第235話 桃京解放戦 桃京大学防衛戦3
実は彼女、医者であるプロテメウスに対しある質問の返答についてうそをついていたのであった。
何か数日前に、どこかでけがをしていないか、何かいつもと違うことがあったのか。その返答を正確に返さなかったため、処置などが遅れたのであった。いや、正確には彼女は正確な返答ができないほどに精神が混乱し、ショック状態で会ったのが正しいだろう。
サリエスは元々自然調査員であり、ある異変について調べるため森の中を探索していたのだが、血徒に感染した生物に襲われ、どうにか逃げ延びたという。同行していた数名は全員襲われ死亡している。仲間の死と自身の負傷、怪物との遭遇と言う事実。そのことが怖くてショックとなり、思い出すことすらままならず、結果として命を落とすことになった。
「確かにあれで私は死にました。しかし、どうしても死にきれず、いえ、昇天できずに貴方の傍にいたのです」
「……そうなのか」
「私があの時、恐怖を乗り越え、本当のことを言っていればこんなことにはならなかったのかもしれません。森で目や体から出血している動物に襲われ、私は病になったのです」
サリエスは、生前のことについて悔やんでいることを彼に告げた。それを真摯に聞き受け止めたプロテメウスは、彼女としっかり向き合いこれからどうするべきかが大切だと言う。
「過ぎたことは、もうどうしようもならん。だが、今も脅威はこうして現れている。なあ、互いに力を出し合い、戦わないかサリエス」
「……はい、それは私も思っています。お互いに、あれと向き合い戦うべきではないかと。プロテメウスさん、私と心を合わせてください。そうすれば」
「ああ、では行くぞ!」
互いに、対応を誤った。プロテメウス自身も、もっと周りを頼ればまだどうにかなったかもしれない。
けれどもう遅い。ならばもう二度とあのようなことは起こさせない。互いにそう誓いあい、共鳴する。
そうして、サリエスはプロテメウスの概念武装を身にまとい、具現霊として彼とともに戦えるようになったのであった。その姿は、女神とも天使とも見て取れる、荘厳で輝きに満ちた高貴なる魔導士のようであった。
「えっ、この人もしかしてスカーファさんたちと同じ半分目覚めていた人?」
「血鬼人、血屍人もまた、血徒の影響で霊量子による攻撃が弱いができると聞いたぞ。傷を受け、それが引き金になったのだな。それが原因で力に目覚めても、血徒による支配を逃れることができるとな。運がいい」
音峰は前にハーネイトの講座を受け、ヴィダールが関与する存在によりけがを受けたり、霊量子の波動を受けることで急に能力に目覚めてしまうことを忘れておらず、プロテメウスの異変に冷静に対応する。
「だがこのまま放っておいてはこの男もダメージを負うぞ。コントロールが不安定みてえだからな。治療はまだ施していないだろう」
「だったら、こうしてやるわ!」
「俺もだ、CPF・万里癒風!能力持ちなら、問題ないはずだろ?」
プロテメウスは、自身の過去に再度向き合い、その上でこれからをどうするか考え、決意を固めた。それに対し取り付いていた患者であるサリエスも共調し、見事具現霊を手にした彼であったが、まだ霊量子コントロールがままならない状態では除染しないと血徒に感染する可能性が高い。そこで渡野と田村はCPFを用いて治療を施したのであった。
「な、傷が消えていく、おぬしらも力を使えるのか」
「ええ、勿論よ」
「俺らも、事件に巻き込まれた影響で力を宿した。その力なら、あの化け物たちも成仏させられるのだ」
「しかし、無茶をし負ったなお主は」
宗像は彼の行動についてそうたしなめるも、そうせざるを得なかった理由をプロテメウスは語る。
「無茶も、承知の上だ。もう、故郷で起きたあの事件など起こさせたくないのだ」
プロテメウスは静かに、自身が昔体験した悲しい事件について話をし始めた。そのすべてを聞いて、渡野は外国から訪れ事件の真相を知ろうとするジェニファーやスカサハ、ドガの顔を思い浮かべながら話をする。
「ジェニファーちゃんも言っていたわね。というか、同様の事件は本当に世界各地に、爪跡を残し続けているのね」
「あれらさえいなければ、今まで通りだっただろうな。だが、世界は変わった。奴らのせいで住める場所をどんどん奪われ、人口も減りつつある中で、俺たちはこの脅威をどう解決するか」
「……1つ聞きたいことがある。何故貴様らはここまでの力を得ることができたのか?」
プロメテウスは、なぜ目の前にいる4人が倒すのも一苦労する存在を平気で倒せるのかがどうしても気になっていた。自身よりも強いのか、それとも別に理由があるのか、好奇心旺盛な彼は早く理由を知りたかった。
「俺らには、良い師がいるのだ。平時は少し抜けた男だがな」
「貴方も、私たちのメンバーに加わりませんか?素質は大いにあると思いますが」
音峰と渡野は、まだ半分程度しか力に目覚めていないプロテメウスに対し、もっと多くの人を救うには、今以上の力を身に着けるべきだと提案し、それを導く人たちと会ってみないかと言う。
「そうじゃな……だがまずは負傷者を病院まで運ぼう。まだ予断を許さない者が数名おる。その間に、考えさせてもらう」
この時、既にプロテメウスは自身の力の謎や、故郷での事件の正体と真相に迫りたいが故今後どうするべきか答えは出していた。
しかし職業柄、今はまだ予断を許さない状態の負傷者を早く病院まで搬送すべきだといい、それに4人は承諾し、手分けして防警軍の車両などを手配してもらい、どうにか全員をここから少し離れた桃京総合大病院に搬送することができたのであった。
また、Cデパイサーのチェッカーで怪我人などを調べ、全員感染していないことも分かったため4人は安堵していた。
「これで全員かな?疲れたわね」
「だが、死者が出なくてよかった。これもプロテメウスさんのおかげだな」
「儂は、やるべきことをやったまでだ」
「そうですか……しかしその力を磨けば、より多くの人を救えると思うが」
「……そうじゃなあ、何よりこの状態では授業どころの騒ぎではない。フッ、君の言うとおり、わしはさらなる力を求めないといけないな。よろしければ、貴様らのボスとやらに会いたいのだが」
改めて本人の口からハーネイトに会いたいという言葉を聞いた4人は歓迎し、渡野がいち早くCデパイサーで総本部にいるハーネイトに対し連絡を取ろうとする。
「では私から連絡を入れておきますね!」
「頼んだぞ渡野。さあ、俺らも手伝えることを手伝ってから戻るぞ」
「そうじゃな。では行こう」
こうして、大学の汚染を防いだ4人は、新たな仲間になったプロテメウスを連れて防警軍の総本部に向かうため移動を始めたのであった。
その間に、桃京大学の近くの森林の中では、不気味に目が赤く光る2人の小柄な男が話をしていた。
「クク、うまくあれを回収できた」
「あれを運用するにも、効率の良いエネルギーが必要だ」
そうヒソヒソ楽しそうに話す彼らは、第3級血徒バベシア・カバリアスとバベシア・ビゲミであった。
彼らは原虫系微生界人に属し、ピロプラズマファミリーの一員であった。彼らは陽動で血鬼人を使い、その間に桃京大学内に保管されていたある物を奪いに襲撃をかけたのであった。それは彼らが手にしている、霊宝玉であった。
「この神秘なる力を持つ球を集め、血の雨で大地を満たせばあの星もこちらに気付くこと間違いない」
「計画も最終段階か、赤き災星……クク、フフフ!鍵を開けるために、作戦は成功させないとなカバリアス」
「ああ、ビゲミよ。だが、あの人間どもは何者だ」
「我らが血を与えた子をああも葬るとは、後でハンターン様に報告だ」
彼らは終始意味深なことを口に出し、最後に不思議な力を使う人間たちのことについて話した後、すぐさま姿を消したのであった。




