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レヴェネイター  謎多き魔法探偵と霊量士(クォルタード)の活動録  作者: トッキー
第2部 桃京血徒戦線 暴走する神造兵器・血徒(ブラディエイター)
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第239話 桃京解放戦 桃京駅防衛4


 そんな中、赤穗は夢を見ていた。それは薄暗い道を歩き続けているかのようで、空気が異様に重たい感覚を覚えていた。


 昔のことを思い出しながら、胸が苦しくなりそうでたまらなかった。そんな中、彼女を導くような声がした。それはどこか聞きなれたもので、その音の発した場所に彼女は走っていく。


 すると、そこには背丈が2m近い、頭が骸骨と化した全身鎧をまとい、大剣を肩に担いだ者がいた。声の主はこの者であり、その声が、まだ防警軍ができる前の、自衛隊での上司であったある男のものだったため彼女は目を丸くしていた。


「うぅ……貴方は、っ!」


「全く、お前は相変わらずだな。突っ走ってミスって、もう少し周りを見ろよな」


「な、なんで……貴方が。あの時あの化け物にやられたはず……」


 彼女には苦い思い出がある。それは、自身らの無力さが招いた悲劇であった。5年前のブラッドホワイトデー事件で、彼女は上官と仲間数名を失っている。その上官が、目の前にいたのである。


「確かに、俺はあの時お前らを逃すためにあれと戦って、負けた。だが、どうしてもお前らが心配でな、ずっとそばにいたんだぞ」


「隊長……っ、あの、今まで私たちはあれに対抗できる手段がほぼありませんでした。しかし今……」


 今でも思い出す、あの悪夢。夢なら冷めてほしいと思ったが、現実は非情に突き刺さる。上司の亡骸を抱いた赤穗は、彼の分まで戦うと決め防警軍に入った過去がある。


 今度は誰一人かけることなく、全員で戻れるぐらいに強くなれるように、彼女はひたすら鍛えた。


 けれど、対峙する敵は自身らの常識が通用しない存在であることはわかっていた。それでも事実に向き合い、どう打破しようかずっと考えていた彼女の真剣さに応える形で、血徒による負傷を引き金に彼は現れたのであった。


「ああ、知っているさ。電話越しに、聞いていたよ。宇田方の爺さんもようやるなと思うがな。多くの民を助けるには、少しでも俺たちが彼らの盾となり、矛になるしかねえ」


「金城隊長……はい、私たちは、私たちの仕事はそうです。あらゆる脅威から多くの人を守るために存在します。どうか、力を貸してください、隊長……っ!」


 共に思いは同じであり、全力で職務を全うし、市民の安全を確保する。それができるのは自分たちだという自負と決意が融合し、骸骨騎士と化した金城と共鳴する。


「俺の手を取れ、赤穗。こんな姿になっちまったが、逆にこれだからこそやれる。俺の好きだったヒーロー、アカシャドのようにこれからは……!!」


 そうして、彼女は静かに夢の中で彼と手を握った。すると急に夢から目覚めたのであった。


「うぅ……はっ!」


「目覚めたわね、フフフ。しかし、この具現霊は……?」


「星奈、皆の援護をするため離れる。後は頼んだぞ」


 思ったより苦戦しているボガーたちを助けるため、時枝は一旦場を離れ、少しでもダメージの通りがいい火炎属性のCPFで援護する。その間に、赤穗は起き上がり、頭に手を当ててから周囲を見渡した。


「お、おい、ここは……はっ!」


「おめでとう、貴女もあれに対抗できる力を得たわね」


「なんだか、夢を見ているようだった、けれど……ううん、これは現実。ってきゃあああ!」


「まだ倒しきれないの?」


 星奈は赤穗の様子を見て、もう峠は越えたと判断しほっとしたがそれもつかの間、地面に衝撃が走り地震のように駅内が揺れ、赤穗はよろけながらもすぐに手すりを握り起き上がると、外に向かって走り出し、それを星奈も追いかけたのであった。


 その間に時枝も攻撃支援を行い、ミチザネの放つ雷撃を魔獣に喰らわせるが、どうも技の通りが悪いのを感じていた。


「思ったより雷撃が効果ない」


「火炎属性攻撃が必要だね、しかし僕も、相手を動かさないようにしているので精一杯なんだけど」


 それを見ていたカラプラーヴォルスは、植物と魔獣の混合種は電雷属性に抵抗があることを時枝に教え、弱点についてアドバイスをする。


 そのうえで、自身もサルモネラ伯爵のような破壊力があればなとぼやきつつ、できることをしていると口に出した。


「カラプラーヴォルスさん、あの伯爵のように醸せないのか?」


「あれは特別なんだ、あの尋常じゃない速さですべてを朽ちさせ、自らの糧にすることができるのは、彼だけなんだよねぇ」


 時枝も、サルモネラ伯爵の驚異の戦闘力は演習や実戦で目にしていたので菌界人、あるいは微生界人は共通で分解能力を持っているのではないかと思っていたが、カラプラーヴォルスの回答は意外なものであった。


 分解能に関して、個体差でかなりの差がありその中で伯爵は、ありえないほどの高い能力を持っているという。しいて言うなら、喰らうために特化した能力であると説明したカラプラーヴォルスは、彼の恐ろしさを語りながら少しずつ敵の体内に自身の眷属を送り込み、独自の毒素で弱らせていた。


 そうしながら、伯爵はサルモネラ家に伝わる毒素を作ることができないという点があることも彼らに教える。


「げ、まじかよ。初耳だぞそれ」


「伯爵って、もしかして変わり者の中の変わり者?」


「もう!話してばかりじゃなくて援護して!建物守るので精一杯だし!」


「っ!これ使ってみるか。CPF・相炎走そうえんばしり!」


 カラプラーヴォルスの話に驚くウッシュガローに対し、エスメラルダは口を動かすよりも手を動かせと言いながら、霊量子で周囲の建物に被害が出ないようにしつつ血徒化した魔獣の体力を削る風を発生させ続けていた。そんな彼女を援護するべく、火炎属性のCPFを使用する。


「ギャアウウウウ!」


「効くが、火力不足か。ブラッドの奴なら楽勝何だろうが……ってうぉおお!」


 CPFの開発に関わった地球人はともかく、異世界から来て新技術を利用できるようになったウッシュガローたちは、CPFの扱いにまだ不慣れな点があった。


 それもそのはず、本来CPFは魔法使いの扱う大魔法の霊量子再現版であり、術師でない人が使うと威力が本来のより出にくいという問題があった。


 今のがまさにそれで、どうしたものかと思ったウッシュガローは、背後から何かが来るのを感じ寸前のところで避けたのであった。


「だ、誰!」


「いっけえええ!」


「地獄から、俺は甦る!煉獄の火炎に呑まれやがれ!」


 自分のそばを駆け抜けたそれを見たウッシュガローは、おそらく誰かの具現霊であることは理解できたが、自分の後ろにいた赤穗の声で彼女のものであることが分かり、これまたすごいものを呼んできたなと思いながら、体の各所から青い炎を吹き出す骸骨の騎士の姿をしばし観察していた。


「ありゃ、具現霊か?」


「だ、誰のかしら。まさか!」


「あの骸骨の騎士が、周囲を回りながら火炎地帯を形成している。そのせいで注意が完全にあの具現霊に向かっているわ。今よ、全員総攻撃!」


「俺も手伝うぜ!蛇龍壊牙だ!」


 赤穗の具現霊となった金城こと煉獄の髑髏騎士・ヴォルゲインは、植物獣の周囲を高速で駆けながら走った後に青白く燃える炎の帯を残し、逃げられないように円状の火炎陣を形成する。


 それに幻惑されている植物獣の隙を突き、触手と胴体の根元に向かって青白い炎の衝撃斬を大剣を振るって放ち大炎上させる。属性が一致し燃えて苦しむそれを見たエスメラルダたちは、黒龍達を始めとする総攻撃を一気に仕掛けその圧倒的な総合火力にて、敵に再生能力を上回るダメージを与えることに成功し無事エネミーを撃破することができたのであった。


「撃破に成功できたね。ふう、この世界の生物が取り付かれたのならともかく、それ以外の世界の住民が感染しようものならこうなるわけ」


「奴ら、どこまで勢力を広げていやがる」


 人間だけでなく、それ以外の世界の住民まで手をかけている血徒。その脅威とおぞましいやり方にウッシュガローらは憤りを隠せなかった。そこまでして、何をしようとしているのかがまだ不明である以上、野放しには決してできない相手である。


「しかし、やりづれえなあ全くよ」


「そうねボガー、後でハーネイトに追加料金払ってもらわないと」


「にしても、やはりか。赤穗さんよぉ、今ならはっきり見えるんだろ?」


 思っていた以上の敵の出現に、さすがに参ったのかエスメラルダとボガーはそれぞれ思ったことを口に出しぼやきつつも、全員無事に帰れることを喜んでいた。


 一方でウッシュガローはどこか視線がおぼつかない赤穗の傍に歩み寄り声をかけた。 


「え、ああ、そうだな。……これで、私もあの脅威に対抗できる、のですよね」


「それは今後の鍛錬次第だがな。しかし、いい師がこちらにはたくさんいるのでねお嬢さん」


「お嬢さんって、全く……しかし、貴方たちにはどれほどのお礼を」


 赤穗は自身の得た力に対しまだ疑心暗鬼なところがあった。それを察したガローは、自分たちもそういう戸惑いはあったこと、それでも生きているなら前を向いて、未来を創るために力を振るう必要が出てくるときがあると言い彼女に彼なりのエールを送ったのであった。


 少々ガサツでぶっきらぼうかつ不器用な一面があるが、ガローは周囲の空気を機敏に感じ取り、悩んでいる人を放っておけないいい面がある。


「フッ、それならば俺たちがいなくともあんなのにやりあえるほどに強くなりな。ハーネイトも喜ぶぜ」


「あんなやばい奴らとこれからも戦わないといけない。赤穗さん、どうか協力していただけませんか?」


「勿論だ、そうでないと多くの人を守れない」


「私たちも、もっと精進しないとね」


 ボガーとウッシュガローはそれぞれ、彼女を安心させつつ更に技術を磨ける場と人材があることを教えた。そして時枝と星奈は、新たな戦友が増えることを歓迎していた。


 赤穗は、かつて自身らを助け命を落とした恩人であり上司とともに、再び前に出て戦えることが一番うれしく、薄らと涙を流しながらこれ以上不幸な人を増やさないように、今まで以上に職務に全力で取り組むことを誓ったのであった。


「では、この車両に乗ってください。報告などの件もあるので一旦帰還します。乃木中尉、準備と後続部隊の派遣を本部に要請してくれ」


「はい!私からも、危ないところを助けていただきありがとうございます。この土地に不慣れな方も少なくないでしょう、なので私たちがあなたたちの足となります」


「おうおう、では任せたぜ若い兄ちゃんよぉ」


 こうして、桃京駅周辺は物的被害は出てしまったものの、被害者を0に抑えることができ無事に任務を達成することができたのであった。


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