第187話 遂に目覚めたソロン
「こ、これは……みんな、あの石碑から遠くに離れるんだ!」
「やべえなこりゃ、言われなくてもそうするぜ、お前ら俺のレイオダスに乗れ!」
「何が起きるんだ全くよ!」
「一旦引け勝也!」
「ちっ、こんな時によっ!」
その異変に、居合わせた誰もがただ事ではないと思い、石碑から距離を取るため急いで走り出したのであった。
一足先に韋車が、具現霊レイオダスの力を借りてバイクモードに変形させると近くにいた田村や黒龍を乗せて急いで距離を取る。ユミロや伯爵も能力を生かして高校生たちを連れて出入り口付近まで移動させていく。
「まさか、あのソロンってのが?」
「全員下がるんだ!光に飲まれるなよ!」
「そうはさせるかよ!」
「よりによってこんな時にか!」
もし近くにいたら、おそらく吸収されるだろう。長年の経験からそう考えたハーネイトは紅蓮葬送を使い引き伸ばし、まるで巨人の腕かの如く離れた位置にいたスカーファや文治郎を掴むと引き寄せて、逃げ遅れた仲間をすべて回収する。
「助かったぞハーネイト」
「私の前に立つなよ!翻ろ、紅蓮葬送!」
念のためにハーネイトは、響や亜里沙らを自身の背後において、全員の盾になろうと構え、紅蓮葬送で大きな壁を形成する。
「我の眠りを、妨げるものには……!」
「お、おおお!ついに、ついに我らが悲願……ったあおおおおあああああああっ!」
「体が、光になっていきやがる……!」
「だ、誰か助けてくれ!!!!!」
血徒に汚染された復興同盟のトップ3は、床に突っ伏せて薄れゆく意識の中、その光景を見ながら声を上げていたが、自身の肉体がどんどん光と化して消えていくのを見てひどく取り乱していた。
「せめて霊騎士たちだけでも!CPF・離盾装光!!!」
「……!俺たちは何を……?」
「私もだ!光霊盾壁!!!」
ハーネイトとヴァストローは、石碑に吸われそうになった霊騎士たちを霊量超常現象による防御で守り、結果的に敵の幹部以外は謎の力により消滅させられることはなかったのであった。
「ふう、間一髪だった。もし吸われていたら、2度と戻ってくれなかっただろう」
「た、助かったぞハーネイト。しかし、もう手遅れかもしれん。ヴィダールの神柱が、永い眠りから解き放たれる」
「まだ、諦めるには速攻すぎますよヴァストロー。確かに、よくないイベントですがね」
部下を助けられたヴァストローはほっとしつつも、目の前に見える石碑から聞こえる不気味な波動に足がすくんでいた。
もうヴィダール神柱、ソロンの復活は止められない。そう思っていたがハーネイトには違う何かを感じられるようであり、おそらく問題はないと踏んで一歩足を踏み出した。その時、石碑に刻まれた文字が青白く光り、同時に声が部屋中に響き渡るのであった。
「そこにいる女神の波動持つものよ、聞こえるか、聞こえるか!我はソロン、ソロモティクスと呼ぶ。答えよ、ヴィダールの同胞!」
「貴方が、ヴィダール36柱の中の1柱、ソロモティクスですか」
「その通りだ。……1つ話を聞いてくれぬか、ソラの力を持つ者よ」
巨大な石碑から聞こえる声は、しっかりとハーネイトに対して話しかけていた。それに思わず彼も返答する。
とてつもなく威圧感のある、けれどどこかに親しみも抱けそうな不思議な声色はハーネイトの耳に語り掛け、思わず足を石碑の方へ進ませる。
「私が、ソラの気運を宿している者です」
「貴様か。漏れている神気が、あの忌々しいソラのと同じとは、どういう事じゃ」
すると、ぼんやりと幽霊のような、魔法使いが良く身に纏うケープの様なものを被った男が石碑の前に静かに出現した。それはハーネイトに名乗るように言い、それに答えると男は少しの間沈黙してからある言葉を言い放つ。
「……今のわしは幻影だ。完全な復活ではない。しかしこうして、ようやく貴様らに声をかけることができるようになった。私の眠りを妨げ、利用しようとした魔界の民。その報いはこうだ……!」
自身の姿をこうして幻影として出したのには訳があった。その中で彼は、自身を強引に目覚めさせようとした集団に対し怒りが収まらないと言い放つ。その結果が、先ほどの光に分解され吸収されていった敵幹部たちの末路である。
「すみません……質問してもよろしいでしょうか」
「ああ、なんだ」
「貴方は、自身の復活のために魔界に住む人たちをたぶらかし、霊界の住民まで利用し霊量子を集めた、わけでは決してないですよね?」
「疑いをかける気か、貴様は。真の黒幕など、既に分かっておるだろう。儂は、ずっと眠っていたかった」
ソロン、昔の名をソロモティクスと呼ばれていたこのヴィダールが36柱の1柱は、地神に属し世界の管理に携わっていた存在であった。
しかし女神ソラの恐るべき力と、暴虐の限りを尽くさんとするその行動、思考を恐れ、他の仲間と同様に世界の管理すら放棄し遥か遠く、別の次元に逃げたという。
その中で彼はソラに見つからないように、自分自身を封印し、息を潜めながら長い眠りについていたのであった。
「そうすれば、あの女神に封印などされずに済むと思っておった。アルフシエラ様、ソラリール様は娘であるソラに封印されてしまった。それを見て、封印を恐れた我らは散り散りとなって長く旅をし、その果てに様々な地で眠りについたのだ」
実の親を、自身の作り上げた禁断の神具に封印したソラ。それを見たヴィダール上級神こと36柱神は、自身らが封印されるのを恐れて自ら天神界を後にし逃げたのであった。
そう、誰も暴君と化したソラに立ち向かうことなく、ほとんどのヴィダールは宇宙を放浪する神的存在となっていた。
「もし、他の放浪している行方知れずのヴィダールが、貴様のことを感知すれば命を狙いに来るだろう。その身に宿した力を使えば、今度こそソラを倒せる」
「えぇ……本当ですかそれは」
「別の形で、予言が当たりそうね。紅き災星って、やはり……!」
ソロンは、ハーネイトの方を見ながらある懸念について話をする。それは他のヴィダール神柱がハーネイトの命をこの先狙ってくる事態は避けられないということであった。
それを聞いた星奈は、災星のことについて以前、病室でハーネイトに話したことを思い出しあの星にもしかして、その神柱というのがたくさんいるのではないかと考えたのであった。それはハーネイトやシャックスも同じものを感じており、ますます嫌な予感しかしないと表情が暗くなる。
「そこのお嬢さん、その星について話をしてほしいのだがね。まさかと思うが」
ソロンに説明を求められ星奈は、初めてそれを認識した時のことを話し、またそれがハーネイトやソロンの放つ気と同じ気が星からわずかに伝わって感じてきたということを説明する。
「ということで、その星が近づいてきているわけなんですが、どうもヴィダールの気が感じられるのです」
「何だと?くっ、自ら封印し存在を隠したのが仇になったかっ!この石碑から、今の我は離れることが出来ん。しかしだ、その星は間違いなく貴様らにとっては災いでしかないのだ。今度こそ、あれの息の根を止めるために、奴らは牙を向くだろう」
ソロンは、遠くでだがかつて同胞だった者の気を感じていた。幻霊状態でも、それは感知できる。それは、明らかに脅威となって襲い掛かる。それについて避けられぬ運命だとも説明する。
「質問したいのじゃが、まずソロモティクス様とやらは血徒という存在を知っておるかの?」
「っ!この気は、いや……しかし何処かであのソラの気を感じるが、弱いな」
「何を驚いておる、わしは血徒ルべオラと申す。今回そなたを甦らせ、その力を利用しようとしたのは血徒という大うつけ者じゃ。魔界人とやらは、駒に過ぎないのじゃ」
ソロンは、ハーネイトとは別に感じる、かすかなソラの気運を持つ者がそれなりに多くいることに驚く。それに対してルべオラは少し長く説明し、ソラが生み出した手先こと神造兵器に関する説明と、今回の騒動はその一部が深く絡んでいることについてソロンに話をした。
しかし、そのようなことになっていることはほとんど知らない様子であった。
「あれから相当な時間が流れたが、いつの間にソラはそのような手先を大量生産!しておったのだ」
「本当に知らなかったのですね。一応私もそのカテゴリーと言いますか、それに入ります。神造兵器、という物です」
「……道理でな。しかし、貴様らとこうして会えたのは、運が良いのかもしれぬ。ましてや、血徒という存在によるものでなく目覚めることができたのもな」
ソロンの幻霊は、ハーネイトや響たちに対しそう言葉を述べ、あることについて謝罪しなければならないことがあると言ったのであった。




