第233話 桃京解放戦 桃京大学防衛戦1
桃京大学防衛戦 宗像、田村、音峰、渡野
日本でも有数の、いや、最高峰の大学と言えばこの桃京大学である。本来ならば学生が多く行き交い様々な分野を学ぶ所であるが、現状は吸血鬼ゾンビこと血徒が率いる血鬼人に建物を包囲されており、避難時にけがをしたり血鬼人に襲われた人が逃げ込んでいたのであった。
そんな中で、ある大柄の医者らしき男が、大学に在籍する保健医や医者、医学生などと協力し負傷者の治療にあたっていた。
「むぅ、これはいかんな。だが安心したまえ、すぐに治してあげますからな」
「っ……!」
「あ、ありがとうございます」
「いやいや、医者としてできることはなと。だが状況は良くないな」
「えぇ、まるで5年前の事件の再来、みたいです」
男の名前はプロテメウス・ガンギルド・メサエアという。カナダより日本に3年前に移り住み、牧師として、また医師や大学教師として多忙を極める優しげな表情を見せる大柄でがっしりした体躯の中年男性である。
今日も彼は授業を行うため大学に出勤していたのだが事件に巻き込まれ、逃げようとしてけがをした学生や負傷した警備員らの治療を他の人たちと協力して行っていたのであった。
「5年前か……まさか、奴らはこんなところにもっ、街を襲った悪夢……!」
プロテメウスは、部屋中にいる負傷した人たちを見ながら昔のことを思い出し、同じような光景を異国の地で目の当たりにしたことに歯がゆさと悔しさが込み上げてきた。
それは、彼が医師としての仕事を失うきっかけにもなった事件でもあったからであった。
「だが、あの時とはもう違うのだ。何もできなかったあの時とは!」
足取りこそゆっくりであるが、徐々に迫ってくる血鬼人の群れ。それを窓越しから確認した彼は、急いで大学の正面玄関口まで走り、これ以上入らせまいと立ちはだかる様にしながら、祈りを込めるように右手を自身の前に出し、気を高める。
すると、彼の背後にぼんやりと禍々しい天使のような、剣を持った麗しい女性の半具現霊が出現したのであった。
「聖なる一撃にて地に還るがよい!」
そう言いながら、彼は手刀を振るう。すると衝撃波が血鬼人の群れを遅い大きく吹き飛ばす。彼の動きに、背後にいる天使は剣を振り払い、光り輝く一閃を放つと血鬼人をまとめて吹き飛ばす。
しかし具現霊としてはまだ完成されていないからか、有効打にはいまいちならない。敵の方が、力が強く少しずつ前進してくる。
「ぬん!くっ、数が、多いな!」
それでも、彼は果敢に血鬼人に挑み続ける。そう、自身が立ち向かいここで止めなければ、大学の中にいる医者や負傷者の命が危ない。
責任感が強く、昔の後悔をばねに彼は手刀をふるい物理的に敵を倒そうとしていた。
「なっ、ぐはあっ……!」
しかし血鬼人による遠隔攻撃、「血棘針」の猛攻に、プロテメウスは針が刺さるたびに苦悶の表情を見せるが、それでもひるまず襲い掛かる血鬼人に彼はカウンターパンチをお見舞いする。
「やらせる、ものか!」
しかし、このままではいくら屈強で力の強い彼も危ない。血屍人に包囲され、命を落とすだろう。
そんな中、大学のほうに派遣されることになった渡野たち4人は大学まであと少しの場所まで来ていた。道中にも血鬼人や血海から湧いて出てきた汚染生物がおり、各個撃破しながら防警軍の人たちと連絡を取り合い、大学付近の情報を把握する。
「全く、あちらこちらに!」
「敵の得意技は物量作戦なわけだ、厄介な相手だぞ」
「連絡によると負傷者が結構出ているとな」
「急ぐぞ!」
4人は道中に立ちはだかる敵を速やかに撃破しつつ全速力で大学に向かい、4分ほどで施設の入り口が見えてきた。しかし、既に事態はかなり深刻な状態であった。
「あれが大学という施設か、でけえが、それをも包囲するこの血の化け物!」
「お願いピクシア!前方の敵を縛って!」
「縛るだけじゃダメでしょ!このままねじりきってあげる!」
ピクシアは渡野の指示に対しさらに追加で攻撃を加える。壁となって立ちはだかる大型の血鬼人に対し、地面から数本もの太い植物の蔦を召喚し、動きを束縛しつつぎちぎちに締めあげたのち、すさまじい贅力でその肉体をバラバラにしたのであった。
「うわー、私の守護霊、攻撃的すぎだわ」
「何言ってるの、早く助けに行かないの?」
「分かってるわ!行こう!ゾンビを相手にするなら、この武器がお似合いかしらね!」
渡野はなんで自身の具現霊はどこか命令を聞かないし過激なのかと思いながらも、ピクシアに促され前に足を進めながら、周囲から襲い掛かる血鬼人に対し今度はUAトリガー・チェンソーブレードで迎撃し片っ端から切り裂いていく。そのあとに続き宗像と音峰が大学敷地内に突撃する。
「ちっ、血徒に感染した人間が厄介だ」
「血鬼になってしまうと治すのはほぼ不可能らしい。細胞の殆どが変質化、あるいは死滅し微生物だらけだと聞いたぞ」
「何て悍ましい話だ。マカミ、周囲を火炎の息吹で焼くのだ!」
伯爵たちから、血徒となる微生界人、もとい微生界人に取りつかれ、適合できなかった生物の末路を聞かされていた宗像たちは、せめてこれ以上弄ばれることのないようにと祈りながらUAトリガーを構えつつ、具現霊に同時攻撃の指示を出す。
先に宗像が、具現霊マカミに対し火炎放射で壁を作るように指示を出し、豪快にマカミが迫りくる血鬼人を焼き払うように炎の息吹で攻撃し、視界が見えなくなった隙をつき、UAトリガー・アンチマテリアルライフルを召喚し、すかさず構えて霊量子の弾丸を放ち、射線上にいた複数体の血鬼人を粉砕した。
「遠慮ないな、宗像さんは。俺はどうも……いや、このまま命を弄ばされ、死者の尊厳を!安らかに眠らせることも!」
「あのハーネイトでさえ、血徒は容易に勝てる相手ではないと聞いている。それに感染者を治す方法も、それ
ができる時間も限られている」
「迷っている暇はないのね。……わかってるわ!」
音峰は改めて腹をくくり、血徒は全力で倒すべき相手だと意気込んで鋭いタックルをかます。すると目の前に血鬼人に包囲されている人間を発見した。
そう、果敢に戦っていたプロテメウスは、敵の猛攻に対応しきれず、相当疲弊していたのであった。




