第214話 逃走犯と追跡者
「先に来ていたのか。すまんな」
「宇田方さん、こんにちはです」
「ああ、こんにちは。さあ、話は聞いているだろうが、車に乗ってから現在の状況について説明しよう」
「了解しました」
「どうやっても嫌な予感でしかねえがな」
ハーネイトと伯爵は宇田方の指示で車の後方座席に乗ると、助手席にいる宇田方から何が起きているのか現況の説明を受けた。
「……で、防犯カメラなどの情報から阿美蔵という男が浮上したわけだ。その男はある宗教団体の幹部でもあり、奇妙な薬を売っているという情報が入っている。元から調査を行おうとしていたがその矢先に起きた事件ということだ」
実は今から半年ほど前から、桃京で奇妙なクスリが出回っているという情報が入っていた。
警察もそれを追っていたのだが、いつの間にか防警軍のほうに仕事が回ってきていたという。それの調査を行っているうちに、ある団体との繋がりが分かってきたという。
「そういう経緯ですか。伯爵はその宗教団体が使用している施設の中を既に見てきたと」
「何?どういう手品だ」
「それは企業秘密や。だが、事態は悪化しとるで。中には血徒に汚染された人間が10名ほどおった。っても、全部は見れなかったがな」
「この地図によると、場所はここですね」
「なっ、ここは、元々避難用の地下シェルター及び地下施設だった場所だ。そういうところに構えていたとはな、兎も角早く対処せねばな」
伯爵の話を聞いていたハーネイトは、やはりその団体が血徒と関わりがあるか、あるいは乗っ取られているかのどちらかになると考えていた。
また、宇田方からの質問に答えた伯爵は、このままだとまだ地下にいる血徒感染者が施設の外に出かねないと説明した。
「時間がないな。奴らが外に出る前に、何としてでも対処せねば」
「だけど、一応封印はかけといたんでしょ?」
「ああ、だが時間稼ぎに過ぎんよ。時間はあまりないと思えや相棒」
「着きましたよ、ここが例の現場です」
道中渋滞もあり、抜けるのに少し時間がかかったものの、ようやく施設の近くまで来たハーネイトたちは車を降り、伯爵の案内で急ぎ足で向かう。
「ご苦労だったな田場先」
「どうかお気を付けてください」
宇田方は運転手である田場先にそう声をかけると。コートを羽織り2人の後を追いかけた。既に施設周辺に数名の隊員が入っていると聞いていた宇田方は、隊員たちに連絡をしようとした。
「さあ、観念してもらうか」
「総司令官!緊急事態です!」
「どうしたのだ矢崎」
「ドローンを向かわせ偵察させていたのですが、例の男の姿がありません!しかも施設内の抜け道を利用し逃走したと別の部隊から報告が」
「何?それで行先はわかるか?」
宇田方は、矢崎という隊員の話を聞くと、すかさずどこに潜伏しようとしているのか地図を取り出し割り出そうとする。
「そうか、あの倉庫一帯に隠れる可能性があるな。行くぞ」
「早速嫌な感じがしてきましたね」
「急ぐぞ」
宇田方によると、どうも犯人はここから15分ほど歩いた先にある港の倉庫に向かった可能性が高いという。
再び車に乗ったハーネイト達は港の倉庫が立ち並ぶエリアに到着し、すぐに犯人の捜索に当たることになった。
「手分けして探しましょう」
「そうだな、見つけたら連絡を」
「了解です」
ハーネイトの提案で、手分けして敷地内を探すことになり宇田方は、数名の部下を連れて駆けまわることになった。
一方でハーネイトと伯爵はわずか1分ほどで犯人の居所を掴んでいた。それは数十棟ある倉庫の端にある巨大な倉庫であった。かなりの広さを誇る港湾施設だが、あっという間に目標を探すことができるのは彼らの持つ能力に起因する。
「っても、俺たちもうわかってるけどな」
「伯爵の探索能力を前に逃げ切れるものなどいやしないぞ」
「だよな~~~!俺は菌の王だぜ!なめんじゃねえよ!あそこにいるぜ相棒」
「行くぞ伯爵、速攻で蹴りをつける!」
この2人に目をつけられて、逃げ切れるものはまずいない。1人はあらゆる生き物の力を借り情報を得る男、もう1人は無数に存在する微生物を操る恐ろしい生命体。
この2人が手を組めば、どんなものでも見つけ出せる。正に最強の追跡者コンビである。
その結果、施設から逃げた魔薬の売人であり、幹部でもある若い金髪でラフな服装をした男は倉庫内にて逃げ場をすでに失っていた。そう、2人が目の前に現れたからであった。
「はあ、はあ、なんだこいつら……!」
「もう逃げ場はないぞ」
「くっ……!」
2人は金髪の男に尋問しようとし、その間にも宇田方ら防警軍の隊員が彼らの背後に構えていた。
「さあ、あの施設で何をしているんだ」
「そんなもの、誰が答えるかよ」
「ほう、しかしこの俺様を前にして、何も言えねえはねえぞ。レプトスピラ・ワイルヴァッハ!」
「貴様……っ、ま、まさか!同族か?」
意地でも応えないぞと言わんばかりな男に対し、なんと伯爵はその男を支配している微生界人の名前を大声で叫んだのであった。




