第213話 防警軍からの応援要請と汚染された魔薬?
「先生、お帰りなさい!」
「お父様、お帰りなさい」
「ああ、君たちもいい子にしていたか?」
「はい!今のところあの血徒については、目立った活動はしていないみたいです」
ハーネイトは帰還すると、一目散に事務所にあるソファーに座り息を大きく吐いていた。すると駆け寄ってきた響たちの話を丁寧に聞いた上で、感謝の言葉を述べるとけだるく背もたれに寄りかかった。
ここまで皆が精力的に活動してくれているのは本当に助かるものの、敵の動向がつかめない中迂闊に動かしていいのかという不安も彼にはあった。
「それに、Tミッションで幾つか珍しそうな装備品も回収してきました」
そんな中、席を外していた時枝と五丈厳は、幾つかの箱を抱えてハーネイトの前に持ってくると、ふたを開けてそれを見せたのであった。
ハーネイトの指示を受け時間のある時に学生や大人たちが異界亀裂内の調査を行っており、その中で回収した装備であった。
「これは、ガルドニクスの羽鎧に、ガンエルフの着ていた羽衣か。しかしなんでこんなところに……いや、よくやってくれた。後でデータ化しておく」
「集めた甲斐はありましたね」
「どんな効果か気になりますわね」
またも変わった装備をドロップしてきたなとハーネイトは思いながらも、強化のためにはデータ化せねばと思いつつむくっとソファーから起き上がる。恐らく彼らが回収した装備品は自分らの住む世界の物だと推測する。
特にガンエルフの装備している衣装は明らかにAM星の物であり、どういう経緯でそこにあったのか首をかしげるほどであった。
だが性能はいい。軽い割には耐久力はあり、間接的に攻守を後押しする装備なためナイスだと彼は思っていた。
「それで先生たちは桃京で何をしてきたのですか」
「ああ、防警軍という組織の人たちと顔合わせ及び話をしてきた。宗次郎さんたってのお願いでね」
「おかげで助かった。宇田方に改めて、あれに対抗するには勇気と度胸だけではだめだということを分からせる機会になっただろう」
ハーネイトは自身が何をしてきたのかを彩音たちに説明し、宗次郎もこれでひとまず顔つなぎを果たせたとほっとしたうえで、話は血徒についてのものに変わる。
「血徒……何を目論んでいるのだ。世界各地を汚すだけでなく、命まで無差別に奪うあれは、生物全てに対する試練なのか?」
「どうだかな宗次郎さんよぉ。試練というよりはそりゃ、あんだけ霊量子を集めたがってるってことは、あれ系の案件じゃねえの相棒?」
「召喚系か……だとするとろくなことにならない予感しか見えない」
「そもそも何故ソロモティクスを解放しようとしたのか……まだ敵の目的が完全には読めないな」
「紅き災星との関係が一番大きいと思うけどね、彼らの行動には」
ハーネイトはその後も伯爵や宗次郎らと話を交え、防警軍との関係や新技術の開発などについて夜遅くまで意見交換をしていた。
その新技術とは、具現霊だけを遠隔操作し現地に派遣する物や、Cデパイサーに関する強化パーツなどについてであり、実現できれば更なる戦力強化を望めるとハーネイト自身期待していたのであった。
翌朝、ハーネイトは少し早く起きるとレストランに向かい朝食を取る。すると何故か響と彩音、京子と大和も訪れていた。
「おはようございます先生」
「おはよう」
「今日はみんなでレストランの朝食を食べに来ました」
「そうか、おいしいからね。私も注文するか」
ハーネイトは響たちと同じく和定食を頂き、あまり食べ慣れない品物についてもしっかり食べながら4人と談笑し、しばしの間楽しんでいたのであった。
「今日の朝食もとてもおいしかった。徐々に海産物系の料理にも慣れていこう」
朝食の感想を脳内で述べながら、食事を終えたハーネイトは響ら4人に対して探索系の任務を行ってほしいと指示を出したのち事務所に戻る道中で黒龍と会う。
何でも新たな鍛錬装置が欲しいという彼に対し、近いうちに設置すると約束してから別れ、地下へ向かうエレベーターに急ぎ早に乗る。そんな中宗次郎から連絡が来ていた。
「ん、宗次郎さんからか。えー何々、例の犯人の居所が分かったが応援が欲しい、か」
メールを確認した彼は、すぐに用意しようと地下2階まで下りてから事務室に戻り急いで身支度をする。すると物音に反応し、寝ていたリリーがあくびをしながら起きる。
「では、行きますかね」
「ん、おはよー、ハーネイト。どうしたの?お出かけ?」
「すまんが今から桃京に行ってくる」
「一体どしたのよ」
「ある事件の犯人を防警軍が追い詰めたというが、血徒に感染しているかもしれないらしい」
寝ていたリリーを起こしてしまったハーネイトは事情を説明する。それを聞いた彼女は、代わりにできることがあればと質問する。
「それはあれね、分かったわ。代わりにみんなに仕事内容とか伝達しとく?」
「そうだな、Tミッションの他に、街中もできれば片手間に監視しておいてほしいと伝えておいてくれ。あとホテルの方は頼んだぞ」
「ええ、分かったわ。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ハーネイトはリリーにそう言うと事務所を出て、地下駐車場からホテルの外に出ると春花駅まで向かう。
その間に新幹線の中で食べる物をいくつか道中で買い、駅につくと地下ホームより地下新幹線に搭乗、その足で桃京に向かう。
今回移動にポータルを使わなかったのは、もっとこの地下を走る移動車両について調べてみたいという好機心が彼にあった。
「んで、桃京地下駅の地上入り口にて待ち合わせか」
「よっと、どうだい調子は」
「伯爵、いきなり現れないでくれ」
「んなこと言うなよ。それが俺の売りだぜ。それとな、桃京の中に血徒適合体、いわば血徒の依代が数体いるぞ」
何事もなく桃京に到着し、地下新幹線のホーム出入り口を出たハーネイトは、いきなり背後から現れた伯爵に呆れつつ、彼の話を聞いて表情を変える。
血徒に感染し、依り代となっている存在は放置しておけば徐々に数を増やし、人の形をした別の何かが増えていくことになる。ハーネイトはどこでどう調べたのか伯爵に経緯を説明するように促した。
「どう調べたんだ?」
「ある建物の中から、異様な気を感じてな、こっそり偵察したんよ。したらそこには血徒に侵された人間が数名いやがってな」
「何ぃ?それはどこにあるんだ」
伯爵曰く、ここから30分ほど北に向かった場所に妙な気配を漂わせている施設を見つけたという。
周囲の住民などに彼は聞き込みを行い、そこは5年前の事件で避難所として使われていたが、避難者の中で突然吸血鬼ゾンビになった者により放棄された地下避難施設だという。
どう聞いても怪しいその施設へ、こっそり能力を使い忍び込んだ結果クロだったという。ハーネイトは焦りながら詰め寄るが伯爵は苦笑いしながら、ある紙を彼に手渡した。
「落ち着けって。この宗教法人の所有する建物なんだが……」
「こ、これは!亜里沙さんを助けた時に拾った、勧誘用のチラシに書いてあった団体名と同じだ。どういうことだこれは」
ハーネイトはまさかここで点と点が結び1つの答えを導き出すとは思わず声を上げる。そう、既にそう言った組織が裏で暗躍し、各地で活動していたという事実に2人とも苦虫を嚙み潰したような顔をする。
いつの間にか先ほど伯爵が調べた元避難施設は、いかにも怪しい団体が無断で利用しているという。
「密教会か、いかにもうさん臭くてやばそうなところだな」
「ああ……そこが、血徒の巣窟になっている可能性が高い」
「しかもよ、奴らあの魔薬を地下倉庫にたくさん保管しとったで」
ハーネイトと伯爵は互いに情報を出し合いながら、思っていた以上に事態が危険な状態であることを再認識した。
しかも魔薬まで流通しているという可能性があるなら、その薬品自体も血徒の呪血で汚染されており、元々危険な薬がさらに別の意味で恐ろしい代物になっていると考えるとぞっとした2人であった。
その間に迎えの車が到着し、そこから降りた宇多方が険しい表情の2人に声をかけた。




