第230話 桃京解放戦 桃京ビッグスカイタワー防衛戦2
「そちらの方はどうじゃ有川副隊長。部隊長半沢と連絡がつかんのだが」
「総司令!現在隊長はタワーに取り残された人たちの救出に向かい、敵に包囲されております」
「うむ、そうか。だがそちらにきておるじゃろ、若い者たちが」
「あの子たちは一体何なのですか?いくら攻撃しても倒れない不死の軍団が……」
彼女は丁度助けに来た4人が何者なのか知っているとみて宇田方に対しそう質問したが、彼は微笑しながら今戦っている者たちこそ希望であるといい、自身もハーネイトの戦いを見たうえでの感想を述べる。
「儂も驚いておるぞ。あの子らを育てた若き男の戦いを見たがな、表情一つ変えずに大軍を瞬殺しおったからな。まあ心配するな」
「ええ……すごいですね。では私は引き続き捜索と通信の方を」
「ああ、そちらは任せたぞ。彼等との連携で防衛するんだ」
「了解しました、総司令!」
そう言うと有川は電話を切り、情報収集用の装甲車から離れ、戦っている五丈厳たちに対し声をかける。
「貴方達、ツリーにつながる道を確保していただけませんか?」
「あ、ああ?」
「タワー下部に取り残されている人たちの救出を行いたいのです」
「其れなら早く言ってくださいよ」
有川の声に五丈厳と亜蘭は反応し、彼女らの障害になりうる汚染地帯をスサノオ、ゾロ・セラードと協力し豪快に吹き飛ばし浄化し、タワーへの道を作ろうとする。
だが侵蝕するスピードが速く、思うように進まない。そんな中有川は、亜蘭の顔を見ていてあることに気づいた。
「って、貴方もしかして、あのアイドルグループの!!!な、何故?」
「今はそれよりも、救出ですよ貴女。後でサインは上げますので」
「は、はい!」
落ち着かない様子の有川を、亜蘭は不敵な笑みを見せながら接しつつ、高ぶる彼女を静めていた矢先、後ろの方で爆発音が響き渡る。
全員振り返るとそこには、印象的な武器を背中に背負い、こちらに向かって歩いてくる爆発の逆光に照らされた2人組の男がいたのであった。
「すまんのう、今到着したぞ」
「遅れてすまない、道中に湧いて出てきた敵を倒していた。これより君たちのチームに加わる」
そう、ハーネイトらが送った追加メンバーはヴラディミールとヨハンであった。2人は周囲の様子を一通り見ながらすぐに武器を構えなおす。
「おじさんにヨハンさん、やっときてくれましたか。あそこにいる人たちが包囲されています。道を作っていただければ」
「了承したぞ。さて、どう切り崩すかのう」
「任せてくれよ」
亜蘭は早速2人に対し、ビックスカイタワーの正面入り口に向かう道を作るのを手伝ってほしいといい、それに快諾したヴラディミールとヨハンは、目標を定めてから広範囲の血徒汚染を吹き飛ばすべく大技を発動する。
「ぬっ、その塔には向かわせんぞ!機子斬・塵解刃!」
「不動四剣・弥勒斬り!」
ヴラディミールが手にしている魔剣から放たれる無数のナノマシンの奔流や斬軌跡、ヨハンと具現霊・フドウによる豪快な制圧攻撃が炸裂し、範囲内にいた血鬼人ごと血海をかなり消し飛ばすことに成功したのであった。その光景に、有川は開いた口がしばしふさがらなかった。
「流石だな、あの二人は」
「なっ……この人たちもか」
「おう、驚かせたかのうお嬢さん」
「後は僕たちに任せてくださいよ」
ヴラディミールとヨハンは眼前に開けた道を背景に、武器を構えながら有川に対しそう言う。彼女はヴラディミールの方を見て、どこか纏っている雰囲気が人でないような気がしつつも、今は救出が先だと装甲車内に待機していた3名の部下を連れて開けた場所を走り出したのであった。
「道は開いた、さあ、お前らは塔の中に行け。嫌な予感がするぞ」
「僕はここで敵の相手をしてひきつけますので」
ヴラディミールは亜蘭たちに対し有川たちを援護するように指示を出し、それに応じた4人はすぐに有川たちの後を追いかけながら、再び現れた血鬼人を蹴散らしつつタワーの入り口に向かうのであった。
その頃、タワー内では外にうろつく血鬼人を見て例の中学生2人が、固唾を飲んで救助を待っていた。
「やべえな、こいつは」
「何のんきにしてるんだよ君は!」
「まあ落ち着きな。……!」
「そ、それは!」
少し眼付きの悪い、ワックスで綺麗に髪を整えた方の中学生が、少しばかり瞑想し自身の背後に何かを呼び出した。それを、もう一人の少しおどおどした、蒼い上着とジーパンをはいた中学生はしっかり見ていた。
「何だ、見えるのか?」
「う、うん」
「霊感、強いんだな。ふうん」
互いに不思議な力があると認識すると、打ち解けて互いに自己紹介をする。最初に具現霊らしきものを召喚したのは、東方院 楓也という黒を基調にした衣装で統一した、年不相応な冷徹な雰囲気を漂わせる中学3年生である。
「昔から、見たくないものが見えて怖いんだよ」
「それは……そうか。だが、希有な力だ」
「そんな力あったって、何もいい事なんて」
「俺もそう思う、だがいる以上は、どこかで向き合うしかないと思うけどな」
楓也の行動に驚く一方の中学生は奥平 切人と言い、実はこの2人、クラスは違えど同じ中学校に通っているという。
この2人、共通点があり家族や仲間を、血徒により失っているということであった。
そうして2人は互いに心を落ち着かせるため話をしていた。すると通路の向こうから防警軍の装備で身を固めた30過ぎの男が近寄りながら声をかけてきたのであった。
「まだ避難できていない人がいたのか」
「貴方は、防警軍の人ですか」
「ああ、君たちを助けに来たぞ」
「しかし、周囲はあの化け物たちに包囲されている」
「救援が来るまで耐えるしかない……なっ!」
「今日はついていない日だ、とことんな」
半沢はそう言いながら、外の様子を窺おうとした時、急に焦りの色を見せ武器を構える。そう、血海から現れた血鬼人の群れが入り口に迫っていたのであった。
あれらに手持ちの武器が通用しないのは知っている、そう思いながらも半沢は、楓也と切人に対し地下道に逃げるように促す。とその時、外で異変が起きたのであった。




