第195話 封印塔開放作戦始動！
そうして各自は必要な準備を済ませ、指定された日時の少し前に、響たち参加組はホテルの地下会議室に集合していた。
最終確認を済ませたハーネイトは、先日の矢田神村の時と同じく集まってくれた仲間たちに感謝し一礼したうえで、異界亀裂内に侵入するため全員をホテル屋上にあるポータルの前まで連れてきたのであった。
「では各自、封印塔のある場所までチームごとに移動し、侵入して内部にある結晶を破壊してください。解放されたソロンこと、ソロモティクスが敵対行動をとった場合は私が責任を持って止めますので、皆さんは塔の攻略をお願いします」
ハーネイトは全員に対し、Cデパイサーに塔のある場所を示してあると説明したうえで、不測の事態に備え自分たちはここで待機しすぐに駆け付けられるようにしていると言う。
「任せてくれよ兄貴」
「なんか思っていたのと違う感じだけど、やれることをやってくるよ先生」
「私は命じられたことをやるまでだ。行こう」
「早く終わらせて、また酒が飲みたいなハハハ」
「田村先生……まあ、俺も気持ちはわかるが」
集まった現霊士たちは皆、ここが正念場だと感じていた。
後のことはハーネイトたちが片づけるといった以上、今は指示通り塔を攻略して必要なアイテムの回収をしそれをもってくること。それがやるべきことだと再確認していた。
「では、皆さん。塔の攻略の方はお願いします」
「行ってくるよ、先生」
「行こう、塔の攻略に！」
こうして、響たちは事前に組んだパーティーに分かれそれぞれ異界亀裂内に入ると、目標地点まで移動し、各自そびえたつ石造りの塔の前に来ていたのであった。
道中妨害も特になく、今のところ問題は起きていないようである。
「これは……思った以上だな」
「結構でかいな。どこにあるんだか」
「まあ、入ってみないと分からないわね」
「ここからの探索はできないとみていいわ。壁全体が強固なバリアみたい」
最初にAの塔を攻略することになっている響たち4人はそれぞれ、眼前に構える空間の天井までしっかりと伸びている封印塔について感想を述べたうえで、やはり入るなら正攻法である、目の前の扉を開けて上に上るしかないと全員で共通の意見に至ったのであった。
かつて響はあるゲームにはまっていた時期があったが、それは天にそびえる塔を上りその真実と伝説を確かめるRPGであった。
そのようなことを実際に体験するなんて思ってもなかった彼は、誰よりもまじまじと塔を見ていたのであった。
「実際に入って確かめようぜ。元々そういう物だろ？こういう建物の攻略ってやつは」
「そうだな。では、先生の手はず通りチームに分かれ、作業を始めようか」
「そうね時枝君。皆、早く終わらせて先生たちと遊びに行こう！」
「分かったぜ彩音。これが一連の事件の、結末で終わりであってほしい」
Aチーム 響、彩音、翼、星奈
「さあ、塔の攻略スタートだ」
「早速妙な奴がうろついているな。で、この先に行くには鍵を探さねえといけないのか」
「私が探すわ」
「私も手伝うわ、彩音さん」
目の前に広がる広大な部屋の中には、様々な怪物が闊歩して行く手を阻んでいた。またその中にカギを持つ奴がいるという話をハーネイトから聞いていた4人は、カギを探す係と敵を倒す係に分かれ行動を開始した。
実は今回のような探索任務ことTミッションも、4人ではなく6人で行動して探索などを行えるのだが、教官である異世界人の半数が帰還し、残りもいざという事態のために待機している状態なので1つの塔につき4人しか派遣できなかった背景がある。
「見つけたわよ！あそこにあるわ！」
「って、敵が持ってんのかよ。まあそうだよなあ。じゃあぶっ潰すか！」
「しかし、もっと人手欲しくない？」
「それは分かるけどよ、今こうして戦えるのも俺たちだけだしな。仲間増やすしか方法ねえんじゃねえの？」
「それが出来れば、苦労はしないと思う。翼君」
サーチも得意な彩音と星奈は、互いの具現霊の力を共鳴させ広域探索を行い、その中に他と違う反応を感じた敵を見つけた。それについて響と翼に情報を教えると、一目散に2人はその敵に襲い掛かり、撃破してから鍵の入手に成功したのであった。
翼は星奈の言葉に対し、軽い感じで答えながら能力者がもっといれば、こう言った仕事も楽だという意見に関して共感していた。
「やることが大分分かってきたぜ」
「敵を倒して鍵を手に入れて、上の階を目指すわけだな翼。探索任務って、楽しいな」
「そうね、やることはまるでゲームみたい。よくあるロールプレイングゲームの様。でもAミッションほど頭を使わなくていいのは助かるわ」
「あれは私好きだけどね。皆の連携が試されるし、それぞれ役割がきちんとあってみんなすごいんだなって思うもん」
少しづつノリが分かってきた4人は、そのあとも勢いに任せて敵を倒しては上階に向かうための鍵を探していた。そんな中星奈は、こういうやり方の方が性に合っていると口にし、彩音もそれに共感はしつつもAミッションの良さを語る。
彼女は戦略を立てるゲームも好きなようで、昔から全体を見てどう動かせばいいかなどそう言った視点の見方に強い一面があった。
「彩音さんは不思議ですね。でも、その言葉は確かに同感です。私も、自分の価値が分からなくなる時がありました。だけど、こうしてみんなといることでそれを再認識できる」
「先生たちはそれを提供してくれたって感じというか、機会をくれたってあれか」
「そうだな。俺もさ、こうしてみんなと一緒にいられるのはすごく好きだ。……ありがとな、皆」
星奈はそれに対し今まで思っていた、皆といることの幸せについて口に出し、それに彩音も響も同じだという意見を述べた。
「水くせえこと言うなよな響。フラグ立てると碌なことねえって」
「……そうだな。さあ、やろうか！」
「言乃葉、まとめて蹴散らそう！」
「ロナウ、あれ行こうぜ！」
「弁天、私に力を！」
「ワダツミ、氷雪界お願い！」
こうして4人は、持てる力を出しまくり目の前に立ちはだかる敵の群れを一蹴し、ようやく回収すべき宝石のある部屋の1つ下の階までやってきたのであった。
思ったより時間はかかったが、それでも道中迫りくる敵の数々を適切に処理し、うまく行けたのは日頃の鍛錬と戦闘経験のおかげなのだろうと4人は思いつつ、次の階のドアを開けたのであった。
「順調だな」
「へへ、そうだな響」
「そうかしら、どうもこれが最後の門番じゃない？今までのと何か違うわ」
彼らの目の前にいたのは、巨大な蛇の魔獣であった。鋭い眼光が4人の姿を映し牙を剥きながら口を開けて威嚇し始めた。
「フシュ………！」
「気づかれたぞ、各自散開するんだ！」
大蛇はすかさず間合いを詰めると、尻尾を使い広範囲を薙ぎ払おうとする。それにいち早く気付き4人は間合いを取り回避しながら、遠距離から攻撃を仕掛け大蛇の動きを鈍らせた。
「これはマジでゲームの戦い見てえだな」
「今はのんきなこと言うな翼、連携で仕留める！」
「いいぜ響、ロナウ、力を合わせてくれ！」
「勿論だ、翼。行くぞ、新技、エクリプスリターンだ！」
翼は、ロナウと呼吸を合わせジャンプすると、白い光弾を蹴りだす。それは一度大蛇に直撃後、自身のもとに跳ね返るが、翼とロナウはさらに力を籠め再度蹴り放った。
すると今度は暗黒の光弾となりて大蛇に暗黒属性の大ダメージを与えた。もだえ苦しむ大蛇は周囲を手当たり次第に攻撃し吹き飛ばそうとする。
「すごいな、あれだけの玉を蹴り飛ばすのか。これに便乗して、行くぜ言乃葉！魔刃斬！！！」
「私もよ、音響破壊撃！」
「私が足を止めるわ。CPF・氷架水結、そして……氷柱雨！！！」
響と言之葉の放つ剣閃、彩音の音の攻撃に、極めつけは星奈とワダツミの連携による全てを凍らせる氷柱による一撃。大蛇はそれを全て防ぐ手立てを持っておらず、まともに攻撃を浴びたのであった。
「キュウ……グルルル……」
「な、なんか一瞬で倒しちゃったわね。本当にボス？」
「実は他にいるんだろ？」
「どうだかな。だが、4人の連携がこうも刺さるとはなあ。フッ、みんな強いぜ」
初めて力を手に入れた時は今は全く違う。4人はそれを更に実感し、すぐに上の階に繋がる扉を開放し階段を駆け上る。
「うーん、なんか拍子抜けしちゃったわ。そんなに強い敵いなかったし」
「でも、そっちの方がいいわ。下手に対処できない敵が出てきてもね」
「教官たちがいれば別だけどね。でも自分たちでも大型の敵性存在を倒せるようにならないと」
「そうだな彩音。じゃあ上に行こうぜ」
上階に上がった4人の目の前には、封印の解除に必要な巨大な宝石が鎮座されていた。その宝石から放たれる気運は、どこかAミッションで今まで浄化してきた気運そのものとさほど変わらず驚くも、今はPAを使用しているため影響は少ないと踏まえ、即座に回収作業に入ったのであった。
「だなあ。さあ、この目の前にある宝石みたいなのを回収すればいいんだな？」
「だとよ翼。さあ、先生を喜ばせてやろう」
「ドキドキするけれど、とりあえず運ばないと」
「なんか嫌な予感もするけどね。でも、私たちが協力し合えばどうってことないわ！」
こうして、A塔担当のチームは特に苦労することなく作戦目標を達成し、急いで封印塔を脱出するとハーネイトの指定した場所に向かうのであった。
