第250話 血徒の新技術と恐るべき特性
その頃、ハーネイトは各拠点からの連絡を全て聞き、全員ケガもなく任務を遂行できたことに胸をなでおろしていたが、そのあとの報告を聞いて目を丸くし、慌てそうになるも一呼吸してから集合命令をかけたのであった。
それから数十分後、響たちは防警軍総本部第一会議室に集合したのであった。新たな仲間も連れて、一気に会議室内は賑やかになる。
「先生、ただいま帰還しました」
「全く、こんな調子じゃきつすぎだろ」
「何だ、もう弱音吐いてんのか翼?」
「ち、ちげーし。だが、相手は思っていた以上に」
翼は相手が相手だっただけに、やりづらかったとしんどそうな表情を見せ、それに伯爵が少し気遣う様子で声をかけるが、彼はそうじゃないと否定する。
「厄介だった、そういうことだ」
「あれは、こちらにとって脅威になります。変身後のパワーはけた違いです」
「ありゃマジで焦ったぜ兄貴」
「大和さんたちは、変身する奴と戦ったと聞きましたが」
大和と京子、九龍はそれぞれ、敵が新たな変身能力を持ってこちらを攻撃してきたことをハーネイトたちに訴える。
それを聞いたハーネイトは少ししかめっ面で、困った顔もしながら今まで報告に上がってこなかった敵の新兵器について懸念していた。時枝や間城も、その話に興味を持ち、大和に質問する。
「そうだ時枝。あれは脅威になる。全く、向こうも末恐ろしい」
「5年前の時より、明らかに強い。モニター越しからでも十二分にな。だが、施設への被害はともかく、民間人や隊員に犠牲が出なかったのは、ふむ」
「エヴィラに聞けば何かわかるかもだが、あいつどこ行ってるんだ?」
ハーネイトは改めて、敵の新兵器について言及し脅威であることに変わりはなく、今以上に自分らも装備などの研究を行ったほうがいいと考えていた。
その間、宇田方は幾つもの現場が映し出されているモニターをじっと見つつ、5年前のことについて話しながら今回の状況について少しだけほっとしていると思っていることを口に出した。
「血徒……何のために、このような真似を」
「ああ、それが気になる。どうもいまいち的を得ないというかなんというかな」
「目的が何なのか、はっきりしないと対策も打ちづらいって感じですよね」
自らの眷属、いわば病原菌を対象に与え、その体を実質乗っ取る血徒。まるで吸血鬼のようなそれだが、それ以上に恐ろしすぎる存在。
彼らがなぜ、何のために活動し勢力を広げているのか。それがよく分からない、各員それは同じであったが今回の接触で少しづつ見えてきた一面もある。
「全く、すべて倒せばいいという話なら楽なのだがな」
「貴女はいつも好戦的ですね、スカーファさん」
「そうか?やらなければ、やられるのだぞ」
「しかしのう、血徒の厄介さを今一理解していないように見受けられるがな、お嬢さん」
スカーファの言葉に答える形で、別の任務に就いていたミロク達が戻ってきて会議室に足を踏み入れた。
「ミロクおじさん、任務のほうお疲れ様です。どうでしたか?」
「どうもこうもない、異界空間内の幾つもの領域が、血徒の物になっておる。やれやれ、皆がよく知る吸血鬼とはわけが違うが故に、厄介じゃな」
「どういうことだ、ハーネイト」
「あのですねえ、前にホテルで霊量子を帯びたものによる攻撃以外は全て無効っての話しましたよね?」
ミロクの言葉にハーネイトが重ね、一見吸血鬼を相手にしているかのような血徒がなぜこうまで面倒な相手なのかについて説明をつけ足していく。
「ああ、そうだな兄貴」
「普通の吸血鬼と違うって、何が違うの?」
「通常ああ言うのは日光、あるいは紫外線などに滅法弱い。というのが一般的な認識だろ?だが血徒は、日の影響を受けずに行動できる」
「んなこたあ分かってらあ!だがよぉ先公、奴らも微生物に感染してああなるんだろ?大体そういうのこそ紫外線殺菌とかで消えるんだろ?おかしくねえか?」
「ほう、そういうものがあるのか五丈厳。だが、それではだめなのだ」
「なっ……んだとぉ?」
ハーネイトは前にエヴィラと伯爵から聞いた話を彼らに伝える。
それは、一定の条件を満たしている場合、本来微生物全般が苦手とする日光及び紫外線などのダメージをほとんど受けず長時間潜伏し活動できること及び、別生物に感染し適性がかみ合った場合ハーネイトでもそれが血徒に取り付かれたものかどうかを即座に見分けるのは無理だということであった。
「ふう、何の話をしているのかと思えば……もう」
「エヴィラ、大丈夫だったか?」
「ええ、どうにかね。でも逃してしまったわ。大体の居所の目星はそこのおじいさんたちとでつけてきたけど」
エヴィラは疲れた表情を見せ、静かに椅子に座ると息を大きく吐いてからハーネイトに事の経緯を報告した。
それは血徒の拠点と思われる異界化装置による影響を受けた場所を見つけたことであった。
「それと、確かに昔こそ私たちは微生物全般に共通する課題として日光などに耐性がほとんどないというのはあったわ。だけど血徒は依り代を得ている間はその影響もほとんど受けないし、そうでなくても長年の研究でそのあたりだけは防御できるようにはなっているの」
エヴィラはさらに、自身がかつて血徒として活動していた際に行っていた研究に言及し、思っている吸血鬼のイメージで戦えば手痛い目に合うことは確かであることを全員に伝える。
「あー、一体誰なんだ?」
「ふうむ、ただ物でない気を感じるのう」
「も、もしかしてあの化け物の知り合い?え……っ?」
彼女の正体を知っている響たちはともかく、事情を知らないものにとってエヴィラは本当に何者なのかわからず戸惑っていた。そこに防警軍の職員数名がコーヒーやお菓子をジャックらに提供する。
「てことはハーネイトさん、やはり俺たちの能力でしかあれを」
「その通りだぞ黒龍。本当に、面倒な相手だ。私もあいつらの攻撃だと直撃はただでは済まない。無意識に彼らは霊量子を使用している」
「単に吸血鬼ってイメージだったけど、考えを改めないといけないわねえ」
「しかも、依り代を見つけるのは普通では無理というか、至って見た目は普通の生物って質が悪いわね」
部屋の中が血徒に関する話で騒がしくなり、ハーネイトは次に話を進めたいため軽くわざと咳ばらいをし注目を向けさせる。
「えーと、皆さん?そろそろ次の話に移りたいのですが」
「おう、悪いな大将」
「そうね、あの赤い光の壁をどうにかしないといけないわ」
未だ、肝心の赤い光の結界は消滅していない。それを解除しなければ被害はさらに増える。それを取り除くための作戦についてハーネイトは説明を始めたのであった。




