第227話 BW事件の再来・桃京血徒戦線
「遠路はるばる、よく来てくれた。あー、皆さんは私のことは知っておるか?」
「防警軍の総司令官、でしたか?」
「そうだ、と言っても堅くなることはない」
京子は新聞などでこの男のことについて知っていたため、質問に返答するが、普段厳しい表情を見せる宇田方は、表情を和らげてから全員にそう言い、もっと軽い感じで接してもいいという。
「しっかしよハーネイト、大丈夫なのか?」
「何がだブラッド」
「俺たちはあくまでよそ者だぜ。そりゃよ、ヨハンやリリエットは地球人だけどさ」
「こちらも、向こうを利用するまでですよ」
ブラッドは軽くあくびをし、ハーネイトに対し本当に大丈夫なのかと、宇田方の顔を見ながら小さな声で質問する。
どうも彼には、この司令官が胡散臭い男にしか見えないようで、ハーネイトは彼の喜びそうなことを言い落ち着かせる。
利用できるものは最大限生かす、それがハーネイトのやり方であり、また、どうなってもいつでも対処できるというのは彼の自信の表れともいえる。
「っと、いいかな?」
「はい、続きをどうぞ」
「いやあ、多くの仲間を得ていると聞いていたが、皆さんの顔を見ると全員歴戦の戦士という雰囲気が伝わってきますな」
「それはもう、中には私に傷を入れられるものもおりますので」
それを聞いた宇田方は、この中でぶっちぎりにハーネイトが強いと思いきや意外な答えに目を丸くしていた。
しかしそれは、この場に集まった多くの人たちが非常に高い戦闘力を備えているということでもあり、 改めて宗次郎の話に乗った甲斐はあったなと静かに頷いてから、咳払いをする。
「そ、そうなのか。うーむ、全くよく分からない関係性じゃな」
「元々敵だった人もいますので。えーと、皆さん一応自己紹介ぐらいは自分でしてくださいね」
その後響を始めに、全員が簡潔な自己紹介を行い、またも宇田方は、高校生たちまでもが力をつけて戦っていることに戸惑いつつ、様々な顔ぶれに感心する。
「高校生が活躍していると聞いたが、これほどとは。それに大人たちに、しかも気になっていたが文治郎まで。更に外国からわざわざお越しになった方までいるとは」
「全員、私たちの鍛錬についてきて、結果を出してきた実力があります。皆さんのおかげで、私もまた成長し幾多の研究が実を結びました。もはや、かけがえのない存在です」
「……分かりました。では、血徒と貴方方が呼ぶ吸血鬼の対応は…」
ハーネイトの言葉と倉庫内で見た彼の戦いは、宇田方にある決断をさせた。それは、血徒に関する事件について解決をしてほしいという依頼であった。
やはり自分たちの装備では限界もある。何より倒せないというのが長年の課題であり、その力を手に入れるのも容易ではない。惜しみなく彼らに支援した方が費用対効果もいい、そう彼は判断した。
ハーネイトはその依頼を快諾し、ニコッと笑みを見せながらあることを告げる。
「はい、この戦いは裏に大いなる陰謀が渦巻いたものだと考えられます。それはあらゆる世界の存亡にかかわる規模で事件を起こそうとしています。だからこそ、全てを白日の下に晒し解決しなければなりません。それが、魔法探偵の責務ですから」
長年血徒の調査に携わってきたが、これといった情報を掴めずにいたハーネイト達は、今回の事件で確実に解決せねばならない案件だといい、静かに胸に手を当てて任せてくださいという。そんな中、施設内のアラームがけたたましく鳴り響いたのであった。
「な、いきなりどうした」
「警報じゃないですか先生」
「あー、ということは……このタイミングでかよ」
急いで全員は管制指令室に足を運び、状況を確認する。すると部屋の中に設置されている幾つもの巨大モニターに、異様な光景が映し出され、オペレーター数名が慌てながらも現場の隊員などに指示を出していた。
「何だと?今度は桃京であの現象が起きているというのか」
「まるで桃京25区全域を封鎖するかのように、赤い光の壁が徐々に構築されてきています!」
「対応急げ!あの事件の再来だ!至急避難命令を出せ」
管制室内が非常に慌ただしくなり、部屋で作業をしていた職員たちが駆け回り各地の情報収集や人員の配置、避難誘導などに全力で当たる。
以前起きた事件の影響からか、住民たちの多くは迅速に地下シェルターなどに避難していく。その光景をモニター越しで見ながら、翼は赤く怪しく光る結界について話を切り出す。
「ってことは、これ壊さねえ限り出られねえのか?」
「そうだろうな翼」
「そんな!てことは、皆の命が!」
「姉さん落ち着いて、私たちだけでなく、防警軍の人もいるのだから役割分担すれば」
「そうだ。あれ以降地下に大規模なシェルターなどを作ってきたのでな。避難自体はさほど問題はない」
宇田方は慌てる人たちに対し改めて避難などに関しては速やかに行えるような仕組みづくりを進めてきたことを強調して言い場を落ち着かせようとする。
しかし次の報告を聞いた宇田方は、初音たちと同じような驚いた表情を見せずにいられなかった。
「総司令!桃京23区内にて例の現象が発生しております!」
「これは、血徒汚染が広範囲で起きています」
「主要施設とその周辺が、血の海と化しておる」
「放置すれば、完全に向こう側の物になります」
続々と室内で通信をしていたオペレーターたちから報告が上がる。そう、福岡などで発生した現象が、桃京23区内にて続々と起きていた。
宇多方は少し青ざめた顔で、ハーネイトに対し解決手段があるのかと確認する。
「どうにかならないのか、ハーネイト殿」
「ありますとも、我らが戦闘法、Aミッションで汚染された場所を浄化し、陣取る敵を倒す。それを各方面で行えばいいだけの話です」
ハーネイトは戸惑う宇田方や防警軍幹部らに対し、解除する方法は確かにあり、それを自分たちが行うと即座に申し出た。それを聞いた彼らは呆れながらも、よくすぐに方法を提示できるなと感心していた。
「全く、貴殿はどんな困難も笑顔で切り抜けるお方ですな」
「これでもいらない苦労を散々してきたのでね、この程度で下向いてたら、亡くなった先代方に顔向けできないです」
ハーネイトは今までのことを思い出しながら、前に進むしか道はないと自身の決意を見せた。
今まで多くの犠牲のもとに、自分はここまで来た。だから自分が止まったら、誰が報われなかった人たちを思い続けていられるだろうか。
自分がこうして世界を守ることで、贖罪をしている。そうとも思いながら仕事をしているというということに、宇田方を初めとし響たちも言葉を発することが苦しかった。
「しかし、この現象は……とにかく、今現場に出ている隊員たちは住民たちを地下シェルターに誘導していますが、どうなるのこの先……っ」
「怖気着くな、この男とその仲間たちが道を切り開く。あの怪事件すらも解決した人たちだからな」
そんな中ナビゲーターの一人は、浸食されている領域の拡大に恐れを抱き体を震わせていた。だが宇田方はそう言い励まし、終始画面から目を逸らすなと指示を出したのであった。




