第237話 桃京解放戦 桃京駅防衛2
「あれがこの状況を作った元凶か?」
「ククク、確かにその通りだがな」
「名を名乗ってもらおうか、吸血鬼さん!」
「せっかちだな人間どもは。まあ、寿命が短い種故時間に追われるのは仕方ないか、ククク。俺は、ストレプト・ピオゲネス。血徒に属するものよ。後吸血鬼じゃねえ」
現れたこの血徒は、人間に対しGAS感染症(溶連菌感染症)を引き起こす、いわば化膿性連鎖球菌の微生界人である。
手には伸縮自在な鞭を持ち、赤いコートを身にまとい、不気味な笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。
「ピオゲネス……貴様らは何の目的でこんな真似を!」
「何の目的でだと?クハハハハ!笑わせる。人間をはじめとした生物を分解し、あるお方に捧げるために決まっておろうが」
「っ!悪いけれど、それ以上そのような真似はさせませんよ」
ピオゲネスは大きく笑い、時枝の質問に対しまるで隠すことなどないような感じでこう答える。
そもそも矢田神村などで起こした魂食獣による事件も、霊量子を集めるためであり自身らが手を汚さずとも効率よく回収できるように、直接乗り移ることのできない霊界の住民を洗脳するために、魔界の住民を利用し禁術を用いて支配し、霊界の戦士や魂食獣を思いのままに運用していたのである。
これは事件解決後、ハーネイトがまとめた捜査資料記録にも同様のことが書いてあった。回りくどい手口で神造兵器まで翻弄する血徒は、まことに恐るべき相手である。
「あれを倒すぞ!ミチザネ、あれだ!俺はCPFとUAを同時使用する!怯んだ隙に雷撃を!」
「ああ、わかったぞ兄者よ」
「みんなも連携を!……装填完了!UAトリガー・サブマシンガン&CPF・五絞篭!」
「同時使用だと?面白いな!じゃあ真似でもするか!黒蛇、併せてくれ!」
そうしてすかさず、時間差を用いた連携攻撃を時枝と黒龍は繰り出す。だが全ての攻撃がピオゲネスの展開した血の幕で遮られ届かなかった。
だが、すべて受け止めた反動で、すぐにその幕にはひびが入り、砕けるように崩壊したのであった、
「フフフ、確かに今のは驚きましたよ。5年前に私の邪魔をしようとした輩とは違う、明らかにな」
2人の攻撃を受け、予想以上に防御が破られたことに対し驚きと感動の両方が体を支配する。
実はこの微生界人、5年前の事件にも関与しておりその時は盛大に侵略の限りを尽くしたという。
同族あるいはヴィダールに由縁のあるもの以外の攻撃は全く効かない共通の能力は、多くの人間を恐怖と絶望に陥れたのである。
これでも血徒の中では第3級だというからたちの悪い話であり、血徒17衆ともなれば1人で国1つなど容易く滅ぼせるという。
「強がるなよ化け物が!鬼封槍陣・グラシア!」
その間にボガーは、別の建物の屋上まで急いで駆け上ると、上から一本の槍を地面に向けて投げつける。しかしそれはピオゲネス本体には当たらず、その足元に刺さる。
すると、黄色く光る魔法陣が槍の穂先より展開され、彼の動きを拘束しようとする。これが、ボガーの得意戦術である。
「なっ、上からか!ぐっ、これは光の力……!」
「動きを止めた、やれ!お前ら!」
ボガーはさらに別の槍を手にし、攻撃を重ねようとするがピオゲネスの持つ鞭が槍に絡みつき攻撃を防ぐ。
その間に星奈がUAトリガー・サブマシンガンを持ち、ワダツミとともに突貫する。だが、それはピオゲネスの得意領域に入ろうとすることであった。
「かかったな!血爆斬!派手に爆ぜてしまえぇ!」
「し、しまったっ!」
「喰らえ小娘!」
ピオゲネスのカウンター攻撃、血爆剣が炸裂しようとしたその時、黒龍はそれを防ごうとCデパイサーをつけている左腕を突き出す。
「甘めえよ!CPF・結束万布!」
「ぐっ、動きを封じる技か!貴様ぁ!」
黒龍の放つ結束万布により、体の動きを拘束されたピオゲネスは、星奈の攻撃をまともに受けて、大きくよろめく。それでも彼は反撃しようと指先から赤い糸のようなものを出してきた。
「小癪な真似を!血染糸でも喰らえ!」
「っ!これはかわしきれない……っ!あ、ん?これはどういうことだ」
「君たちさあ、もう少し相手の行動を見て動いたら?危なかったよー今の」
ピオゲネスの放った血による攻撃は、怒涛の勢いで黒龍に迫るも、それらはすべて地面から突如出現した緑色の触手の腕に遮られたのであった。
それを見たピオゲネスは、どこかで見覚えのあるものだと少し間合いを取り、険しい表情で身構えていた。
「なんだ、溶連菌のあいつじゃないか、ハハハハ、元気してた?」
そうすると、周囲に響き渡る声とともにカラプラーヴォルスが触手の中からすっと出現し、ピオゲネスに対し挑発を仕掛ける。
「き、貴様!!!何でこんな、いや、人間の味方をしてやがる!」
「えー、僕日和見だし?そもそも血徒って哀れだよねハハハ!自分たちだけで数を増やすこともままならないなんて」
「手前馬鹿にしているのか、俺はウイルスじゃねえよ!それに、仲間のことまでそう言う奴は、ぶっ潰してやる!」
カラプラーヴォルスは血徒の多くが自力で増殖ができないウイルス、リケッチャで構成されていることについて事実であることを憎たらしく指摘し、相手を激昂させる。
けれど相手は微生界人であり、別に他の生物なしに増やせないなんてことはあまりない種族である。
だが仲間思いなところのあるピオゲネスにとっては、自分も仲間を侮辱したような発言だと受け取りいきなりカラプラーヴォルスに向かって突貫する。だが、それは叶わなかった。
「仲間意識ねえ、美しいけどお馬鹿さん、冷静さを欠いた時点で負けだよ。戦場では特にね」
「ごはっ!がはあ、ぐっ……!」
ピオゲネスは、手にした血でできた鞭を振るおうとする間もなく、次の瞬間背後から触手に貫かれ重傷を負う。するとその場からあっという間に姿を消したのであった。
幼い男の子のような見た目に反しこのカラプラーヴォルスというこの微生界人は、ドライというか冷酷で無慈悲なところがある。かつての仲間でも、敵に寝返るなら容赦しないのである。
彼自身、U=ONEの力なしでウイルス界系微生界人とも渡り合える実力を持つという。
「弱いねえ、こんなんじゃ相手にならないよ」
「強い……あの時もそうだったが、さすが伯爵の仲間か」
「全くさあ、ナビゲーターがとどめさすってどういうこと?頼むよみんな。この先、もっと怖いのたくさん出るんだからさー」
カラプラーヴォルスは周囲を見渡してからつまらなさそうに、けだるそうにそう言いあくびをする。そして本来なら自分ではなく、黒龍らがとどめを刺すべきだと指摘する。
守りたいものは、自分の手で守れ。そう彼は遠回しに言っているようなものであった。




