第202話 一時のささやかな日常・1
そんな中、響たち高校生グループは春花駅のビルにあるうどん屋にて昼食を取りながら話をしていた。
ここ数日は各自部活や、やりたいことについて各自精力的に動いていたが、話の議題はもれなくハーネイト案件であった。
「先生たちしばらく事務所閉めるって何してんだか」
「各地に移動できるようにポータルを置いているんだとさ」
「私ら一族の管理する建造物の屋上を提供し、そこに設置してもらっています」
「色々便利そうだな、へへへ」
「亜里沙さん…それにあなたのお父様も大胆よね」
響たちは先生が今何しているのかは把握しており、ハーネイトたちが休みなく動いていることにいささかの不安を覚えていた。
あの事件は一つの結末を迎えた。それは喜ばしいことであるのだが、真の敵を倒したわけではない。それが胸に残る。
「そうかしら、使えるものはこちらも利用するだけですよ?最も、ハーネイト様とそのお仲間様方にはこれからも活躍して頂きたいので」
「実際すごいもんね先生」
「放射線汚染のひどい地域を3日で測定機器で測定出来ないほどに浄化するとか奇跡だよなあ。やっぱ人間じゃねえのか……」
例の事件が収束してからもハーネイトの活躍はとどまることを知らない。
最近ではブラッドホワイトデー事件により起きた原子力発電所襲撃事件により生じた放射線汚染を、彼は創金術を駆使して浄化し元通りの環境に戻したという。
師である若い男が、こうして活躍しているのを見ると自身らも何かせねばと焦らずにはいられない。そう思いながら話は続く。
「あの事件も、丁度5年前。原子力発電所が襲われた恐ろしい事件だったわね」
「その犯人も、ハーネイト様の言う血徒の仕業なのでしょうね」
5年前に世界各地で発生した、吸血鬼による事件。それは思わぬ災害を引き起こしていた。
桃京以外でも吸血鬼が発生し、ある原子力発電所が襲撃され結果としてメルトダウンをおこし、吸血鬼は放射線を浴び消滅しながら、2つの汚染を撒き散らす結果となった。
ハーネイトはつい最近、宗次郎の依頼を受け、まだ汚染のひどい場所に赴いてから放射線を分解し、汚染濃度をほぼゼロにまで浄化したのであった。
それをガイガーカウンターで確認した宗次郎とその部下、さらに防警軍総司令官は目を丸くしていたが、奇跡ともいえる現象を起こしたこのハーネイトを神が地に降り立ったと表現していたという。
「先生たちは血徒汚染がどの程度広がっているか改めて調査するようだ」
「でも、私たち正式に血徒についての詳細を知らないのよね」
「あのときも急いでいたからな」
響は先生であるハーネイトが主導となってこれからも調査を行うらしいと話をし、彩音は一方で敵の正体について知らない点が多すぎると不安を露にしながらうどんを口に運ぶ。
このお店は麺もそうだが出汁も素晴らしいことで有名で、今日も客がよく入っている。春花に移住してから響と彩音はよくこの店でうどんを食べているという。
「よー、部活終わったぜ」
「翼か、それに五丈厳と九龍」
そんな中、翼と五丈厳、九龍も店にて合流し、響たちの座るテーブルの左隣に移動し腰かけると、メニュー表を見ながら3人は話に加わった。
「しばらく何もないって、張り合いがねえな」
「仕方ないだろ勝也。兄貴も大変だな」
「血徒……か。あの事件以降世界は変わってしまったな」
「多企業複合体か、例の事件のせいで機能不全に陥った政府の代わりに活躍しているな……。様々な国が纏まって前のEUみてえなものができている」
「突然現れた吸血鬼やゾンビが、世界の流れを変えて結束を深めた、のかな」
五丈厳たちも注文した熱々のうどんを口に運びながら、それぞれ思っていることを口に出した。
事実、ハーネイトが手にしていた異界物による地球の資料と、今の地球の情報は大きく違ったものとなっており、少し前にそれを知ったハーネイトは驚きを隠せずにいたと宗次郎から聞いたと、亜里沙は答えていた。
5年前に発生した吸血鬼事件ことBWは、日本以外の国で日本以上に損害を与えていたのであった。その爪痕はすさまじく、中華国、ロシア、アメリカなどは大量破壊兵器を使用したが、全く効果がなく多くの人間を絶望に追いやったほどであった。
それは、宇宙人の来襲よりも強力なものであった。地下シェルターに避難する人たちも少なくなかったが、避難所にて突然隣にいた人が血を吐き、目を充血させて襲い掛かってきたり、肉体が変異し怪物となったりと大パニックになった事例もかなり存在するという。
事件が拡大していく中、人々の中にはだれが感染者か非常に分かりづらいことから特定の人たちが狙われたり、暴動などが起きたりとさらに世界は混とんの渦に巻き込まれていったのであった。
「んで、俺らにしかそれは倒せねえ。んならよ、とことんやるしかねえよな勝也」
「ケッ、解ってらあ。ったく、ゲームじゃあるめえしよ。ああムカつくぜ。対応を取らず隠そうとした連中も、俺のダチを殺したやつらもな」
九龍はこれから戦うことになる敵が、自分たちにしか対抗する術がないことをよく理解していた。だからこそ五丈厳の肩を強く掌で叩いてから抱き寄せて、ニカっと笑顔で彼に問いかけた。
それに対して五丈厳は、少しだけ顔を赤くして恥ずかしそうにしながらも、九龍の言うとおりだと思い自身も、このもやもやした苛立ちをどうやって敵にぶつけようか迷っていた。
その後も高校生たちはうどんを食べながら話を続け、しばらくの間楽しい一時を過ごしていたのであった。




