第232話 桃京解放戦 桃京ビッグスカイタワー防衛戦4
「全く、君たちも生兵法は怪我の元って言葉ぐらいは知っているのかしら?」
「それが何だというのですかお姉さん」
「もう……、そう言えば、2人とも中学生、よね?」
一方間城は、無茶な行動に出た二人に対し心配の念も込めてそう言ったが、楓也はどこか不機嫌そうにそう言い返し、自分たちの自己紹介をする。
「フッ、確かにそうだが。俺は東方院楓也。立花学院中等部3年だ」
「僕は、奥平 切人と言います。楓也君とは同じ学校の出身です」
2人は丁寧に自己紹介をし、自信が中学生であり、タワーに来ていた目的も話した。それを聞いた4人は驚いていた。
それは確かに見た目は自身らよりも幼いとはいえ、その年でまだ未完成とはいえ、ある程度力を行使できていた事実であった。
「お前らマジで中坊かよ。俺ぁ五丈厳勝也だ。京都の春花出身だがな。訳あって、こう助けに来たわけだ」
「僕は長宝院 亜蘭。と言っても、君たちは当然知っている筈だが?」
向こうが名乗った以上、自分たちもだと五丈厳が初めに名前を明かし、亜蘭も恰好を少し付けた感じで名を明かす。
それを聞いた楓也は、あの有名なアイドルがなぜこのようなことをしているのかが気になってたまらなかった。
「ああ、勿論だ。今有名なアイドルグループのリーダーが、なんでこんな真似をしている」
「薄々とは気づいていたけど、何故ですか亜蘭さん?もしかして……」
楓也も切人も、亜蘭に対して強く質問するが、亜蘭は笑顔でさわやかにこう返した。
「フッ、これも芸を磨くために必要なもの。僕も事件に巻き込まれ、力を手にしたまでの話だ。しかし無事で何よりだな」
亜蘭は髪を軽く指で解きながら格好をつけてそう返答し、2人にけがはないことを確認しほっとしていた。
「隊長!お怪我はありませんか?」
「有川か、俺と民間人は無事だ。しかし奴らの目的は何なのだ全く」
一方で有川と半沢も無事に合流し、無事を確認するとそう話をし、何故このタイミングで5年前と同様のことが起きたのだと疑問に思いつつ、部下に指示を出して周辺の調査と他に逃げ遅れた人がいないかのチェックを行うようにと伝えた。
「タワーには、自動防御電撃システムがありますが……」
「いや、それ以前にあの化け物たちはタワー内に総勢で突入しようとはしなかった」
「確かに……妙だな。破壊が目的ならばこうはならなかった」
「別に何か目的があったのかしらね亜蘭」
「まさかと思いたいが、俺たちが釘付けにされていたのかもな」
有川も半沢も、それに亜蘭たちも含め敵である血徒の行動の意図が全く読めず、困惑していた。タワー周辺を汚染した割には、自分たちの攻撃であっさりと放棄し姿を消したため、何が狙いなのかが全く分からなかったのであった。
「畜生、何だってんだ!」
「どうしたんだ五丈厳君」
「奴らは何がしてえんだ全くよ!あー、マジでキレそうだぜ!」
「落ち着きなさいよ全く」
「んだと間城!」
五丈厳は血徒の言動や行動に一貫性がどこか見当たらないことにいら立ちを隠せなかった。間城は冷静になるように言うも、今の彼を落ち着かせるのは難しかった。
「この銀髪のお兄さんは気性が荒いようだね」
「だが、あれを一撃で……フッ、これは面白いことになってきたな」
「ま、まじ?でも、この力があれば……あれを倒せるんですよね、お姉さん……」
「そうよ、しかし君たちまで力を手に入れるなんて」
「全く、まさか切人まで俺と同じ力を持っていたとはな」
楓也は、切人と目線を合わせてから思っていたことを口に出す。まさか自身はおろか、切人まで自分と同じものを使えるなんて思っていなかった。
しかし、それよりも強力な何かを目の前にいる人たちは手足のように自在に扱っていた。左腕に装備している共通の装置も気になる。中学生2人は、彼等なら自分たちが持っている力の謎を知っていると判断したのであった。
楓也も切人も、幼い時から自分の中に、何か別の者がいると感じていた。それはいつの間にか自分の一部になっていたが、不思議と嫌悪感よりも親近感の方が大きかった。まるで理解者がそばにいるかのような感じだった。
しかしそれが何なのかを突き止めることができず、もやもやすることも少なくなかったという。
「お前ら、その力が何なのか分かって使っていねえだろ」
「だったら、あんたは何か知っているんだな?」
「ああ、そうだがよ。てことは、先公のところまで連れて行かなきゃならねえな」
「そうねえ、君たちも色々知りたいんじゃない?その力が何なのか」
五丈厳は、疲れた表情を見せる楓也と切人を見てそう声をかけ質問する。だが楓也は少々不機嫌そうにそう質問を返す。
肯定した五丈厳は、彼らが自分と同じ現霊士の力を持つと断定し、ハーネイトの所に連れて行き見てもらった方がいいという。それに初音も同感だと言う。
「は、はい。あ、あれ?もしかしてお姉さんあのアイドルグループの?」
普段と全く違う格好をしていたため気づくのが遅れたが、切人は初音の所属するグループの大ファンであり、間近で顔を見てようやく気付き、顔を赤くする。
「えへへ、僕ファンなんです!わー嬉しいな!」
「そ、それはどうも。って今はとにかく、皆が無事かどうか確かめないと」
「チッ、俺はどこか壊れたところがないか見てくるぜ」
「そうだね、被害報告は大切だ」
「お前ら、俺たちについて来い。紹介したい奴がいる」
「ああ、分かった」
「了解ですお兄さん、お姉さん!」
こうして、各自やるべきことを確認したうえで亜蘭たちはハーネイトに連絡をし、引き続き可能な限り周辺の警戒に当たる様にとの指示を受けたため4人はタワー周辺の調査を開始したのであった。
少しでも血徒の痕跡を探し、敵の居所を突き止めるために彼らは動き出したのであった。楓也と切人も、五丈厳の誘いに乗り共に行動を開始したのであった。
「面倒ごとに巻き込まれたが、悪くねえ。ようやく持て余していた力を、存分に振るえる」
「行こう、楓也君。僕も、もう迷わない。あの人たちと共に、親の仇を取りたい」
「お前ら、あまり遅いと置いてくぞ!」
「今行くからな」
こうして、桃京に住んでいるどこかよくいそうな中学生とは違う2人は、血徒と戦うために今足を踏み出したのであった。




