第245話 桃京防衛戦 桃京国際スタジアム2
「だ、誰だ?」
「おっと、マスター殿はまだ俺たちのことを話していなかったのかい?」
「南雲と風魔か、助かったぞ」
「ハーネイト様から急に呼び出されて、支援に向かえって言われて来たわ」
この見るからに日本以外の国の人間が忍者の格好をしたような者2人組は、ハーネイトの忠実な部下である。金髪で緑色基調の迷彩忍装束を来た男は南雲流星、白及び銀で構成された忍装束を纏う金茶髪の女性は風魔・蓮・彩奈と言う。
「ふう、ハーネイトさんの仲間なら心強いな」
「あの2人、纏っている闘気がただ者ではありませんね」
「ああ、あの2人は敵に回すと本当に怖い」
大和も京子も、ハーネイトから一応そういう人が部下にいることは聞いていたものの、このタイミングで来るのかと驚きを隠せなかった。何よりも、自身らよりだいぶ若くそれでいて、相当な火力を持っているというのも理由に挙げられる。
実際、ヴァンなど霊量士たちもこの戦忍相手に模擬戦をやるとかなり手こずるというほどである。能力も、ハーネイトよりは扱える元素の種類は遥かに少ないが創金術を行使できる貴重な代物である。
「うらうらうらうらぁあ!ずっと地面に平伏してな!」
「まとめて一掃してあげるわ、覚悟なさい!」
一先ず状況を素早く確認すると、南雲と風魔は二手に分かれ、それぞれが敵を引き付ける形で暴れる。南雲は鋼を操り、風魔は白銀を操る。敵陣を貫く攻撃は血海より出現する血鬼人の数を確実に減らしていく。
「おう……滅茶苦茶強いなあの二人は」
「ああ、彼らは戦忍という者でな、幼い時より過酷な訓練で心身を鍛え、圧倒的な火力で敵軍を1人でせん滅する恐ろしい実力者だ」
「異世界にも、忍者っているのね……」
「何でも、あの二人も含め地球人の血が混ざっているという。先祖が本物の忍者だったのかもしれんな」
大和は彼らの強さに言及し、京子はなぜ別の世界に忍者という存在がいるのかすごく疑問に思うも、ヴァンとシノブレードはそれぞれ疑問に答えた。それを聞いた二人は、世界の広さを改めて思い知らされた感覚に戸惑いながらも、興味津々であった。
「これで全部か?ふう、まあまあだな」
「別の世界でも、こんなことが起きているなんて……観光どころではないわね。残念」
その間に忍者2人は出現していた血鬼人をすべて撃破することに成功していた。風魔のぼやきに南雲は、主であるハーネイトが終わったら色々案内してくれる約束だといい彼女を励ます。
「ちっ、こいつらの面倒なところはとにかく数が多いのと、それを操る大バカ者がいるってことだ」
「血徒は各自、独自に自身の眷属を取り付かせた生物を完全支配し運用できる。手軽に兵を増やし勢力を拡大する。その上攻撃がほとんど通らない。全く、生きているととんでもないものに出くわすものだ」
ヴァンとシノブレードはそれぞれ、血徒の厄介さについて言及した。まだその全容を掴めていないことも含め、非常に難しい戦いを強いられる可能性が高いとも言う。
「てことは、この近くに親玉はいるわけなんだよな?兵を操るリーダーってかよ」
「そうでござろうな。だが、現れるまでこちらでも探知は難しいでござるよ」
「言われなくても、ここにいるけどね」
薄暗い木々の中から、少女の声が響く。それと同時に、大和たちの目の前に紫色の髪と赤くギラギラとした鋭い目つきと瞳、それと身に纏う黒い鎧が特徴的な少女が現れた。彼女は手にしていた剣を掲げてから剣先を向け、静かに名乗りを上げる。
「フフフ、僕の名前はツヴェルクロナ。邪魔する奴は蹴散らすよ」
「堂々と姿を見せるとは、相当自信のある奴だな」
「ツベルクロ……貴方結核菌なの?」
敵の姿を見た京子は、前に伯爵から微生界人には、それぞれ人などが観測した名称をもじって自身の名前をつけている法則があると教えてもらっていたため、医学知識などから彼女はすぐに、何の微生界人かを言い当ててみた。すると彼女は驚いた表情を見せながら、手にした剣を振り下ろす。
「へー、名前だけで分かるとは、そこのおばさん面白いわね。その通り、僕は人に取りつく結核菌の微生物人間、微生界人。でも、知ったところで。貴方達は絶望するしかないけどね」
「僕っ子属性か、フッ……やるじゃないか」
「えぇ……そこですか。だが、ただ者ではないなやはり」
ツヴェルクロナは、京子の答えにそう言葉を返しながら、どうやって彼らをいたぶり絶望に陥れようかと思考を巡らせていた。一方でヴァンは彼女の振る舞いに少し萌え、大和は困惑しながらも、見た目で相手の力を決して判断するなと自分に言い聞かせた。
「じゃあ行くわよ……!血染風!」
「なっ、こいつはまずいな、汚染が再び拡大している」
彼らの間に一陣の風が吹いたその時、ツヴェルクロナは、手元から赤い風を周囲に吹き荒らし、それに伴い血海が、スタジアム周辺の約半分にまで一気に広がり、彼女らの領域に染まっていく。血を使い、自分らの領域を広げていく。だから血徒と呼ばれ、自身らもそう名乗るのである。
「全力でやるしかないようだな!」
「こんの野郎、覚悟しとけよ!」
ツヴェルクロナは、すかさず剣を大きく振るい、薙ぎ払う形で赤い衝撃波を放つ。それをヴァンと南雲が武器で受け止めいなし、その隙に死角から風魔とシノが彼女に切りかかるが、寸でのところで防御される。
だが、完全に防御はできておらず、装甲に傷がついた彼女は、一旦後ろに間合いを取るとその部分を指でなで、明らかに以前戦った人間たちと何かが違うと感じていた。
「お前らは一体何を企んでいる!人間が憎いのか?」
「そうだけど、そうじゃない。人間よりも憎むべきものがあるの。それを倒すには、あの力が必要、それだけの話」
ツヴェルクロナは更に、剣を大きく薙ぎ払うように振るうことで衝撃波を前方に飛ばすが、京子と蓮がそれぞれCPFと戦技で防ぎ、その間隙を付きシノブレード、大和が左右から揺さぶりをかけつつ攻撃を追加で仕掛ける。
「っと、全く、今まで戦ってきた人たちとは全く違いますね。まさか、貴方達が噂のあれ?」
「どうだかな。刃を交えれば分かる、かもしれないぞ?」
「それなら、挑発に乗るよ。せいぜい僕の前で後悔してくたばるといいさ」
シノブレードは、怪訝な顔をする彼女に対し剣をくいっと動かし挑発する。まだ何か隠している、そう直感で感じたシノは、いつになく本気の構えで敵と対峙していた。
「血衣魔装・強襲突撃形態!」
「形態変化か!?」
「アハハハハ!貴方達程度に、切り札を使うまでもないです。ボクは強いですから!」
ツヴェルクロナは、これを使う価値はあると感じ、カードを切る。叫びながら彼女は、天に右腕を掲げると、自身を包んでいた服が液状化し、全く別の形に形成されると、それは再び自身の鎧と化した。
これが、血徒が微生界人の共通能力及び戦技、戦闘微術を更に研究しその果てに実用化にこぎつけた、戦形変化と呼ばれる戦術を体現する、一種の変身能力であった。




