第251話 新たに目覚めた者たちとの対面
「さて、と。一先ず全拠点の奪還に成功したようだね。さあ、ここからが問題だ」
「まだ、あるの?」
「この血界を壊すには、もう一つある場所に行って原因を破壊しないといけない」
「幸い、君たちのおかげでボスが陣取っていると思われる場所の防御結界は消滅寸前だ」
「えー、それってどういうことなの?」
「犯人が張っている結界は、奴らの仲間の力によるものだが君たちがそれらと戦い、力を弱めたため今なら周囲に影響を与えずに破壊出来るわけだ」
「そういうことか、ふーむ」
伯爵曰く、自分が見つけた敵の拠点である施設には異常なまでの血徒のものと思われる結界が張り巡らされており、正攻法でそれを破壊するには周囲の建物ごと吹き飛ばすほどの一撃を与えないと駄目なほどであると説明した。
だが、その結界の作成に関与した血徒数名を響たちが弱体化させたので今なら少しの時間で簡単に破壊し入れると嬉しそうにそう述べた。
「そうなんですか、それで場所は……?」
「この場所だ。桃京に来た時に伯爵が見つけた、血徒の拠点らしい場所だ」
「あれですか。もう怪しさマックスな場所ですね」
「しかし、今入り込むと何が起こるかわからない。事前に伯爵が忍び込んだが、どうもな」
ハーネイトは近くにあったプロジェクターに、敵の拠点である施設の場所を地図で示しながら、伯爵から聞いた多くの変異した人らしき何かやイノシシ、サルなどと魔薬が大量に保管されているという情報を全員に伝えた。
「しかたないですね、敵地なのは間違いないので、気を引き締めていこう」
「これで、問題が解決できれば……しかし、新たな問題が発生しています」
響は、ハーネイトに対しある人たちの扱いについてどうするのか確認を問う。それは、事件に巻き込まれ、能力が覚醒した人たちのことであった。
「先生、各方面でその……力に目覚めてしまった人がいます」
「こちらもです。負傷者をCPFで治療したのがまずかったか、血徒による傷の影響か分からないのですが」
「あぁ……そうだったな」
彩音と京子は一歩前に出ると、その経緯をハーネイトに説明する。それをある程度聞いたハーネイトは、懸念していたことが起きてしまったかと思いながらもどの程度まで能力が開花しているのかを自分の目で確かめないといけないと思い、今回の事件に巻き込まれた人たちに前に出てもらうように指示をする。
「ほう、あんたが大将か」
「思っていた以上に、美形な人だな」
「だが、纏っている気迫はただ者ではない。聡明さと、冷酷さが同居している、というところか」
ナブハップと楓也はハーネイトの顔をじろじろ見ながら、あの場所であの凶悪な化け物と戦った人たちを統べる者に対し思っていたのと違う印象を感じ戸惑っていた。
また、プロテメウスとエアハルトは彼の穏やかながら存在感のあるそのオーラを肌で確かに感じ取り少し身構えていた。ハーネイトは机の上にあったコーヒーの入ったカップを手に取り、それを飲みながら彼らに向けて微笑する。
「わぁ、この人角生えてる!鬼?」
「あ、やべっ」
「人間、なのか?」
「長官は一体何を……しかし、今は藁にもすがっていたい気分ね」
「なんだか人が増えたわね……どうしてこうなるの」
伯爵はコニカから角のことを指摘されるとすぐに引っ込める。少し慌てた様子が珍しく、ハーネイトがふっと笑いながら、響や京子らが連れてきた人たちを見てから、どうしていいものかと半ば放心状態になっていた。
なぜなら、一気に能力者がこのタイミングで増えるなど彼が全く想定していなかったからであった。
また、防警軍隊長の赤穗は長官である宇田方に対し自身も能力を得てしまったことを告げる。
「通信で話は聞いていたよ。こうなってしまった以上は彼らと行動を共にし敵の正体を暴いてほしい。困難かつ、つらい任務だが」
「長官……私は、あの日のことを片時も忘れられずに今まで生きてきました。上司があの化け物に殺された時のことも、はい」
自分の守護霊と化した元上司、自分たちを逃すために囮になり亡くなった彼の仇を取りたい。それはずっと変わらず彼女の行動意思の支えとなっていた。自身が思ってもない方法であれを倒せる方法を会得した今、彼女の闘志はさらに湧き上がっていた。
宇田方は彼女にミネラルウォーターの入ったペットボトルを渡し、ひとまず冷静になれと諭す。それを受け取った彼女は、神妙な面持ちで少し考えこんでから、自分の決意を改めて告げる。
「だからこそ、この任務は彼のためにも、そして皆のためにも私は全力でやります」
「そうか、頼んだぞ。しかし、他にも同様のケースで力を得たものがいるとはな」
宇田方は、彼女の確固たる信念に感動し、期待を寄せながら彼女と同じような原因でハーネイトが言う現霊というという力を宿した者が、こんなにいるのだなと複雑な思いで彼らをしばし見ていたのであった。それは、事件を防げてはいないのと同義であるからである。
「全く、連れてこられた場所が防警軍とやらの施設とは、驚いた。あの脅威を打ち倒せる方法を、すでに日本は見つけていたというのだろうか」
「俺もだぜそこのおっさん」
「おっさんだと?わしはプロメテウスと言う」
「ナブハップだ、よろしく頼むぞ」
今回の事件に巻き込まれた人たちは防警軍の施設内部をぐるりと見渡しながら、先ほど各自が目撃した吸血鬼及び怪物を倒す術を、この日本はいち早く見つけ出したのだろうかと思いつつ自己紹介を行う。




