違う。生活習慣や環境の違いがここまで影響するとは、私も見立てが甘かったよ伯爵」
「しゃあないない、俺だって最初はそうだったしな。でも、今はこういうのも楽しく満喫できるぜ」
自身が初めて人の世界に来た時のことを思い出しながら、慣れていけばこれほど面白ところはないとハーネイトにそういい伯爵は、余裕ありまくる表情を見せる。
実際彼の方が地球生活が長いのでそういう意味では先輩になり、そういう風を吹かせずにいられなかったのだろう。
「伯爵のような余裕が欲しいね本当に」
「にへへへ、時間のある時は俺様がいいところ案内するぜ」
「色恋事的なのが関わるようなお店には連れて行かないで」
「ったく、この真面目さんがよ。まあ、あんな辛い思いをして平然といられる奴がおかしいからな」
伯爵が意地悪そうにそういい、ハーネイトを困らせようとした。その時部屋のドアをノックし亜里沙が戻ってきたのであった。
「ハーネイトさん、それと……」
「伯爵でいいぜ。んでどうした」
「早速ですが、この前ホテルの建設現場で目撃したようなものが現れています」
「場所は?」
亜里沙が戻って来るや否や、彼女の口からまた魂食獣らしき存在の姿を確認したと告げられ、すぐにハーネイトは仕事モードに入る。
「この辺りはなにか出やすい何かがあるのだろうな。わかった、行こうか」
「俺はちょいと仲間増やしてくるから席外すぜ。どうも他に危ない何かがいるな」
ハーネイトはいつでも行けるといい、伯爵は何を思ったか別行動をとりたいといいすぐホテルを出てしまった。それにリリーもついていったため、残ったのはハーネイトと亜里沙だけになった。
「あ、あの、私も同行させていただけますか?」
「何が起こるか分からないからな……個人的にはやめておいた方がいいと思うが」
亜里沙の言葉にハーネイトは、最初その意図が分からずそう言うも、すぐに目的に気づいた。
「声が、聞こえるのです。死んだ兄の声が」
「そうか、もしかすると亜里沙さんも力に目覚めそうな感じですね。貴方のお父様も、娘である貴女のことをかなり心配していましたよ」
「でも、それでも私は、確かめたい。無理を承知なのは分かっています」
「こうなったら梃子でも動かぬってあれだね……危ないと思ったらすぐに逃げて連絡すること。それと遠くから見ていてくれ」
能力が覚醒しそうならば、確かに連れて行くのもありかと考えたハーネイトは安全のためそういいつつ、ついてきてもらおうという。
「分かりました、では支度しますので少し待っていてください」
亜里沙は静かにそう言い、例の霊的生物が現れている場所まで道案内をするためハーネイトを連れホテルの外に出たのであった。




