第182話 決戦は目前にあり
「全チーム作戦は成功したな?」
「はい、どのチームも目標達成しました。私たちはあの座標マーカーを設置できました。それと、フューゲルさんの部下たちを全員助け、敵の総拠点の情報も確保しています」
ハーネイトは改めて、4チームの報告を聞いてから全員無事に、任務を達成できたことに喜んでいた。これで確実に攻め込める。ならばこそ一つ大切なことがある。それについて全員に指示を出す。
「でかしたぞ。それがカギを握るのでね。さあ、一旦ホテルに帰って休息をとるんだ」
「今こそ攻め時では?」
亜里沙はCデパイサーで彼の話を聞いていて、今こそ間髪おかずに攻め込めば敵もがたがたではないかと指摘するも、ハーネイトは十分な仕事は十分な休息なしにはできないということを言い彼女を納得させる。
決戦だからこそ、一つのミスで誰かが亡くなるかもしれない。それだけは絶対にあってはならない。組織の長である彼には、強い信念があった。
「こちらも陽動で体力を消耗している。それに敵の戦力を大幅に削いだし、座標マーカーにはあるジャマーを積んである。気付くのに恐らく3日かかるほどにな。翌日の正午に、第二次作戦こと決戦を開始する。後で詳細を全員に伝える。それまでは十分休息を取り、作戦に備えてくれ」
ハーネイトは敵の情報網をかく乱するための装置を用意しており、その影響下にて一気に攻め込むといい、その後彼らはポータルを通じてホテルまで戻り、翌日に備えそこで解散すると各自準備を備えるため行動していたのであった。
「全く、フューゲルも早く話してくれればよかったものを。だが、全員救出できたのは大きい。更に情報も手に入れることができたし、負ける気がしない」
ハーネイトはレストランで食事をとった後、すぐに温泉に入り疲れを取る。響たちが出会ったフューゲルの部下たちの話を聞いた上で、スパイとして潜入して得たデータを絶対に活かして作戦を成功に導くと固く心の中で決意しながら、少しぬるめのお湯に体を浸らせて思念を巡らせていた。
そんな中、目の前に浮遊して現れた伯爵は彼の顔を見ていつも以上に自信満々だなと思い嬉しそうにしていた。
「えらく不敵だなハーネイト」
「ああ伯爵。みんなの想い、確かに受け取った。後は私たちでこの事件に終止符を打つんだ」
「了解、俺はお前の相棒だからな。まあ、これで事件が終わったとは思えねえ、始まりだな」
「うん……そうだよね。追っていた組織の情報が少しだけ手に入ったとはいえ、ここからが本番なようだと思う」
2人はそう言うと、温泉の大きなガラス窓から夜空の星を見ていたのであった。
一方響たち高校生たちの集団は、ホテルから出て駅の方に向かい、特徴的なペデストリアンデッキにエスカレーターで登ると、待ち合わせに使うベンチに全員腰かけた。時折ぬるい風が通り抜けると、あの時から時間がたったことを彼らは身を持って思い知らされる。
「いよいよだな」
「そうね響。私たちの大事なものを奪った存在を、倒しに行かないと」
「しかし、俺たちだけじゃなく異世界の存在まで操り事件を起こす存在か」
「裏の黒幕、それに迫り撃破しなければならないのです皆さん」
「亜里沙さんも、いつも以上に気迫がすごい。ああ、俺も他の人たちに、自身と同じ思いはこれ以上してほしくない」
「皆、そう思っているわよ時枝君」
彼らは思い思いに話をしながら、明日が勝負の時なのだと各自自身に言い聞かせていたのであった。不安は完全には拭えないけど、それでもやらなければ前に進めない。
この一連の恐ろしい事件の黒幕は、以前起きた世界の流れや仕組みを変えるほどの大事件とも繋がりがあることが分かった以上見て見ぬふりは絶対にできない案件であった。
「気に食わねえことばかりだがぉ、要はその血徒ってむかつく奴を倒せばいいんだろ?」
「みたいだな勝也。こんな展開になるなんて、思ってもなかったけどよ、俺はお前らと戦えて嬉しいぜ」
「……そうね。私もよ。だけど、これで事件が全て解決するわけじゃない。あの災星が、更なる試練を課してくると思う」
「そう、よね星奈ちゃん。私はさ、彼氏の仇を取るためにここにきた。そして心強い仲間がいて私はうれしいよ皆。早くあんなの倒して、皆を安心させたいな」
思いを各自全て口に出したうえで彼らは、こうしてみんなと出会えたこと、戦い方を教えてくれた先生たちへの感謝の念を込めながら、星がきらりと輝く曇りない夜空を見上げていた。
少しずつ、あの紅き流星はこちらに近づいているように見える。全員、どこかで怖いと思いながらも先生たちと共にいれば大丈夫だと信じ、全員で円陣を組んで手を重ね合う。
「さあ、明日の正午が決戦だ。俺たちの手で、事件を解決し先生たちと飲み交わそう!今まで助けてくれて、戦う力を教えてくれた人たちに礼を込めてな」
「言うじゃねえか響、ああ……!」
彼らはそうして覚悟を再度決めてから、全員で絶対に戻って祝おう。そう思いながらその場で解散し、明日に備えていたのであった。
その一方で、血徒に乗っ取られた魔界復興同盟の方々は総拠点にて会議を行っていた。
その中には命からがらハーネイトたちから逃げた悪魔もわずかながらおり、体を震わせながら脅威について語り合っていた。
「一体何なんだ、仲間がどんどんやられているではないか」
「敵の詳細がまだ分からんとはどういうことだ」
「こちらでも情報を手に入れようとしているが、どうも確証に欠けるものばかりだぞ」
「今のところ異界内の拠点には異変はないようだ。定時連絡も来ている」
巨大な机を囲んで、まだ無事というか血徒の影響を受けていない悪魔人たちはある人間たちにコテンパンにされた件について話をしていた。
本来あらゆる面で能力が勝るはずの自身らが、連携攻撃を受け拠点をいくつも奪われていることについて動揺を隠せずにいた。
その中で一番彼らにとって気がかりだったのは、その人間たちに肩入れする裏切り者がいるのではないかという話であった。実際現状、組織員全員の管理がおざなりになっており、状況が良くつかめていない点があった。
これもハーネイトの妨害工作によるものであったが、中には事実であるヴィダール絡みの話や嘘である裏切り者について憶測を生むような情報が、彼らの行動選択を確実に削いでいたのであった。またルべオラを初めとした血徒による嘘情報も加わり、場は混乱していた。
「……どういうことだ、しかも明らかにソロン様と同じような力を……くそっ、どうなっているのだ。たかが人間が、どういう方法で」
「裏でヴィダールの縁者が我らを邪魔しているという話も」
「あやつら、いい加減にせえよ!」
会議の様子を見ていた、ある女性悪魔幹部は話を纏めつつ、邪魔する存在についての情報収集を第一にやれと指示を出し会議は解散したのであった。
彼女は歯ぎしりをしながら、計画が進まないことについて苛立ちを隠せなかった。そう、彼女こそ第1級血徒であり、17衆で第3位のクリミリアス (クリミア・コンゴ出血熱)である。
長らくソロンを蘇らせるため暗躍してきた恐るべき力を持つ微生界人、つまりヴィダールのソラ・ヴィシャナティクスが作り出した第2世代神造兵器であった。
あの星が一番近づく前に、ソロンを復活させなければならない。彼女はそう思い動いていた。他の17衆も様々な場所に散らばり活動しているが、自身があの存在を真っ先に開放できれば優先権を行使し自身が最強の存在となり、微生界を我が物にできる。
ソロンを呼び覚まし、それを使い紅き流星を手繰り寄せる。そうすれば流星の中に潜む者の力を削り封印されし兵器の鍵を作ることができる。
それが彼女の狙いであったが、実は彼女も含む血徒17衆はある強大な存在により精神支配を受けているようなものであった。
その存在も現在本来の力を失ってはいるが、それを取り戻せば圧倒的な力で万象一切を支配するほどの実力を持つという。
部屋を後にしたクリミリアスは、得体のしれない敵対勢力の恐怖に震えながらも、長年の悲願を叶えるためには引くことはもうできないと腹をくくりながら、ある部屋に向かうため歩き出したのであった。
それは果たして、彼女自身の意思なのか、それとも何者かによる操作なのか。未だ分からないのであった。




