第257話 戦いに巻き込まれ目覚めた者と血徒汚染の恐怖
一方桃京で事件に巻き込まれ、力に目覚めた人たちは少し離れた場所から響たちの戦いぶりを見て絶句していた。
「……何という力だ。これが、人間の力というのか？」
「あれは、明らかにそれを超えている。だが、そうでもしないとあの怪物を倒せない、んだろう。俺らもその力が宿っているんだな」
「見ていて、怖い……だけど、戦っている人がいるんだよね。わ、私だって、うん」
プロメテウス、楓也、コニカはそれぞれ感想を述べながら、恐怖と好奇心が混ざった感覚に戸惑う。果たして、自分たちはあのように動いて戦えるのだろうか。その疑問が拭えなかった。
「長官から戦い方を見て来いと言われたが、何というべきか……だが、動きにまだ無駄があるような。しかし……」
「赤穗さん、ですか。元々戦う術を知らない人たちが、あのハーネイトという男の下で短期間でここまでやれる、その事実がすごいと僕は思います。何より、あんなのに立ち向かえるその心が、すごい」
一方で防警軍所属の赤穗は、現霊士たちの動きにまだ改善できるところがあるのではないかと分析する。
しかし切人は恐る恐る彼女に話しかけ、元々民間人な人が能力を得て、短期間でおぞましい敵と戦えるほどになった事実がすごいと自身の感想を述べたうえで、自分も大切な家族を、姉を守りたいから戦うという意思を示す。
「いつから、あんなヤバい連中が動き回っていたんだYO。世界規模で起きたあの事件も、あの変身した奴らのせいならば容赦はできねえ」
「元の生活を取り戻すために、戦うしかないなこれは。商売どころじゃないよ」
「俺たちも、腹括らねえといけねえわけだな。分かってんだろ？止めるやつがいなきゃ、近いうちに人間も、いやそれ以外の生き物も全部吸血鬼ゾンビだぜ」
そしてナブハップとエアハルト、ジャックは3人で話をしながら今後についてどうするか話題を挙げて会話をしていた。3人とも社会人であり、ナブハップも友人とともに上野で洋服の店を経営していた。エアハルトは料理人で、ジャックはアーチェリー選手の他に有名なスポーツ器具の会社の広告塔としての顔も持っていた。
しかし今起きている事態は何よりも優先して止めないといけないのはもちろん共通してわかっていた。だからこそやれるやつが止めて、元の生活を取り返すんだと強い連帯感を見せていた。
「まったく、その通りだ諸君」
「そういやおっさんは誰なんだ？」
「わしはヴラディミールと申す。ハーネイトの部下であり、参謀の一人でもあるぞ」
恐る恐る現霊士と血徒の戦いを見ていた7人に対し、背後から少し格好つけた感じで声をかけるヴラディミールは、近くにある建物の壁にもたれかかりながら自身も様子を見ていた。
「ヴラディミール殿、あのような怪物はずっと前からこの星にいたのですか」
「ううむ、それはこちらも掴んではおらん。だが目に見えない存在としてならそれははるか昔から存在している」
「目に見えない、ってことはばい菌？それとも違う何かなのかなあ」
「そうじゃな、正確にはその微生物の概念体というべきか、アバターというべきかだ」
ヴラディミールは、これから戦うべき相手がどういう存在であり、いかに厄介なものであるかについて話をし教える。自身も３剣者と称されるほど戦闘には自信があるが、それでも血徒、いや微生界人の異常なまでの耐久性と攻撃力に頭を悩ませるほどであり、それは彼の表情から伝わってくる。
「そんな奴らには抗生物質とか消毒剤とかで対処できるはずじゃないのか？」
「それができておったらこのような組織をあやつが作るわけないだろう」
「確かに……うん」
「薬効かねえのかよ、なんだそれは」
「微生物のお化け……？お化けならお薬とか効かないのわかる……かも」
ジャックはヴラディミールの話を聞いて、原因が微生物ならいくらでも対処できるだろうというも、彼の言葉を聞いて黙ってしまう。コニカは血徒も含めた微生界人をお化けか何かと認識しているようであった。
「血徒と呼ばれるそれは、ある存在が作った生命体の一種でな。その親元の力を継いだ、あるいは力に目覚めたものだけが無敵に近い防御を無効化しダメージを入れられる。そういうことなのじゃよ」
ヴラディミール本人も、この事実を知ったのはハーネイトと出会い、伯爵やエヴィラといった微生界人から話を聞いたのが初めてであり、正直その時は頭痛が激しかったという。
彼自身も普通の人間ではなくヴィダールの神造兵器第3世代に属する者なので倒せる力もあるし、以前そういうのと戦ったことはある。
だが奴らは非常に面倒な相手だ。そういった話も織り交ぜながら、敵の無敵に近い防御特性について話を説いた。
それに加え、何故血徒が恐ろしいのかについてもう一つの理由も話す。それは、血徒本体が汚染地帯を形成し、あらゆる生物が住めない領域を作ってしまうということであった。その話に対しプロメテウスが質問する。
「よく今まで表沙汰にならなかったな。わしもその話は知らなかった。だが、遠い村で立ち入り禁止区域が突然できたが、まさか」
「国の上のものが隠しているか、あるいは乗っ取られているか。それもありうるが奴らの活動はここ20年で活発化している。何かを準備しているようにな」
実際現状では、この地球という星は陸地面積の約2割に及んで血徒汚染が深刻になっている。その事実を彼らが知るのはもう少し後になるのだが、事態はどんどん悪化している。
これだけ恐ろしい連中がうろついているのに国は何もしていないようにしか見えない。何か動いて民を助けているのは現状、民間企業の一部しかない。プロテメウスを始めとしたこの場にいる全員が憤りを隠せなかった。
だが、もしも政府機関に血徒の手が及んでいたとしたら。そう考えると事態が後手に回ったというのは明らかに故意であるとありえなくない、そう考える者がこの場には一定数いた。
それは、ハーネイトも同じ考えであり最近数名の政治家の写真を見て血徒のアルトマ、いわば感染紋章を見つけたと報告している。感染し対象と適合している状態だと、血徒感染者を見分ける方法は先述した通り、紋章の有無に基本限られるので発見が著しく遅れるのはよくあることである。
「怖い話です。ですが、その奴らが何を企んでいるのかを調べる必要があるでしょうね」
「面倒な話だ、だが俺は快く参加するぞ。色々因縁のありそうな相手だ」
「私から大事なものをすべて奪ったのが、それなら……許せない」
「故郷で起きた怪事件の幾つかも絡んでいそうだ。ドガ博士もいっていたが、僕もできる範囲で協力しますよ」
話の中でヴラディミールは、今回桃京で見つけた能力者もどこかで悲惨な事件に巻き込まれている者が少なくないことを把握し、そのうえで血界を早く解除するためには全員の協力が必要不可欠だと言う。
「誠に感謝するぞ。うむ、あの中に、何か手掛かりがあればいいのだがな。わしが護衛する。おぬしらも共に来てもらうぞ」
「おう、まあ乗り掛かった舟だしな。いくぜ」
「うー、やっぱり怖い、でも！」
そんな中ヴラディミールは、施設内に入るといい彼等にもついてくるように促す。ジャックやナブハップはやけに乗り気な感じだが、それ以外の人は戸惑っているように見える。それでも全員同行し、響たちとすぐに合流するのであった。
「あ、ヴラディミール先生！」
「わしらも同行するぞ。中に突入するのだろう」
響たちをはじめとした現霊士たちは、先ほどのスフティスとの話に動揺していたり、不信感を抱いたりとまとまっていないような状態になりつつあった。だがヴラディミールは今は血界を解除することに専念しろと諭し場をまとめ上げる。
「そうです。ハーネイト先生いわく、あの施設内は危険なアイテムがいくつもある可能性が」
「だろうな。では正面からきっていくぞ」
「大丈夫なのか？まだ経験がない人たちを連れてよ」
「わしを侮ってもらっては困るのう。任せておけ」
「あー、そうならいいんだけどな。じゃあ行こうぜ、な」
こうして、ほぼ作戦進行は予定通り進み、現霊士及びヴラディミールは地上から制圧する作戦に移行するのであった。その頃他の、今回の作戦に参加していないハーネイトの仲間は街中の警戒及び残存勢力がいないか調査する役目を負っていた。
