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レヴェネイター  謎多き魔法探偵と霊量士(クォルタード)の活動録  作者: トッキー
第1部 邪神復活事案 レヴェネイターズ始動!
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第200話 作戦完了と選べない選択肢



「もう、おしまいですか?」


「ああ、確かに力は見させてもらったぞ。だが、全員修練をさらに積まなければ、更なる脅威に飲み込まれるだけだ」


 ハーネイトは不安そうにこれで戦闘は終わりかと質問すると、ソロンは高笑いした後にこう言い、常に己の力を磨き上げることが大切であると改めて教えたのであった。


 そうすれば、未来は壊れないだろう。ソロンは既に、彼らに全てを託そうと考えていたのであった。


「ソロン様、貴方は何が見えているのですか?」


「前にも言っただろう、そう遠くない未来に放浪していたヴィダールの神柱が訪れ、貴様の命を狙いに来ることだ。奴らは容赦なくソラを倒すための力を得るためにお前を倒しに来る。それと、霊量子を操れる存在全てを消しにかかる、それは確かだ」


 全てを見通す力まではないものの、ソロンは近いうちに起こる出来事をハーネイトに説明した。だがその内容は信じられないものであった。


 命を狙われるという理由を知りたいハーネイトはやや焦った様子で質問する。


「ソラの気運を、得て生まれた者だからか」


「貴様はソラの手により作られ、彼女の気運を宿す者。ゆえにほとんどの仲間はそれを持つ存在を取り込んで、女神を倒す算段だろう。そうでなければ、神柱たちがあのソラに打ち勝つ保証は限りなく0だ」


 ソロン曰く、昔逃げた同族は機会を伺って、女神ソラを倒そうと力をつけ続けてきたという。


 自身もそうであるが、それ以上に恐ろしいものがハーネイトの前に立ちはだかる。それもまた試練であり、乗り越えなければ未来がないとも話をする。


「無茶苦茶にもほどがある……」


「だが、かすかな可能性にもすがりたいのだろう。まあわしは、お主と仲間たちがしっかりあれを止められると信じておるのでそのような真似はせんがな」


「そう、ですか」


「浮かない顔をしているな、不安か?」


 ソロンはそれでも、ハーネイトが鍛錬を怠らず、仲間を大事にし続けていれば大丈夫だと諭すが、それでも彼の顔から不安を取り去ることができなかった。


 それは、彼自身が抱えるコンプレックスからくるものであった。


「そりゃ勿論ですよ。私は兵器として生まれた。女神の手先として。正規のヴィダールではないはず。なのに対抗できるのかどうか、不安が付きまとうのです」


「何を言って居るか貴様は。12大神を力で認めさせたのだろう?それだけあれば十分だ。既に、お前もその周りにいる微生界人という存在の数名も、神霊化しておる。何よりも、貴様はソラの神気を多く宿す者だ、神柱と対等に渡り合える力はあるはずなのだよ」


 自分は全てを壊す兵器として生み出され、それを捻じ曲げられ世界を守る存在になった。そう、彼を支える軸というのがまだぶれている状態であった。


 それに自分は女神らの計画なしに生まれてこなかったうえに格の違いを以前に体感し、本当に全て勝てるのか疑心暗鬼にもなっていたのであった。


 しかし、ソロンの一言でハーネイトはハッとする。神霊化の域にあれば、少なくともヴィダールの神柱級を相手にしても一方的に負けることはなくなる。それならば、後はどう力を使うか、鍛えるかということである。


「確かにそうだな相棒」


「先生、貴方はすごい存在なのでしょう?全てはまだよく分からないけど、先生ならどんな敵にも勝てるって私は思っているわ」


「臆したって、しょうがないと思います先生。俺も先生のすべてを知っているわけではないですが、先生がいなかったら事件の解決なんて到底無理だったし、何より俺と彩音の命もなかった。だから、俺は先生たちについて行く、貴方が嫌と言ってもな。確かにすごい存在を倒せる力はまだついていない、だけどここまで来たなら、そこまで行ける力が欲しいんだ」


 不安を取り除くかのように、伯爵を始めその場にいた人たちはハーネイトに声をかける。その一つ一つが胸に突き刺さっては、氷が水に解けるかのようにしみ込んでいく。それが、彼にとっては必要なことであった。


「……それは、重々わかっているさ。ああ……どちらにしろやらなければならない」


「その上で、ハーネイトよ。この際女神ソラを倒し自身が世界の管理運航を担うってのはどうだ」


「それは、私があの玉座に座れということですか?」


 ソロンはうつむくハーネイトに対しある提案を行った。それは、ハーネイトにとっても重大な選択を強いられるものであった。世界を管理する玉座を我がものとし、全てを見守る存在となること。ソロンはそれになれと言ってきたのであった。いわば女神代行に叛逆するという物であった。


「何だそれは」


「私の住む世界にある、全ての世界の監視観測、介入まで行える空間があるのだ。それの管理者になる話だ」


「す、スケールすごすぎるわ」


「私頭が追い付かないわハハハ」


 ハーネイトは端的にそう説明するも、そのスケールの大きさに戸惑いを隠せなかった彩音や間城は苦笑いするも、この人ならばいいかもしれないと直感的にそう思っていた。


「……しかし、ソラは一度そこにつけば、天神界から離れられないと、私にそう話しました」


「そのことか……確かにそうじゃな。だが、女神の気まぐれや暴走をこれからも許せば、大事なものをすべて失うことになるだろうなあ。何より、世界龍というのを知るには、そこに行かないと情報が恐らくないはずなのだ」


「それは、重々理解しております。実際に戦いましたからね。全ての事象が、最初からなかったことになる。その恐ろしさは、自分も同じ力を引いているが故身に染みます」


「まだ決断はしなくてよい。だが、それも1つの道だということだけは言っておこう。人間たちもそうだ、ある日突然、何者からも忘れられ消えてしまうというのは恐怖でしかないだろう」


 ソロンの言い放った大世界の玉座の件で、ハーネイトはいつもより元気がない様子であり、それを響たちが思わず気遣った。


 確かに女神を封印するなり倒したりすれば、女神絡みの事件は起きない。しかしそのためには自身を犠牲にしないといけない。その葛藤を飲み込んで割り切るには時間はとても足りなかった。


 また、ソロンは響たちを相手にそう話し、奪われたくないのなら戦い抗うしかないのだという言葉を贈る。


「先生、俺たちは先生がどの判断を下そうとついて行くまでです」


「それが、永遠の別れにつながるかもしれないとしても」


「それは……」


 響はハーネイトを気遣うように声をかけたが、彼が放った次の言葉に思わず口を閉ざすほかなかった。そう、ハーネイトにとって決断を下すには非常に苦しい内容であった。


 今こうして、多くの仲間たちと共に切磋琢磨し過ごす日々が、何よりもかけがえのないものだからこそ、神霊の体を持ちながら人としての心を得た彼にとっては手放したくない物であった。


「だったら、他にも考えればいいじゃない先生!まだ時間はあるわけだし、私は先生も幸せになれる道を探すわ!」


 響の代わりに言葉を紡いだのは彩音だった。彼女はハーネイトのことが好きだからこそ、別の道を探していけばいいと提案する。彼女を始め、この場にいる人たち全員が、ハーネイトたちと別れるのは嫌だという思いを抱いていた。


 何処かずれたというか、独特の発想をしながらも多くの人を助け続け何か強烈に惹きつける雰囲気、優しさを持つ人間臭い彼を嫌う者は、この場には誰一人としていない。


「そうよ、焦ってもいいことはないわ先生」


「不安なら、俺が背中蹴ってでも押し出してやるよ先公」


「いつだって話してくれればいいじゃないか。少しは別の形でも、恩を返させてくれよハーネイト」


「自分がやりたいように、進めばいいんじゃないのか、ハーネイトさん。ここにいる皆は、貴方のやってきたことも、この先のことも支えてくれる存在だ。道を外れなければ、な」


 次々と送られる言葉に、ハーネイトはそのすべてを受け止めながら感謝する。ここまで自分を受け入れてくれる存在がいることに、彼はどう表現していいか分からず戸惑うも、これもうれしいという感覚であることを理解した。


「いい仲間に巡り合えたようだな、ハーネイトよ」


「はい……みんな、私の大切な存在です」


「だったら、最後まで藻掻き足掻いてみせろ、理不尽に抗い立ち向かうのだ。それが、望む未来に進み道につながるのだからな、諸君」


 ソロンは最後に、若き戦士であるハーネイト及び人間たちに激励の言葉を贈る。それは、彼にならこの遥か悠久の時を超えてなお起きている事件の解決ができる。


 いや、彼にしかできないというソロン自身の想いも込めての言葉であった。それは確かに、彼の心にしみ込んだのであった。


「わしからはこれで以上じゃ。一旦霊界に向かうが、もし同族が貴様の元を訪れるときはわしも加勢し説得しよう。そのくらいしか、今は返せるものはないがな」


「ありがとうございますソロン様、その時は、力をお貸しください」


「うむ。いつ何時も、礼節を怠らず、感謝をし仲間を大切にするんじゃぞ?その在り方が、全てを救うことになる。親のように、決してなるな。神御子の優しき兵器よ。ではまた会おう」


 そうしてソロンはすっと、その場から姿を消して霊界に向かう旅を始めたのであった。その顔はどこか、憑き物が取れたかのようにすっきりしていたという。


「行っちゃったか……これで、一先ず女神代行の仕事は果たしたな」


「お疲れ様ですハーネイト様」


「それは自分も、皆さんにかける言葉だ。今まで私たちについてきてくれてありがとうございます。新たな危機が迫っているこの状態ですが、魔界復興同盟がもたらした事件に関しては解決することができました。改めて、皆さんのご協力があったからこそです」


 ハーネイトはしばし遥か向こうを見てから、改めて響たちの方を向いて一礼したのち、今までついてきてくれたことについての感謝の意を述べる。本心から出たその言葉は、彼らの心を動かす。


「思えば、私たちが先生に会わなかったらここまでこれなかったわね」


「なあ彩音、俺の直観はよく当たるだろ?」


「もう、引きずり込まれて怪物に出会ったあの時は、正直生きた心地しなかったわ。先生、伯爵さん、私たちをもっと鍛え上げてください」


「勿論だとも。私からも、あらゆる脅威に対抗できる仲間と出会えたことに心から感謝している。様々な脅威に対して共に戦う仲間でいてほしい、それが私の願いだ」


 脅威は別にある。事件を起こした真の犯人。その目的に迫り悲劇を防ぐためには、若き彼らの力も含めた霊量士の力が必要不可欠である。


 だからこそ欠けることなく、今後も共に行動をしてほしいとハーネイトは今一度、強くそう要請したのであった。


「仕方ねえな、付き合ってやるぜ」


「勿論よ!」


「楽しくなってきたな全く」


「戦う場を提供してくれる貴様は、私の理想だな」


「これからも、精進し修行を怠ることなく、高みを目指すぜ。父さん、俺はやるよ」


 もちろん、全員はハーネイトの頼みを理解したうえで快諾したのであった。


 特にスカーファを始めとした戦闘狂にハーネイトたちのことをもっと知りたい彩音たち高校生に、渡野や音峰といった大学生や、ハーネイトをうまく使おうとする大和や韋車ら大人たちまで、彼の存在の大きさと今までの行動について感謝していた。


「さあ、僕たち長宝院家も今回のパーティーに色々出している。早く戻って、この前の祝宴の続きをしようじゃないか」


「楽しみね、フフフ」


「ああ、今は祝おう。それが一番だ。さあ、戻ろうか?」


 こうして、ハーネイトは異世界にて、初めての女神代行の仕事を完遂させることができたのであった。


 決して1人では、ここまではやれなかっただろう。彼は常に仕事を終わらせた後そう思い感謝し続けてきた。


 今回もそうである。優秀な人材に巡り合え、予想以上の活躍を見せてくれた地球人たちに最大級の感謝を述べたうえで、矢田神村解放時に開いた宴の続きをやろうと皆にそう言ったのであった。


 新たな脅威が秘かに蠢いている。しかし今は、全員の無事と活躍を祝うために夜遅くまで、特別にパーティー会場にした会議室でハーネイトたちは飲めや歌え夜の大騒ぎ。


 またもホテルのスタッフや料理長、宗次郎社長まで参加し夜遅くまで、楽しい楽しい宴は続いたのであった。こうして、彼らは結束をさらに深め新たな敵との戦いに全員で臨む姿勢を固めたのであった。



 その間にも、血徒の方ではある会議が行われていた。場所は異界空間内にある隠された拠点の1つであり、多くの血徒が集まり、それはさながら決起集会という感じであった。


「ヴィダールという存在により生み出され、力を奪われ幾星霜」


「あの星が、こちら側に近づくのを待っていた」


「ようやく、時が巡ってきた。邪魔は入れど、この計画を持って我ら血徒は造物神ソラを倒す」


「すでに計画は、最終段階だ」


 多種多様な微生界人が集う中、血徒17衆に属するハンターン、アフニン、ラッサムの3柱はそれぞれ演説するようにそう言い、災星が来訪する前に最後にやるべきことについて話をしていた。


「ヴィダールの1柱、ソロンの解放は失敗した。だがしかし、代わりに災星を呼ぶための鍵を我らは見つけた」


「それを確保し、計画を成就させるのだ!」


 会場のステージ中央に鎮座している血徒17衆のラッサムはそう言い放ち、何としてでも成功させるぞと意気込みつつ集まった微生界人たちの士気を高めていくのであった。


 そのカギとは、あのハーネイトのことであり、キャルサヌールから聞いた話を元に、計画に支障はないとラッサムは判断しそう訴えたのであった。


 血徒の活動が、再び活発化するのは既に時間の問題であり、物語はここから大きく動き出すのであった。



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