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レヴェネイター  謎多き魔法探偵と霊量士(クォルタード)の活動録  作者: トッキー
第2部 桃京血徒戦線 暴走する神造兵器・血徒(ブラディエイター)
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第203話 一時のささやかな日常・2

 

 そんな中韋車は、本来の仕事である自動車工場にて、部下のスケジュール管理や作業ノルマの確認、部品の調達などを行いながら不具合などに対応し忙しく働いていた。


 別に、ハーネイトから高額の給料はもらっているためここまで働く理由はあまりないと思いつつ、彼は工場勤務についても手を抜くつもりはないと励んでいた。


「今日の業務もこれで終わりっと。というか、俺はもう整備ライン長よりもハーネイト専属の運転手の方がよくねえかこれ」


 それを終えると着替えてから車に乗り、久しぶりに駅前のデパートの地下にあるおいしいつまみを売っている店を訪れるため向かい、駐車場に車を止めてから建物の中に入る。

 

 この前の一件で助けられ、力に目覚めた韋車は、すっかりハーネイトの足として大和と共に仕事をしている状態である。


 それに関して彼は心の中でぼやきながらも悪くはないと思い苦笑してから、今日は奮発して高い物を買おうと楽しそうに歩いていた。


 自分より少し若い男に見えるが、日頃からよく働き、この春花を初めとした周辺部までうわさが広がるハーネイトに、彼は生き別れたままの弟の姿をなぜか重ねずにはいられなかった。


 その少し前に、黒龍と渡野、音峰の3人は今どきの若者が好む服を売る店にいた。その店の前をたまたま通りかかった韋車は、すぐに黒龍に声をかけられた。


「あ、おっさん見つけた」


「あのなあ、オッサンじゃねえだろお兄さんだろぉ?」


 黒龍の発言にややふざけた感じで韋車が詰め寄りながら反論する。


 総じてこの韋車はハーネイトにとっても親しみやすい、ノリのとても良い男である。だが、当の本人は人づきあいはこれでも苦手らしい。


「30過ぎたらオッサンじゃねえのか?」


「どういう見方してんだよ。つーか、俺28、大将……ってかハーネイトと年そんなに変わらねえぜ」


 韋車は自身の年齢を明かしたうえで、自分とハーネイトはノリのいい友達みたいなものだとアピールする。


「まじか……すまなかったぜ」


「分かればいいんだよこの坊主がよぉ。んで、何でここにいるんだ黒龍、それに音峰と渡野も」


「気付いていないかと思ったぞ」


 韋車は喜作に黒龍の後ろにいた音峰と渡野にも声をかけた。この大学生2人も結構仲良く行動しており、互いに意識しているそぶりを見せていた。


「えへへ、黒龍君が服を買いたいっていうから自分たちもデパートについてきたの。彼、殆ど服持ってないみたいで」


「俺もたまにはおしゃれはするが、どうも服の見立ては他人のになると苦手だな。体を動かすのは好きだが、それ以外はどうもな」


 どうもこの2人は黒龍の買い物に付き合っていたようで、年齢的に後輩な黒龍を引っ張る先輩として、色々アドバイスしていたようであった。


 最初音峰はデパートに行くのを渋っていたが渡野だけだと不安だと思い同行することにしたという。


「そりゃそうだ……色々、置いてきてしまったからな。だが、ハーネイトさんのおかげでお金には困らねえし、この際おしゃれとやらにも手を出してみようかなってな」


 黒龍は、村を魂食獣などに襲われほぼ着の身着のまま、命からがら村を脱出し生きてきた。そのため碌な装備を持っておらず、その資金や衣食住などを提供してくれたハーネイトに多大なる感謝をしていた。


「俺も手伝ったんだがな。しかし、この大量のお金をどうするべきか」


「銀行口座見たら、信じられないほどのお金が……でもこれって税とかどうするのよ」


「ああ、そこんところはハーネイトが手回ししとるらしいから気にすんな。彼も毎日この世界のことを勉強してるようだし、うまくやるさ」


 ハーネイトは調査や仕事の傍ら、図書館で借りた様々なジャンルの本を読み漁り、街を出歩き彼にとっては異世界であるこの地球での見聞を広げていた。


 彼は昔から勉強熱心であり、それは今も変わらない。またその話に関連し、響たちを筆頭にハーネイトは、月に一千万円以上の高額な給料を払っていた。


 命がけの仕事に就かせているいる以上、それに似合う報酬は提供すべきであり働きやすく暮らしやすい会社を目指す彼にとっては当然の行いであった。


 話題の中で、今度はハーネイトの資金運用術などのうわさ話で盛り上がる。


 その中には、部下であるサインと共に地球から流れ着いた簿記の本で勉強したとか崩壊しかけた国を再建したとかという話もあった。


 果たしてどこまでが本当の話だろうか、信じがたいところもあったが99%事実であり、事務所を構える前は多くの国を結束させ、争いを無くしながら文明格差の大きい国への支援なども怠らなかったという。


 ある時は戦場の中央に立ち、アイドルさながらのムーブと笑顔だけで両軍の戦意をくじいて戦争を止めたと言うからハーネイトはとんでもない存在である。


 もっとも、スパイと間違われることも多く何回か彼は危ない目に遭っている。


 しかし各国が抱える難題を短期間で解決したり、異界からの侵略者を一撃で撃破したりなど数々の活躍が、彼の潔白を証明しいつしか救国の大英雄、英雄王などと呼ばれるほどになった。


 その話も含め、彼については未知数な点が多すぎて謎だらけだと共通の意見を彼らは出す。


「本当に、謎が多いよね。でも、あの人たちがいなかったら確実に命がなかったと思うわ。英雄王……そう呼ばれる理由、わかるかも」


「確かにそうだな、渡野。だが、彼はまだ本当の実力を全く出していないように見える。本気の彼を、見てみたいものだ」


「はは、確かにハーネイトさんはそういうところあるな。スカーファも、少しは見習っておとなしく本とか読んで落ち着いてほしいぜ」


「ほう、私が只の戦闘狂だと思っているのか?」


 黒龍がスカーファの性格について思っていたことを口に出した瞬間、彼らの背後にすっと現れたのは本人であった。


「で、出たあああ!」


「人を妖怪呼ばわりするつもりか貴様?フフフ」


 そんな彼女は、あまり見せない私服姿でデパートを訪れていた。紫のロングスカートにベージュのブラウスとどこか高貴な印象を思わせる服装で、3人は食い入るようにしばし彼女を見ていた。


「あら、スカーファさんもデパートに?」


「そうだが、何か問題でも?」


「いえ、何か買い物でも?」


「塾で使う教材の材料を買いに来たのだ。全く、騒がしいと思ってきてみたら」


「ああ……なんか意外な一面あるな」


 買い物の理由を聞いた3人は、そういえば彼女は英語塾を開いていたことを思い出したうえで、別の仕事も熱心に行っているのだなと思い関心していたのであった。


「フッ、これでも色々免許を持っているのだぞ?」


「……確かにすごいな。努力の結晶とでもいうべきか」


「私とて、ただ戦場で暴れるだけの女ではない。そう思ってほしいのだが」


 スカーファはカバンの中から様々な免許証明書の入ったカード入れを皆に見せながら、少しむすっとした感じでアピールする。


 それは、彼女の努力の結晶であった。死んだ義兄の分まで生きて見せる。一族の重責を背負いながら彼女は運命と戦ってきた証明ともいえる。


「どう見てもあの戦場での暴れっぷりはねえ」


「スカーファ、何でもできるのか、すげえな」


「とはいっても、私にも不得意なことはある」


 だが黒龍と韋車は、彼女の暴れっぷりがどうしても先行してイメージされる。もはやあれは凶戦士だ。同じ思いを抱いていた2人に対し、スカーファは顔を赤らめながら恥ずかしそうにそういう。


「もうすぐ35にもなるのに、ろくに彼氏など作ってこなかった……いや、作れなかった」


「あぁ……まあそれは」


「だから、あのハーネイトを頂く」


 仕事一筋15年。彼女は只管国のため、家族のために働いてきた。そのため男性経験が不足している面を自覚していたのであった。


「え、それは」


「その通りだ。彼の強さは私を満足させる。彼こそが、私の求めていた存在だ」


「の割には修練の部屋で先生を串刺しにしまくってませんか?器具も壊して、先生の浮かない顔が……」


 どうも彼女もハーネイトを狙っている。理由を聞いた黒龍だが、度々ハーネイトが何故かボロボロな姿で部屋を出るのを見てきた彼は、何故そう言うのかが理解できずにいた。


 もしかして、師であるハーネイトはわざとサンドバッグになって各員の技術向上を助けているのかと考えた音峰は、珍しく暗い顔を見せる。



「あ、あれは……ああすれば彼と会う機会が増える……なんて」


「そ、そういうことかよ。つーか巻き添えで俺たちも怒られるんだけどな」


「そういうあれならもっとくっつけよなおばさん」


 彼女の意外な一言を聞いて、3人とも呆れながら意外な一面を見せてくれた彼女を応援せずにはいられなかったが、黒龍が言ってはいけないことを言ったために、


「ほう、命が惜しくないのか?」


「げっ、に、逃げるぜ!」


「まて俺もだ!」


 と黒龍と韋車は逃げる羽目になったのであった。


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