第211話 血徒の隠蔽工作?
「まさか、あの矢田神事件のことですか?」
ハーネイトの説明に合わせ、宗次郎が彼の活躍を紹介すると、宇田方や紅花は特に驚いた表情を見せながら話を聞いていた。
政府の信用が落ちた、あの田舎での奇妙な事件についての犯人を見つけ、事件の解決に導いたというこの男は本当に只者でないと彼は思っていた。
「はい、それも含め他にも数件、日本各地で同様の事件が起きていました。別の村の被害者も現在仲間として戦闘に参加しています」
「それは真か、宗次郎よ」
「そうじゃ、わし等の、いや、退魔師一族の汚名を彼は晴らしてくれたのだ」
宗次郎はハーネイトを実の息子が活躍したかのようなそぶりで嬉しそうに語る。
ハーネイトはそれに少し焦りながらも、これ以上あのような事件については起こらないと断言できると言ったのであった。
「お主がそこまで言うなら、そうなのだろうな。こういう話に嘘はつかん男だからな」
「宇田方さんですか、過去に起きた例の事件について、検体とかありますか?」
「ああ、それならこちらでかなり保管してあるが」
「私たちが案内いたします」
そう言うとハーネイトは、紅花と御田村の後ろをついて行くため席を立ち、会議室を後にしたのであった。
「私たちも、風のうわさで聞いたけど凄腕の探偵が京都にいるとは聞いていたわ」
「それが、あの事件の犯人まで突き止め倒すとはな」
「ああいう存在を倒すこそ、私たちの仕事なので」
その後更にエレベーターで上に上がると、ある会議室に通されたハーネイトは、プロジェクターからスクリーンに既に映し出されていた、幾つもの検体の写真を見ていた。
数枚の写真はそれぞれ顕微鏡の倍率を変えた、血徒化し絶命した遺体から採った血液の拡大写真であった。
「これが血徒の呪血……。しかしこれなら普通眷属がいた証拠で分かるはずなのになぜだ?仕方ない、来てくれ伯爵!」
「呼ばれて飛び出てジャンジャカジャーン!ってな。にしてもどこやねんここは」
ハーネイトは一通り確認したうえで、伯爵を呼び出すが当然、医者2人は驚いて開いた口がふさがらなかった。いきなり謎の男が妙にハイテンションで現れたのだから当然といえば当然である。
「なっ……一体?」
「おいおい、鳩が豆鉄砲を食ったような顔しよって。俺はこの男の相棒、ヴァルドラウン伯爵だ。覚えときなへへへ」
「そのくらいにしときなよ。これ見て、何がいるか分かるよね?」
「あ、ああ。ん……これはウイルス界系、ハンタの野郎か」
伯爵はいきなり登場するな否や場所がよくわからずツッコミを入れながらも、ハーネイトが指差した写真を見てすぐに敵の正体を看破することに成功したのであった。
「てことは、やはり血徒17衆の1人?」
「恐らくな。本来この型は中華国当たりにいる、腎臓を狙う奴だが変異しているぜ」
「私は見えてもそれが何かまではよく分からないよ。だから助かる」
「仲間にしといてよかっただろぉ?感謝せいや」
伯爵は一発で血液中にいた存在を見破り、その詳細まで明かす。ハーネイトは相変わらずそういう点では非常に頼りになるなと思いつつ、どうしてここまで広がったのかが気になっていたのであった。
それと今の状態では、この検体についているウイルスは感染力を失っていると伯爵は追加で説明を行う。
伯爵が見つけたそのウイルスは、ハンタウイルス。つまり腎症候性出血熱の原因となるウイルスである。勿論血徒17衆に属しており非常に厄介な相手であり、今の状態で戦うにはリスキーである。
「取り合えず、エヴィラにも連絡しとかねえと。それと、こいつら霊量欺瞞使ってねえか?」
「もしかして、向こうも存在を隠すための技術を開発している?だとしたらこれだけ血液中にあれがいるのに人の手で確認できなかった理由がわかる」
最初ハーネイトは、検体の写真を見て明らかに原因となった存在がいるのが分からないという理由が正直理解できていなかった。
殆どの人には見えないといったのは実は仮説の話でしかなかったのだが、ある話を思い出すと考えを改めた。確かにその場にいるにはいるが、何かベールで隠され隠蔽している。
血徒の研究にそういうものがあったというエヴィラの話から彼は、発覚を遅らせるために光学迷彩じみた何かを利用していたため、それを看破できる霊量士以外は認識妨害により原因となる病原体の存在に気付かなかった。伯爵はそう分析し、ハーネイトも彼の意見に同調した。
「だがよ、こういう技術を使ってまで、秘匿を重視する血徒は世界各地で暴れまわったんだろうな」
「調べたところ、他の国でもエネルギーに関する施設がかなり襲撃されている。その点から、血徒が回りくどい手法や新たな技術を用いて世界各地で暴れたのか1つ考えられることがある」
ハーネイトは不敵な笑みを浮かべてから、今まで集めた情報を基に得られた結果を口にした。それは、血徒とヴィダールの関係性に関する話であった。
「そもそも奴等もヴィダールの手下、霊量子を操る力を持つし分解術も無意識に扱える。そこでエネルギーの集まっている場所に親が子に向かうようにし、そこから大量の霊量子を得ようとしたのだ」
宗次郎らは、何故その結論に至ったのかがよくわからず再度説明を求めた。ハーネイトは、血徒もまたある存在により作り出された生命体であることに言及したうえでこう話す。
「自分も同じ力をもち、尚且つ上の力も持つためそういうのはよく分かります。それと向こうの力量と重ねても、あまりに複雑な物質の分解はできない。だから分解しやすく大量にあるものを狙った」
ハーネイト及びその部下の中には、創金術を行使できるものがそれなりにいる。
血徒もかつての自身と同じように様々な物質を無意識に分解し糧とする力を持つが、その力を真に引き出すには多種多様な元素、物質の勉強が必須となる。そこまでの域に行ったのがハーネイトである。
その上で、霊量士は創金術こそ使えないが分解し霊量子を確保することはできる。それを向こうも使っているのだろうが、それにしても不可解な点が目立つ。前の事件でもそうだったが、そうなるとすれば辻褄があう。
それらの要素から、彼らがなぜ特定の場所を以前に襲撃していたのか、その理由を導き出した。
「複雑な話だが、要は敵は……大量のエネルギーを集めるために現れたわけか」
「それを集めてどうするのかが、今後の捜査方針だな」
「BW事件では、各地で発電所などが襲われ、深刻な電気不足になり多くの死者が出た。血徒という存在に直接襲われた犠牲者だけでなく、実はそれ以外の関連死も多いのだ。更に生産活動の低下と太陽の活動低下による寒冷化も合わさり地球は少しずつ冷えて来ているのだ」
「確かにな、嫌な寒気はそれも関連あるか?」
ハーネイトの話を聞きながら、宇田方らはブラッドホワイトデー事件で大きな被害を受けた場所について説明をしつつ、地球全体で環境変化が起きていることについての説明を彼に行う。
それを聞いていたハーネイトは、今まで集めた地球に関する情報と、実際の情報に異なる点が思っていた以上に多いことが一番の気がかりであった。




