第243話 桃京防衛戦 大伊火力発電所4
「行くぞ!アーアハハハハ!」
「射線からよけるんだ君たち!」
「遅い!」
プロワツェキイは、そのまま猛スピードで直進し、くし刺しにしようとする。だがサインは素早く彼の頭を蹴り飛ばし、ドガはそれを計算し、吹き飛ばされた進路先に設置型の罠をいくつも展開する。
「くっ、間に合え!百花繚乱陣」
「ぅおおおお!」
「次いでにもらっていけ!CPF・破天匣&碧緑暴風嵐!」
ドガの先読みによる置き攻撃に翻弄され、動きが止まるプロワツェキイに対し九龍と翼は左右から揺さぶりをかけるかのごとく猛襲を仕掛ける。
「今じゃ、いけ!」
「チャンスは逃さねえよ!」
「行くぜマスラオウ!」
「ほう、面白い。ハハハハ!ではこれでジエンドだ!」
「っ!血の刃を射出!?避けきれ……っ」
それに対し怒り狂ったプロワツェキイは右腕を突き出し血の刃を数十本も射出する。先ほどよりも本数が多く、回避姿勢が遅れた九龍が攻撃を受けそうになる。
「ブレブレブレブレ!」
だがその時、空から無数の霊量子でできた銃弾が刃を次々と叩き落し、攻撃を妨害し九龍を助けたのであった。
「ブレンメン!」
「あれも具現霊、なのか?しかし助かったぜ」
その攻撃を放った正体、それがエアハルトと、彼にずっととりついていたあの恐るべきドイツのエースパイロット、ルーデルであった。
とどめの銃撃はプロワツェキイの腕や肩を打ち抜き、彼を大きくよろめかせ大ダメージを与えた。
核攻撃、反物質爆弾などでも全く無傷でいられるヴィダールの神造兵器群が第2世代、微生界人であろうとも、同じ生みの親である同族の放つ攻撃だけは防ぎきれない。
「ようやく、向き合い方が分かったよ。今まで、散々苦労したけどな」
自分と共鳴した幽霊が、力を貸してくれた。しかも味方の役に立てた。エアハルトはそう思うと感極まって涙が止まらなかった。今まで不幸続きの人生だったけど、何故だかそれすらもすべて帳消しできそうなほどに、いま置かれている環境は不思議といいものであった。
「小癪な真似を!纏めて串刺しにしてくれる!」
「させねーよ!CPF・解空風壁!とどめだマスラオウ、震天弩轟だ!」
「合わせるぞ、UAトリガー・ロケットランチャー!」
「壊嵐脚・技駕回天脚(ナマステトルネード・ギガスクリュードライブ)!」
「カンタレーラ、大技行くぞ!呪縛黒樹陣だ!」
「とりあえず、やっちまってくれ!ルーデル閣下さん!」
「言われなくてもやるわい、対戦車砲の威力、味わえ!」
エアハルトとルーデルの協力で転倒したプロワツェキイに対し、翼と九龍、サインとドガはそれぞれ別方向から同時に一斉攻撃を仕掛けた。その無数の攻撃に、彼の身にまとっていた血の鎧は全て砕かれ、それを貫き大ダメージを与えたのであった。
「そんな馬鹿なぁあああああ!このわしが、っ!」
プロワツェキイは、その場で膝をつくとなぜこうなったのか、現状をどこか受け入れられずにいた。今まで誰もかなう存在などなかったのに、こうも一方的に攻撃されるという事実に、悔しそうな顔をして翼たちをにらみつけた。
「そうか、貴様らがわれらの計画を邪魔した、あれの手下か。くっ、一先ず今は引いてやる、次は覚悟しておけっ、この愚か者がぁ!」
そう台詞を吐き捨てると、ぼろぼろになったプロワツェキイは瞬時に姿を消したのであった。
「ちっ、撤退しやがったな!待ちやがれじじい!」
「深追いはするな、九龍。ありゃまじでやべえな」
「ああ、そうだな翼。まだあれを、一人で倒せる気がわかねえよ」
「全く、ハーネイトは何を考えている。まだ一人であれと戦うには皆、技量も経験も足りない」
翼と九龍は、もっと自分たちの力を高めたいと思い、一方でサインは全員の戦闘を分析したうえで、主であるハーネイトの意図する内容について重々理解しつつこうぼやいたのであった。それを聞いたドガは、引っかかっていたことを彼に質問した。
「しかし、たまに思うのだが少々私たちにすら過保護ではないのかね?全員が無事に帰ってこられるようにと彼はいつも、寝る間も惜しんで研究などに励んで居る」
「……彼は、自身を怖がらずに見てくれる存在を多く求めているのです」
サインは、昔のことを思い出しながら、ハーネイトがなぜ他人との関わり方にどこか違和感があるのかを全員に教えた。彼は誰よりも寂しがり屋であり、その理由は、幼い時に友で共に学ぶ仲間だった同年代の子供たちが、ある事件をきっかけに誰も口をきいてくれなくなったことに起因する。
そのせいで、孤独を人何倍も彼は恐れるようになってしまった。それでも、自身の努力と行動で、彼の力をあまり恐れずに傍にいてくれる存在は増えていった。
しかし彼は、さらに多くの理解者を求めているとサインは話した。
「そういうことか……彼も、苦労の連続だったのだな……」
「だけどよ、別に兄貴のこと俺は全く怖くねえし頼れると思ってるぜ」
「少々変なところはあるけどさ、きっちり最後は締めるし俺たちの意見をどんどん聞いてくれるのがうれしいぜ。何より、自分も含めた皆の命の恩人だぜ?へへっ」
「その言葉、直接言えばさぞ喜ぶだろうな。……正直私も、たまに彼の突飛なアイデアに振り回されることもあります。ですが、世界を、皆さんを守るという気持ちは誰よりもあるお方だ」
サインの話をすべて聞いたうえで、翼も九龍も、ドガもそう答えハーネイトには感謝の言葉しかないという。事実、もし彼らの助けがなければ犠牲者はとめどなく増えていくところであった。
「確かに、いいように利用されているのかもしれないという疑念はあるだろう。だがそれでも今まで、こうして戦ってきた。それに、現霊士にして、神葬者とも言える君たちは世界を守るために武器を取ったわけです。その思いが、我が主の力にもなるのです」
サインは、ハーネイトがどこか残念なところがあることについて話し、それでも彼はできるだけ世界を守ろうと必死であることを翼たちに伝える。
「信じて、いいんだよな?これからも」
「それは、君たちで好きに思えばいい。どちらにせよ、このままでは結論から言えば、何物も存在しなかったこと扱いになる。それだけ、ヴィダールというのは恐ろしい生命体だ。多くの生物が神として崇めてしまうのも無理はないほどにな」
翼の質問にサインはそう答えた上で、自分もまたヴィダールにより生み出された存在の末裔であることを明かし、戦う敵はどれもこれも一般人では決して倒せない強大なものであることを自覚するようにと説く。
「神様か……確かに、世界の入れ物を作ったってのが事実なら、確かにそう思うぜ。スケールがけた違いにも程がある」
「全く、そのヴィダール、またはヴィディアルと呼ばれる存在は、この地球では確認などされてこなかったうえに初めて聞いた言葉じゃったからな」
「俺はそういう難しい話分かんねえけどさ、命の恩人の親が、世界を自分だけのものにしようとしているのだけは分かった。自分たちの未来は、自分たちで作っていきたいからさ、邪魔はさせねえよってな」
その間、4人の話を遠巻きに見ていたエアハルトは、自分もようやくあれと戦えるんだと実感し心の中で感激していた。実は、5年前の事件とは別に10年ほど前にも血徒による事件は散発的だが発生しており、その被害者が彼と彼の暮らしていた村だったのである。大切なものをすべて失い、失意に暮れていたあの時を思い出しながら、皆の分まで自分は戦うと心に決めたのであった。
「あ、あははは、俺もあれと戦えるのか」
「そうじゃなあ。儂が大戦の時戦った連中より面倒で恐ろしい奴らだが問題ない」
具現霊と化した破壊王は、どんな相手だろうが倒すまでだと意気込んでいた。すると翼たちが彼のもとに駆け寄り話しかけてきた。
「さっきは助かったぜそこの兄さん」
「……具現霊にしては何かがおかしいな。悪霊と自分のが混ざっているようだが……うーむ」
「やはり、あまりよくない状態なのかそこのバトラーさん」
自分の状態についてサインが放った言葉が気になり尋ねると、サインは難しそうな顔をしていた。
「いえ、あまり見ないケースなので、それだけの話です。しかし、もうあなたもこちら側ですね」
「ど、どういうことですか?」
「あの化け物たちを倒せる力を得た能力者なのだよ、私たちも君も」
「ドイツだけでなく、世界各地を恐怖に陥れた、あれを?」
サイン達霊量士は、具現霊なしで戦うことができる。それはヴィダールの気運を持つものだからである。生まれつき持っていない存在については、霊量子を浴びたり攻撃でショックを体が受けることで力に目覚めるのが通例である。
その中でも、何もかも失ったり空虚な人生を送る者は、俗にいう幽霊が取り付き影響を与えることがある。だがそれを受け入れると力を合わせ具現霊になるケースがまれにあるため、珍しいものを見たと言わんばかりの顔をしていたのであった。
それを踏まえたうえでサインは、エアハルトに対しもう自分たちと同じ仲間だと言い切った。昔、まだ自身がハーネイトの傍で彼を支えていた時には、とても出てこない言葉だなとサインは心の中で苦笑しつつ、自身も多くの経験を積み変わってきたのだなと実感していた。
「ああ、これからの修行次第だがな」
「……そう、ですか。ずっと、僕は幽霊に取りつかれていました。そのせいで一度夢を絶たれましたが、でも、それも人生なのかもしれません。ずっと前を向いていられるためにも……お願いします、僕を鍛えてください!」
「承諾した。現場を片付けてから、私たちについてきてくれ」
「はい、あの……あなた達の名前を教えてください」
「サイン、サイン・シールシャルート・ヴェルナードだ」
ここから新たな人生の物語が始まる。そんなことを思ってもいなかったエアハルトであったが、ようやく正体を知り戦える存在になった今なら、孤独な人生とはもうサヨナラしよう。そう思い仲間に加わりたいと強く願った。そんな彼を見たドガは、人生何があるかわからないとしみじみに思っていた。
「同郷の者が異国の地でな……フッ」
「貴方、もしかして生体工学で有名なドガ博士ですか?」
「そうじゃよ。生きていると、不思議なことばかりだと思う。よもや自身が力を得るなどという経験は特にな。若人よ、共に、この事件の結末を見届けようぞ」
エアハルトは、ドガの顔を見てやはりだと思い確認した。ドガは、自分たちは事件の真相を知る義務があるといい、また現霊士、神葬者としての技術を高め続ける必要があると彼に言った。
「へっ、よろしくなお兄さんよ」
「俺たちが先輩だからな、覚悟しとけよ?」
「あはは、よろしくお願いするよ」
翼と九龍はエアハルトに詰め寄ると、自分たちがいろいろ手ほどきすると、先輩風を吹かせるかのように楽しそうに言い、少し彼を困らせる。だが賑やかなのも悪くないなと思い、エアハルトは2人と握手をした。その間にサインはまだ目を丸くして、信じられないといった表情をしている御蔵と伊上に声をかける。
「んで、そこにいる防警軍の隊員とやら、移動用の乗り物の手配はできるか?」
「ああ、それなら既に手配を済ませてある。散り散りになった仲間の無事も確認できた。……貴方方がいなければ、命を落としていたかもしれない。ありがとう、皆」
サインに対し御蔵と伊上はすでに、車両などの手配はしてあると言ったうえで感謝の意を述べる。一切の武器が効かないというか、物理的に倒しても際限なく蘇り仲間を増やす敵を相手を一方的に叩ける彼らを見て、希望が現れたと2人は思ったのであった。
「仕方ない話だ。あれを倒せるのは、ごく限られた人材だけ。それ以外の方は避難誘導や救出などに全力を捧げていてください」
「分かりました。宇田方総司令も、あなた方のような存在に出会えたことを心から感謝していると思います」
サインの言葉に伊上は、他の隊員も併せ代表として改めて感謝したのであった。
そしてエアハルトは、既に日が暮れていた空を見上げ、具現霊となった破壊王ルーデルと心の中で会話をしていた。
「なぜ、あなたは私のずっとそばにいたのですか。血縁関係があるわけもないのに」
「フッ、それはだな。幼い時のわしと、お前さんがよく似ていると感じたからじゃ。空に憧れる者どうし、これからは共に戦おうぞ。もはや、国同士で争っている状態ではない。人類の危機なのじゃだからな」
「ええ、そうですね。もう、私の操縦を邪魔しないですよね?」
そうしているうちに迎えの車が到着し、他の隊員が別の車から降りると周囲を偵察しながら敷地内に入る。翼たちも最後にそれを手伝い、ほかに敵がいないかを確認し終えてから総本部に帰還したのであった。




