第241話 桃京防衛戦 大伊火力発電所2
「ああ、御蔵さん!」
「伊上か、無事だったか」
それは、御蔵の部下である伊上隊員であった。隊長の到着を1人で待っていたようであり、本来ならば隊長の捜索に行きたかったものの、本部の命令でここで待機しておくようにと言われたのであった。
なぜそうなったのか、それは隊員は全員生命判断装置の付いた腕時計の着用をしており、生死、けがの状態などが本部まで常にリンクして情報が届いているため、緊急性は低いと上が判断したのであった。
「はい、他の隊員は既に施設内に入って警備にあたっております。しかし、相手が相手です」
「ああ、正直どんな装備を持っていても不安だな」
「はい、それとこのお方は」
井上は隊長が無事でよかったと胸をなでおろし、隣にいる私服姿のエアハルトに声をかけた。そこで彼はなぜこうして隊長といるのかを時系列を追って説明した。
「隊長を助けてくださったのですね、ありがとうございます」
「まあ、成り行きだよ。だが、吸血鬼か。っておい、あれを見るんだ」
御蔵は正門のほうに指をさす。すると見る見るうちに血海が広がっていき、そこから数体もの血鬼人が出現したのであった。
「まずいな、急速に汚染が広がっている。しかも出やがったな!」
「入ったのはまずかったかもですね。逃げ場ありませんよこれ」
「くっ、増援が来るのは聞いているか?」
「はい、もうすぐ到着するようです」
今目の前にいる存在に、碌に対抗できる武器はないけれど、それでもここは死守する。その気概が空気で伝わってきたエアハルトは、思わず拳を構えたのであった。
その間に、応援部隊、そしてハーネイトの派遣した現霊士が発電所と目の鼻の先まで来ていた。目のいい翼が施設の入り口付近で包囲されている人間を見つける。
「あそこに逃げ遅れた人がいるぞ!」
「発電所内部はまだ何もないというが、時間の猶予はない。行くぞ!」
そうして翼、九龍、サイン、ドガの4名は霊量子を脚から噴出し、上空から敷地内への侵入を図ったのであった。
「フフフ、ここは良いエネルギーの産出場所だ。元素を分解するよりも、別のエネルギーを霊量化するほうが早く回収できる。と、ほう、これはこれは」
「だ、誰だ!」
その間に、発電所の入り口に大柄の男が突如出現し、建物のほうを見ながらにやけていた。しかし、勿論この男は人間ではなく、血徒である。
「貴様、速やかに手を挙げろ!」
男の侵入を確認し、御蔵は意味がないとわかっていても拳銃を構え、それ以上踏み入れるなと警告する。すると男は声高に名乗り上げたのであった。
「我が名は、血徒・プロワツェキイと申す。ククク、人間どもよ、覚悟するのだ」
月明かりに照らされ、男の顔がはっきりと見える。それは、血にまみれた魔人か何かのようであり、血でできた執事服のような物を身に着け、常に不遜な態度を周囲に放っていた。
この血徒は、発疹チフスの原因となるリケッチアの微生界人であり、かなりの力を持ちそれでいて、限られた血徒しか身に着けられない能力を備えていた。
「お前が、話に聞いた血徒だな!仲間の仇、打たせてもらうぞ!」
「フッ、愚かな。以前戦った時のことを忘れておるのか?絶望に屈した貴様らの顔は、よおく覚えておるぞハハハハハ!!!」
プロワツェキイは、5年前にブラッドホワイトデー事件に関与した容疑者の一人であり、ある薬を売るために他の血徒と協力していたという。
彼はまるで慢心しているかのように、相当手加減をして、手元から血液の弾丸を放つ。それは御蔵の腕に直撃した。
「がはっ!ぐっ、く、このっ!化け物がぁ!」
「隊長!」
「どう呼ばれようと勝手だ、しかし計画の邪魔だけはさせんぞ」
「何だ、計画とは」
「フフフ、知ってどうするか。予定は狂えど、新たなビーコンを見つけている以上こちらの勝ちだ」
攻撃を受け、痛みで顔をしかめる御蔵に対し、プロワツェキイは腕を組みながら、自身らの目的についてかなり簡略に話し出した。しかしその意味は、その場にいた3人にはよく理解できなかった。
「ビーコンだと?何か誘導するのか」
「その通りだ、ククク。まあ、知ったところでお前らではどうしようもできないがな。様々なエネルギーを霊量化し、霊量子を集めることでこの星自体を、あのお方らが見つけられるようにしている。紅き災星堕つるその時が、貴様らの命日だ」
エアハルトは勇気を振り絞りそう質問する。血徒は、エネルギーを集め何らかの存在をこの地球に呼ぼうとしている。その存在が、地球に住む生命体全般にとって災いでしかないことについてもプロワツェキイは話をしたのであった。
その上で、知ったところで何ができるとあざ笑い、口元に指を添えながら終始余裕のある態度をとっていた。これは、血徒個人個人の能力の高さから来るものであった。
「ふざけたことぬかしやがって、仲間の仇、取らせてもらうぜ!」
一方的に意味のよくわからない話を聞かされた御蔵は頭に血が上り、手にしていた銃の引き金を引き、数発発砲する。しかし微生界人にはそういった攻撃は全く意味がない。まるで幽霊か何かのように弾丸は勢いよくすり抜けていった。
「フッ、何度やっても無意味だ」
「まあ効かないんだがな人間よ!落ちろ!」
「ごはっ!」
そういいプロワツェキイは、先ほど放ったものよりも大きな弾丸を御蔵の胴体に当てて吹き飛ばしたのであった。しかしこれもかなり手加減しているようで、いわば舐めプ状態であった。どうもこの微生界人はいたぶりながら追い詰めるのが好みなようである。
「血の塊か何かか?しっかりしろ防警軍のおじさん」
「ぐふっ、どうにか耐えたが……っくたばれ!」
「どこからそんな銃をとりだせるのだまじで」
腹部の激痛に悶えながらも、御蔵は隠し持っていたショットガンをどこからか取り出し伊上とエアハルトを驚かせた。その様子を見て、プロワツェキイはあきれた表情を見せていた。
「敵わないと知って、何故来るのだ人間」
「それは、万に一つの可能性を、信じているからだ!」
「なっ、どこからだ!」
そろそろ発電所を奪おう、そうプロワツェキイは脚を進めた矢先、何者かの叫び声がする。それに反応し彼は、上のほうから何かが落ちてくるのを目で捉えた。それは、翼たち現霊士であった。




