第258話 地下エリアでの激闘
その間にもハーネイト一行は血徒のメンバーと遭遇していた。レプトスピラ症を起こす病原体の微生界人ことイクテロへモウス、カルニコーラ(カニコーラ)、ワイルヴァッハ、人に感染する結核の微生界人、ツヴェルクロナ。更にヴァヴェシア・ドゥンカニとストレプト・ピオゲネスの計6名が、この地下神殿のような広けた場所で待ち構えていたのであった。
灯りは弱く、薄暗く部屋の中を満たし戦闘にはあまり適さないような場所である。だが、双方はっきりと互いの存在と肉体を確認しあい武器を構える。
「飛んで火にいるなんとやら、か」
「貴様らか、われらをこそこそ嗅ぎまわっていた奴は」
「命知らずのようだな……っ!こ奴ら、何者だ?」
「計画を邪魔する者には死あるのみだ」
「後悔時既に時間切れだ、絶望に陥れてやる」
横並びに6人の微生界人が待ち構え、今にも殺気で部屋中を切り裂かれそうな様子であったが、ハーネイトらは余裕のある表情を常に見せていた。
「おいおい、俺様は無視かぁ?つれねえなあ」
「お、お前は!」
「まさか、同胞なのか?」
血徒はハーネイトら一行の中に、同族の存在を確認する。それを確かめたイクテロへモウスは怒りに満ちた表情で伯爵を睨み闘志を燃やす。
「裏切者というならば、ここで倒すまでよ!」
「なめられたものだな相棒!」
「フッ、体に教えてあげるとするか。創金剣術・剣乱」
「最初からクライマックスだぜぇ!醸せ、菌幻自在!」
ハーネイトは愛刀・藍染叢雲を素早く振るいながら自身の周囲に数本の創金剣を展開する。伯爵もそれに合わせる動きで自身の体を構成している微生物を操り菌の双剣を形成し早速切り込むが、イクテロへモウスは血盾で攻撃を受け止め彼を弾き飛ばす。
「仲間から君たちのことは報告に上がっている。おとなしく投降すれば……」
「それで、すると思っているの?舐められたもの、ね。覚悟なさい、緑髪の優男!」
その間にハーネイトとミロクがいち早く突撃し、ハーネイトはツヴェルクロナ、ミロクはワイルヴァッハと交戦する。
「悪いが、君たちの活動を放ってはおけない。これ以上無関係に命を奪いつくすなら容赦はできないぞ」
「何者なの?仲間って、まさか」
「ああ。あのスタジアムで私の仲間と一戦交えたのだろう?」
ハーネイトは変則的な創金剣による3次元攻撃でツヴェルクロナを追い詰めていく。彼女も両手剣を振るいながら彼の攻撃をいなすも表情に余裕がなくなっていく。
彼は戦いながら彼女に問いかけるが、それを聞いた途端彼女の動きが少し鈍り、ハーネイトの強力な剣閃が彼女の胴体に吸い込まれ吹き飛ばされる。だが致命傷にはならない。血徒は非常に頑丈なのである。
「てことは、貴方はっ、ぐっ。あの人間たちに何を教えたのっ。というか、人じゃ、ない……?遠い仲間っ?」
クロナは受け身をとり壁のギリギリで体勢を立て直し再度武器を構える。だが、受けた一撃の違和感に彼女は戸惑っていた。
それは自身の防御を、ほぼ無視するような形で受け想定以上のダメージを受けていたからである。また、接近時に彼女はハーネイトを内側から醸そうと眷属を送り込んだがそれができなかった。その理由がわからなかったのであった。
「フッ、怖いなら例のあれを使えばいい」
「言ってくれるね。お言葉に甘えて、使うまで!」
「挑発に乗るなクロナ!ぐあっ、お前ら何者なんだ!」
「何者か、知りたいか?ならば全力で来るといい。知れば絶望するかもしれんがのう」
「舐めた真似を!血禍剣!」
「そんな、攻撃がすべて読まれている……だと?」
ハーネイトの忠臣、ミロクも相変わらず恐ろしい。涼やかな顔で剣戟と影刃を自在に振るい敵の逃げ道を立つかの如く連撃を浴びせ、動揺を誘い隙を生み出し、本命の攻撃を確実に決めていく。ワイルヴァッハも必死に応戦するが、歴戦の剣聖を相手にしては防戦一方である。
「遅い、影遊!」
「っ!影が実体を?これは読めぬぞっ!」
「ワシもまだまだ現役じゃわい」
「フッ、ミロク様も相変わらずね。来なさいヴァルキュレア隊、砲撃陣形構え!」
「い、いきなり反応がこんなに、っ!撃って来やがった!」
その間にも残りの血徒を倒そうとミレイシアは機械人形兵を数十体召喚し、一斉掃射をお見舞いする。彼女も直撃狙いというよりは砲撃の嵐で敵の移動範囲を狭め、仲間の攻撃を当てやすくする支援と行っていた。
妨害、嫌がらせ、それは彼女の最も得意とするところ。敵からしたらやりづらいことこの上ない状況を作り出し、残りの味方がそれに合わせる。
「屋内では壊嵐脚は使いづれえなあ。仕方ない、魔印を使用する!」
「血徒よ、速やかに降伏せい!ふんぬ!!!」
「何だこれは。文字、だと?ぐぬ、体の自由がっ」
サインはさり気に気配を断ちながら、敵に呪いの印鑑、魔印を打ち込み弱体化を狙う。足が止まったところに、今度はシャムロックの低姿勢の体から放たれる強烈なボディーブローがドゥンカニの胴体に直撃し、室内に轟音が響くほどに天井に叩きつける。
常人が仮にこの血徒をここまで殴打できたとしても何のダメージも負わないが、シャムロックを始めとしたここにいるハーネイト及びその部下全員、霊量子を扱える存在が故大ダメージを与えられる。
この原理については、霊量子運用能力を持つ存在は、霊量子だけは瞬時に分解できないという法則に起因する。霊量子を扱える存在は、すべての攻撃に霊量子が残存する。それが、ヴラディミールが響たちに教えた、霊量子干渉作用を引き起こすのである。
ヴィダールはヴィダールでしか倒せないという言葉の意味は、これにある。
「っ、まさか。いや、だとしたらなぜ。っと!」
「よそ見していると、危ないですよ?」
「言ってくれるな。血衝破だ、落ちな!」
「皿刃盾っ!守りにおいて、私は誰よりも自信があるわ」
オフィーリアはビオゲネスに対し不意打ちで皿刃を複数枚投擲、更に自身も物陰から奇襲する。反撃を受けるもそれを受け止め、挑発で相手をくぎ付けにする。
ハーネイト直属の部下の中では攻撃面では劣るが、オフィーリアは守ることなら誰にも負けない能力を持つ。味方に迫る攻撃も、事前に予測し皿刃を投げつけ相殺する。
彼らが戦っている中、ハーネイトは血衣魔装を使用したクロナと鍔迫り合い、引いては剣を交え戦っていた。本当は本気を出してサクッと片づけたいとハーネイトは思ったが、敵の情報を集めるにはそれでは駄目だと判断し、剣術主体の戦闘スタイルで畳みかける。
「それが、新たな装備ってわけか。中々かっこいいじゃない。だが、装備に比例して動きが少し遅いぞ!」
「何をっ!このっ、このっ!」
「当たらなければ、どうってことないっていうじゃない?そらっ、隙ありだ!」
クロナは血衣魔装・強襲突撃形態で襲い掛かり、副腕に装備した武器で荒っぽく手あたり次第に攻撃するも、ハーネイトにはすべて見切られ彼の剣閃を再び喰らい転倒しかける。更に彼は紅蓮葬送を展開し彼女の装備している武器パーツを全てはたき壊し戦闘能力を削ぐ。
彼女は完全に戦闘ペースを持っていかれており、悔しいといわんばかりの表情でハーネイトを睨みつける。だが彼の表情はどこか楽しそうであり、面白いものに出会えたという感じで終始自分のペースを維持していたのであった。
元々ハーネイトは探偵だけでなく技術、研究者としての熱意もかなり高く、敵の新技術に対しても積極的に分析し、あわよくば自分のものにしようとする。
そんな彼の柔軟な思考と行動力こそ、彼を彼至らしめんとしていると言えるかもしれない。戦うのは嫌いだが、技術の研究のためなら事情が違ってくると言う。
「っ、何なのよ何なのよ!あの人間も、この人間もどきもっ!」
「人間もどき、か。そりゃそうだ。正直嫌気もさすがな!!!」
「えっ、そ、そうなの?っキャアアっ!もう、許さないんだからぁ!」
クロナは激高し、勇猛果敢にハーネイトに立ち向かう。だが彼の言葉に動揺しまたも手痛い一撃を浴びる。
一方でイクテロへモウスとカル二コーラは対峙した敵に違和感を覚え、間合いを取る。隙あらば醸して分解してやろうかと血徒ら全員考えていたが、どうもうまくいかない。というか取り付く島がない。それが不可解であった。




