第236話 桃京解放戦 桃京駅防衛1
桃京駅 ボガー、時枝、星奈、黒龍
「嘘でしょ、こんなところにも!」
「あの時の悪夢が……っ!しかも何だこれは!」
「隊長!既にここは奴らの手に落ちているようです!赤い何かがあっという間に」
「まずいわね、しかし迂闊に近づけば……」
桃京駅の正面口。その前には広場があるが、そこはすでに汚染されていた。しかも、血海が部隊を分断し、混乱に陥れていた。ここの監視にあたっていた赤穗とその部下数名は、完全に敵の術中にはまっていた。
だがしかし、すぐに形勢を逆転する存在は近くまで来ていた。そう、ハーネイトの派遣した4人の戦士のことである。状況を見たボガーは、全速力で駆けつけると、孤立していた防警軍の隊員たちを目視で確認した。
「ありゃまずいんじゃねえのか?包囲されてやがる」
「俺たちで突破口を作るぞ!」
「ええ、早く片付けましょう!」
「待て、こりゃAミッションでやるしかないぜ」
「ああ、だからいま増援を呼ぶ」
ボガーは、他の3人に先に突撃準備をさせ、その間に2名の増援をハーネイトに要請した。するとわずか数十秒で彼らの背後から誰かが走って向かってきた。
「お待たせ!じゃあ、ちゃっちゃと処分しましょう!」
「全く、異世界で何でこんなことを」
その声に4人は振り返ると、そこにはエスメラルダとウッシュガローが立っていたのであった。
「エスメラルダとウッシュガローか、お前らが来るとは思ってなかったがな」
「悪いけど、ほかのエリアでも人が出払ってるのよ。だから私たちが来たの」
ボガーは意外なメンツが来たことに驚くも、エスメラルダの話を聞くと仕方ないなといった顔をする。
このウッシュガローと言う、黒髪で帽子とコートを着た細身の男と、もう1人の小柄で緑髪の少女のように見えるエスメラルダはハーネイトの部下であり、共に霊量士である。彼らはハーネイトからの命令を受け、急いでここまで駆けつけてきたという。
「状況は悪いが、あの若い奴らが奮戦している。タワーのほうはもう大丈夫だとな」
「それはいい話だな。それでナビゲーターは」
「あー、何で、僕のこと気づかないのかな……まあ、いいけどさ」
ボガーの質問に対し、突然物陰から不気味な少年の声が発せられ、はっと全員がそちらのほうを向く。すると緑色を基調とした、いかにも小学生のような体型の、フードをかぶった子供がそこにいた。
「わっ!いつの間にかショタが!」
「げっ、こいつ伯爵の部下?」
「一体、君は誰なんだ?」
「あ、あれはあの時魔獣を食べた微生界人!?来ていたのか」
ボガーはその子供の正体を知っていたためそこまで驚かなかったが、他の人は恐らくこれが初顔合わせなため何者かわからず動揺していた。
それに対し、子供は面倒くさそうにあくびをしてから、気怠そうに自己紹介を行う。
「僕の名前は、カラプラーヴォルス。と言ってもこれは伯爵がつけた名前さ。本名は緑膿菌、と言えばわかる?全くさー、チミたちだめだめだね。ここは僕が支援するから、早く片付けてきなよ。話はすべて聞いているしさ」
そう、彼こそが伯爵の一応部下となっている緑膿菌の微生界人、カラプラーヴォルスである。見た目こそいかにもけだるそうな少年にしか見えないが、圧倒的な攻撃と耐久力、持久力を持つ恐ろしい存在でもある。
自分が今回ナビゲーター支援を行うことを全員に伝えると、桃京駅の玄関の屋根の上に瞬間移動し、全体の把握を始めたのであった。
「へえ、あの時の子供もいるじゃん。元気にしているみたいだね」
「まさかこんな所に来ているとは思わなかった」
「こちらも動かないといけないときが来たんでね。さああいつらを倒すんだ!」
「まさかのナビゲーター、大丈夫だよなこれ」
「大丈夫だろう、俺たちもついてるんだぜ」
よりによって伯爵の仲間が指示を出すのかと戸惑うも、今は孤立した防警軍の隊員の救助と、汚染区域拡大阻止が先決なため全員はすぐに戦闘態勢に入った。
「ちっ、遠足じゃねえんだぞ!それにあまり前に出るな!エスメラルダとガローは別行動で隊員を助けるんだ!」
「仕方ないわねえ、じゃあ行くわよ、フフフフフ」
「っ、あいつマジで……いや、今は。じゃあ覚悟してもらうぜ、吸血鬼風情がよ!」
ボガーの指示に従い、2人はすぐに動き出し、駅の東側で孤立している隊員を助けるため邪魔な血鬼人を蹴散らそうとする。そんな中、駅の出入り口では早速ナビゲーターが大暴れしていた。
「そこ、フフフ。ねえ、僕と契約して、苗床になってくれない?」
「クギャアアア!!ッ!」
「えぇ……いきなり地面から緑色のぬめぬめしたのが!き、気持ち悪いわね」
愛嬌ある声で、さらりとおぞましいことをいうカラプラーヴォルスは、時枝たちの邪魔になりそうな血鬼人をまとめて地中から緑色の触手で穿ち、そのまま分解する。
彼の得意技が炸裂するが、それに気づいたエスメラルダはドン引きしていた。あれはもう完全に怪物でしかないと思いながら思っていたことを口に出し、それが聞こえていた彼はイケボで彼女に対し若干脅すようにこういう。
「僕の触手にケチをつけるのかい?ん?」
「いーえ、そうではないけれど」
「フッ、まあケガしないでよね皆。ボクは回復魔法とかそういうのないからさ」
カラプラーヴォルスはややけだるげに応援しながら、無数に存在する微生物を用いた菌探知で周囲の様子を伺い監視していたのであった。
「あの建物の影に、5体いるよ。遠距離からつぶしちゃえ!」
「俺の出番だな、行くぞミチザネ!雷砲!」
「良いだろう、では!」
早速時枝は、建物の陰に隠れていた血鬼人2体をカラプラーヴォルスのナビゲートの元撃破しようとする。
そうしてミチザネの放つ雷の砲撃に、UAトリガー・グレネードランチャーを合わせ攻撃し、体よく攻撃はヒットし撃破する。
「おーい、そこの高校生と黒龍さん、左のほうに増援を確認したから早くたたいて」
「ふん、言われなくてもな!」
「私?ええ、あそこにいるわね!ワダツミ、白泡飛沫」
さらに別の道路から増援が押し寄せるが、これもカラプラーヴォルスの探知にすぐに引っ掛かり、指示を受けた2人は素早く攻撃態勢に入る。
「しぶといわね、ならばこれは!CPF3詠装填、魔柱鉄杭・却火・砕晶光花……落ちなさい、全弾一斉射!」
星奈はワダツミの攻撃にワンテンポ遅れて当たるように詠唱し、白泡飛沫により視界を奪いながら攻撃しつつ、後続のCPFをぶち当てて血鬼人数体を撃破した。
「やったぜ、やるな星奈」
「このくらい、貴方もやってほしいのですが」
「言ってくれるな、行くぜ黒蛇!蛇龍黒炎だぁ!」
それを見た黒龍も、具現霊・黒蛇の力を開放し、龍の頭のような大砲から黒くまがまがしい火炎放射を行い、周囲を焼き払い浄化する。
「なんだなんだ?一体誰が俺の邪魔を……!」
「おやおや、誰かさんが向こうからおいでになったよ!」
すると奥のほうに広がる血海より現れた、1人の男。時枝たちの活躍で倒されていく血鬼人の姿を見て思わず驚いて現れたのであった。




