第206話 第二世代神造兵器・微生界人
その翌日の夕方、ハーネイトは地下会議室に人を集めていた。そう、血徒についての説明を行うためである。
これから戦う敵に関して、少しでも情報を伝え今まで以上にきつい戦いが待っていることを、彼は伝えずにいられなかった。
現霊士だけでなく、ミロクたちハーネイトの部下の約3分の2と宗次郎、更にホテルの管理者と料理長など、前線で戦う以外かつ能力者でない多くの人も説明会に集い、話を聞こうとしていた。
それほどに、今回のハーネイトの話は誰もが注目する案件だったのである。
「では先日戦った、魔界の住民たちの間で猛威を振るう血徒に関して、後ろの2人に説明していただきます」
「まさか、こういう話で呼ばれるなんて」
「エヴィラ、俺は……」
「わかってるわよ、私も嫌な予感しかしない」
ハーネイトの後ろで伯爵とエヴィラが小声で話をしていた。2人も、自体が悪い方向に進んでいることを危惧していた。
「私は、エヴィラ・ブラッドフォルナ侯爵というものよ。先日は、共に戦ってくれてありがとう。先に言っておきます」
赤と黒の、ゴスロリ衣装のような、それでいて高貴な佇まいを欠かすことなく見せつける彼女は一歩前に出ると、全員に対して微笑みながら感謝の意を述べる。
これだけ見ると、彼女はとても気品のある、お嬢様かお姫様かにしか見えない。だがこのエヴィラこそ、とんでもない力を持つ最強の一角とも呼べる存在である。
「あの、エヴィラさん」
「なにかしら、彩音さん?」
「はい、貴女も……元血徒というのは本当なのですよね?」
彩音は早速、気になっていたことを質問した。それに対しエヴィラは、不敵な笑みを見せながら自分のことについて話をする。
「そうね、しかも正当な血徒を継ぐ者。だけど、今はどうでもいいの」
「一体何者なんだよこの女性」
「ウイルス系微生界人、俗にお前らの世界ではエボラ出血熱の概念体というか、それを形作る微生界人、概念霊体という奴だ」
伯爵が代わりに彼女の説明を行った瞬間、その場の空気が一瞬凍てつく。最も響など一部のメンバーは彼女の素性を知っていたのでさほど驚いてはいなかった。
「ちょ、おいまて!それって大丈夫なのか?」
「伯爵の兄貴……」
「私は、ハーネイトの力でその辺の病気を起こす力はないに等しいのよ。というか、とりつく必要ないってか」
「彼女ほど血徒に詳しい存在はいない。私も決死の覚悟で彼女に新たな力を与えたのだ。皆さん、新たな仲間を受け入れてくれませんか?彼女ほど、血徒に詳しいものはいないのですから」
エヴィラは、ハーネイトの力で病原性などについて完全に制御できるようになり、基本的に無害な存在として生きていけるようになったことを説明し場を落ち着かせようとした。
それに便乗しハーネイトも改めてお願いをした結果、全員は仕方ないという感じになった。
「な、なんだ。それなら……」
「先公がそういうなら、異議はねえよ」
「話を続けるわよ。私はある存在を追っているのよ」
「それって、まさか親を殺したやつのことか?」
「それと関連はあるわ。元仲間たちのことよ」
翼はエヴィラと少し前に話をし、彼女が動いている理由を少しだけ知っていた。だからこそ、彼女の復讐心の強さを恐れていた。
「彼らはある邪神が封印されているという石碑を持ち出して行方をくらました。そのときに、私の両親は抵抗しようとして…」
エヴィラは悲しそうな表情を見せながら、自身の過去を話す。突然離反し行方不明になった元同胞を、自身の手で止めて倒す。その決意は何よりも固いものであった。
離反した奴らは、自身の妹まで連れて行き、今では新たな血徒の王として操られていると言う。その妹を、ハーネイトとエヴィラが追っていると言う。
「あの、先生たちはあの感染した悪魔たちに触れてもなんともないですよね」
「私らは霊量分解を扱える。それがあれば対抗はできる。あと先日開発したPAも防護機能を備えていることは知っているでしょう?」
間城の質問に対しそう返したハーネイトは、改めて自分たち霊量子運用能力者ならば血徒に対抗し倒すことができる上、血徒化も防げることを説明した。
その理由は、血徒が全員微生界人であり、共通の弱点である細胞を持たない存在、例えば亡霊や神霊などには直接感染し乗っ取ることができないという特性によるものである。
PAは霊量子をまとわせ防護するバリアの機能も併せ持つため、血徒の浸蝕をブロックできる。
それを聞いた間城たちは、ハーネイトがいかに苦労して研究開発しているか察しながら、次の質問を彼らにぶつけたのであった。
「それにしても、血徒って何がしたいのかな?やることが滅茶苦茶だと、思います……」
「問題は、やつらの目的がいまいちわからん」
「全体の把握ができてないのか?」
「私たちでさえね。向こうの戦力が多すぎるのよ。だけどね、あの石碑に封印されていた存在は危険すぎるわ」
「その辺の再調査も含め動くしかないぜ。微生界人にもさまざまな種類があるが、カビの連中は除いても、それ以外の全勢力の95%は行方知れずな状態だとよ。ルべオラたちが集めた情報によるとな」
エヴィラも伯爵も、すごく悩んでいる様子を見せながらそういい、全容を知るにはいろいろと足りないものが多すぎるとして調査を拡大していかなければならない必要性を説いたのであった。
何よりも、過去に起きた大事件以降、伯爵も多くの同胞の行方が分からないため、それについて言及しながら全員でしらみつぶしに調査する必要性を説いた。
「それで話を進めるわ。そもそも、血徒ってどんな存在かよくわかっているのかしら?」
「え、いえ……聞いているのは伯爵様やエヴィラ様と同じような、微生物が滅茶苦茶たくさん集まって、人をかたどった存在ということだけです」
「そうね亜里沙さん。まあ間違ってはいないわ。でも、血徒と呼ばれる存在はその中でも強力な存在なのよ」
そうして、エヴィラによる微生界人及び血徒の解説が始まる。
まず微生界人について、これは厳密には半神霊という存在に該当し現ヴィダール最高神・ソラが生み出した種族である。
微生物の概念霊体とも定義され、無数のその個体に対応した微生物を核とし、霊量子と微生物が混ざりあった疑似エネルギー体という見方もあるが、端的に言うとこれらは微生物のお化けと言えば大体説明がつく。
正確には、概念霊体という霊量子のエネルギー体が核で、それを微生物で纏い強固な肉体を表現しているという。
微生界人の中でも種族ごとなどにカテゴライズされ、それぞれの世界を別に作り活動しているとされ細菌界、ウイルス界、リケッチア界など幾つもの種類の微生界人が作り出したその世界を総称して微生界と呼んでいる。
ソラは、この微生界人という生命体を2番目に作り出した神造兵器と定義し、とある存在の封印及び管理をずっと任せていたという。のだが、どうもこの種族も別にある計画にて利用される運命にあったと言う。
血徒はこの微生界人のウイルス系の一部に該当する。ただこれは本来の血徒のことであり、現在の血徒は細菌界などの微生界人も合流して活動しているという。
元々ウイルス系の微生界人は強力な力と引き換えに存在を増やし維持するのが困難な特性を持っていた。
存在している微生物の数が多いほど強固な存在になるため、種の安定と永遠の命を求めるため研究していたのが、血徒と呼ばれる血を使い仲間を増やすことが可能な微生界人の集団であった。
エヴィラ曰く、元々研究以外の活動にはあまり積極的ではなかったといい、同胞がいきなり人が変わったかのように振る舞い行方不明になり、秘かに世界を壊していることが理解できなかった。
あれはまるで、誰か別の強大な存在に精神を操作されている。そう彼女は判断し、暴走する同胞を止めようと孤独な戦いをしていたのであった。
「微生界人、血徒……。そういう存在がいるなんて、話を聞くまで考えたこともなかった」
「そして、その微生界人を倒せるのは同じくそのソラという存在から作られた存在か、霊量子を扱える存在か、ってことか」
「だから俺たちの出番なんだよな、ああーマジ面倒だ」
「私たちがやらなきゃ、あれは倒せないのだけど」
誰が感染者で、あるいは血徒本人かは同族である伯爵たちの手にかかれば、一目見れば詳しくその種別を判定できる。
だからこそ、微生界人を十数名仲間にできたことは不幸中の幸いであり、彼らもまた血徒と因縁があることを利用しつつハーネイトは、この恐るべき存在を止めようと画策していた。




