第207話 防警軍と世界の現状
「うーむ、聞く限り世界滅亡にしかつながらなそうな案件だのう」
「その通りでございます、宗次郎さん」
「これは防警軍にも協力を本格的に仰がなければならないな宗次郎」
話を聞いた宗次郎と文次郎は、それぞれ目線を合わせながらある組織と連携して、事態に対処しなければ効率よく動くことができないだろうと考えそう言葉を口に出す。
「その通りだな文治郎。表向きは今まで通りの世界だが、実態は超巨大企業による経済・司法・防衛の支配といったものだ。これもブラッドホワイトデー事件以降、政府の対応に不信感を抱き続け爆発した結果、一部の企業が影響力を持ちすぎたが故の話だ。民間軍事会社もそうだな」
宗次郎はハーネイトらに対し、日本の防警軍とはどういうものなのかを簡潔に説明する。
自衛隊とは別に生まれた防警軍。それは複数の企業が技術を出し合い対異形用兵器の製作及び運用、防衛などを行う多企業複合体という物である。
情報を隠し続けてきた政府の信用度が地に落ち、代わりに事態に対応し結果を出した企業などへの支援が増加し影響力を持ち、民間軍事会社と類似するような組織が誕生したのであった。
住民へのシェルター提供や治療を始めとした企業単位での活動により、これでも最悪の事態を避けることができたのであった。
これは日本以外でも同様であり、かなり多くの地域で血徒による被害が出ていることを証明するようなものでもあった。
特にアメリカと中国とロシア、アフリカの被害がすさまじく中国は人口が10分の1にまで、ロシアも人口が5分の1にまで減少し、アフリカ大陸では残った国による紛争が起きていた。
善戦したアメリカでさえ人口が2億人以下にまで低下している。そのため中国の土地をインドを主軸とするIUUが、ロシアの西側をNEUが手に入れたという。
アメリカは南アメリカの3分の1とカナダを取り込んでUAUを設立したという。
「まあ、わしらの一族もあの事件で精力的に救助活動や施設の提供などに励んでおった。その影響もあって影響力がある。それと世界の各地域でそれぞれ企業体が存在する」
「最も、それらの関係はあまりよろしくないところが多いのですが、それでも血徒と貴方達が呼んでいた、謎の吸血鬼対策だけは協力して行っています。それほどに、あの事件は世界を変えてしまったのですね」
宗次郎は自身の経営する会社もその多企業複合体の1つであり、流通、車両などで一番の影響力を持つと言われている。他にも六菱工業やアルゾニック電子工業、安西工業、ミストア製薬、カーディナイズ社など13の大企業が今の日本を支えていると言っても過言ではない。
それに付け加え、亜里沙は同様の組織に関して各国間で様々な取り決めや協力を結んでいることも説明する。
「私が、不甲斐ないばかりに……!」
宗次郎と亜里沙の話を聞いたエヴィラは、あの時自身がしっかりしていれば血徒の活動を抑えることができ、被害もここまで出なかっただろうにと歯がゆい思いをしていた。それを見ていた伯爵は思わず彼女を慰めた。
「エヴィラ、今は悔やむより彼奴らを止めることだろ。相手が相手だ、悪いが血徒は普通の人間には倒すことはどうやっても不可能だ。ヴィダール絡みは、ヴィダールだけにしか解決できねえんだからよ」
「なんでそんな奴らがこの地球で……何を行うつもりなんだ」
「それはこちらでもわかりかねますが、以前の事件以上の恐ろしい出来事が起こると思います。その真意に近づき、潰すのが私たちです」
宗次郎ら大人たちは、その血徒と彼らが呼ぶ存在が何をしようとしているのかが気になっていた。
だが、これについてハーネイトたちもまだ確実な情報を手に入れられていないのが現状である。それほどに、敵は厄介な相手だということでもある。
「幾度となくそれらと戦ってきた君たちならば、防警軍も黙るしかない。是非力を貸していただきたい。私の息がかかっている所だ、顔合わせもしておきたいのでな」
「ええ、了解しました。ただポータルを設置していない場所では移動について援助をお願いいたします。一度行ったところでないとこちらも動くのに難がありますゆえ」
宗次郎はどうしてもハーネイトに、日本全域での異常事態に対応する防警軍の関係者と顔を会わせてほしいようであり、それは彼自身にも、ハーネイトにもいろいろ有益な物になると踏んでいた。
「それで、もう一度確認ですがあくまで桃京に向かう目的は、事件捜査の協力というので間違いないですか?」
「うむ。それが一番だが他にも防警軍総司令官や特別捜査課の人間とも話をしてほしいのだ。向こうも敵勢力の情報を欲しがっている」
再度ハーネイトは、宗次郎に内容を確認した上である注意点について話をした。
最も、ハーネイトは防警軍に関してあまり知らず、どのような装備で対抗したのかが気になれど根本的な撃退には至っておらず、潜伏者という形の依り代はどこかに絶対潜んでいると確信していた。その上で血徒固有の厄介な能力について説明する。
「ただ、情報を渡しても対抗できる人材は自分たちだけなんですが」
「それはわかっておる。こちらも事件の資料から銃弾や爆弾など、既存の兵器が全て効果を示さなかったことを確認済みだ。だから、敵の癖とか特性だけでも教えてやってくれ。住民を避難させる際などに役に立つと思うのでな」
血徒はもともと微生界人であり、その一部が暴走している、あるいは何かの目的を持って動いている存在である。
腐ってもヴィダールの一員であり、ヴィダールの力である霊量子を扱える存在でないとまともに勝負にならない。それに関しては大和や宗次郎は重々理解していた。
ハーネイトらの分析では、神造兵器としてモデリングされ生み出された存在は無意識に霊量子を扱え、その防御特性から同じ力を持つもの以外からの攻撃は最低無効以上、運が悪いと吸収されてパワーアップを許してしまうほどの厄介さを持つ。
だが、ハーネイトを含む霊量士としての修業を受けた存在は、有意識的に霊量子を操り集めたり放出することで敵の防御に干渉し貫通できるようになるという見方をしている。倒せる存在が限られているとはこのことである。
「そういうことですか、確かにそれならば」
「向こうさんは何が何でも倒すつもりだが、霊量子とやらを扱える者だけがやれるなら今の彼らの装備では無理だろう。ここはきっぱり、自分たちでやるというかあるいは、彼らの素質を見極めてやってくれるとありがたい」
「まあ、それはついでにしておきますよ。では手筈の方はそちらでも整えてください」
ブラッドホワイトデー事件では住民の他に対応に当たった人たちもかなりの犠牲者が出ており、それを如何に減らすかというのが課題であった。
だからこそ宗次郎は、隊員らの生存率を上げたいためにハーネイトに打診したのであった。名誉を失墜させた憎き存在、それを操る存在を見つけ出し、全員が何事もなく戻ってこられた。
それはハーネイトが常日頃から仲間の安全などに気を使い改善に努めているからであり、そのノウハウも参考にしたいという宗次郎の思惑があった。
「先生、私たちはどうすれば」
「そうだな、指示があるまで待機か調査だが、何人かは桃京に来てもらうことになるかも。ポータルを使えば瞬時に移動できるが、用事がある人は無理してこなくて大丈夫だから」
「わ、わかりました先生」
「いつでも呼んでくれよ兄貴」
ハーネイトはその場で解散し自由にしていいと言うと、再び研究室にこもっては画面や実験道具とにらめっこをしていた。
その他の人たちは帰宅したりレストランで食事をとったりと、至って普通に動いていたのであった。




