第179話 B防衛拠点攻略・後編
「なんて気迫だ、まるで赤鬼みたいだぞ」
「こ、怖いわね……だけど、ピクシア、行こう!」
自身らより2倍近い体躯をもつ、剣を引きずりながらゆっくり迫る鬼のような悪魔を見た音峰と渡野は、それぞれ身震いするほどの恐怖を抱きながらも、目的を達成するために勇気を振り絞って立ち向かう。
「渡野を援護するぞ!拘束しなければ薬剤を打ち込めない!」
「でも、結界石壊さないと技の効果が薄い感じがするな」
「じゃあ文香と星奈で石を、スカーファさんは俺と同時攻撃、文治郎さんは空から奇襲を!」
「分かったわ、星奈ちゃん、石壊しに行こう!」
音峰が周囲を見てそう分析し指示を出すが、文香は結界石の効果がまだ強いことを指摘する。それを聞いた他のメンバーは連携を取り、2手に分かれて作戦を再開する。
「アンプルはもらっている、後は動きを止めればッてきゃああ!」
「大丈夫か渡野!CPF・鏡通交光!」
勢いよく突撃したはいいものの、渡野は近づきすぎ正気を失った悪魔の一撃を浴びそうになるが音峰が気を利かし、特定の対象の位置を入れ替えるCPFを使用し、渡野を助けることができた。
「え、助かったの?あ、ありがとう」
「無茶するな、一気に連携で相手を崩せ。CPFの全弾掃射後に具現霊で拘束、アンプルを撃つんだ!」
音峰は大声でスカーファ達に指示を出し、一気に攻め立てないと止められないと伝えるないなや具現霊ベイオウルフを呼び出し、攻撃を溜め始めた。
「いっくわよ!CPF3詠装填・水蓮華宴・止氷幻鏡・運命時計!」
「俺も援護する!ベイオウルフ、あれ行くぜ!エアストームブロウ!」
「五月雨手裏剣じゃ!」
「チャージ完了!お願い、当たって!」
「そうはさせない、ライボルト!!!」
「雷が……、今よ!」
エレクトリールの特別支援攻撃により空から再度落雷が発生、それが悪魔に直撃し感電させる。その隙を最大限に生かし、渡野は懐に飛び込むと注射器を悪魔の腕に刺し、血清を流し込んだ。
「ギグ、ググググッグッ!」
「拘束したぞ、いまだ!」
「これで治ってよ!」
「……イグルアアアア!」
血清が体を周り悶絶する悪魔。少しして落ち着くと、地面に膝をつき正気に戻った顔をしていたのであった。
「はあ、はあ、俺は何を……うっ!」
「ここの管理者も無力化で来たね」
「ちょうどこちらも石全部壊したわよ」
「任務成功、ですね」
ようやく任務を完遂した渡野たちは息を大きく吐いて安堵する。一歩間違えれば危ない局面だった。そう思うと体の震えが止まらない。彼女たちはそれを実感しながらも悪魔の方をずっと見ていたのであった。
「なぜ俺はここに……それに、貴様らは」
「魔轟四天王、ザキナハルっていうのに頼まれてあなたを治療しに来たのよ」
「……治療だと?俺は、病にかかっていたというのか」
「はい、放置すればあなた方の雇い主と同じように錯乱し、二度と元に戻れず死を待つだけの恐ろしい病です」
自身の現状について動揺する悪魔に対し、勇気を振り絞って渡野は事情を説明した。それを聞いた彼は深々と感謝したのであった。
「……なん、だと?それに、なんだ……ガルボロス!なに?魔界は既に元に戻っている、だと?」
「何しているんですかね、テレパシー?」
悪魔はぶつぶつとしゃべったのち、自身がどういう状態に置かれていたのかを再認識できたようで、表情を改めて渡野たちに深々と一礼してから感謝の意を述べた。
「事情が分かった。となれば、四天王で最強にして、我が兄エンベルスの容態が一番まずいってことだな。魔界に帰る前に、お前らを援護する」
「ええ……どういう風の吹きまわし?」
自身の同僚が全員感染し、それを治す薬を目の前にいる自身らにとって異界の住民が持っていること、魔界が既に環境改善されていることを理解したうえで、まだ治療をすべき存在がいることを説明しつつ自身も手伝えることがあれば手伝うと彼らに進言したのであった。
もちろん渡野たちは驚くが、それは彼らが人間臭く義理堅い一面を持っていたからであった。
「異界の者でありながら、助けてくれた礼だ。全ての魔界に住む者たちが、戦争を望んでいるわけではない。だが1000年前に起きた天災が魔界を不毛の地に変えてしまったのだ。擁護できるものではないのはわかっておる、だが過酷な暮らしから抜け出したい者が多いのだ」
「それで、どう助けるのだ一体」
「俺がエンベルスの動きを止める、その間に俺に撃った薬を彼に打ち込んでくれ。予備はあるのだろう?」
悪魔は改めて、次の場所にいる同胞を助けるために共闘を持ち掛けた。文香たちは悩むも、今は作戦を成功に導くのが先決であり、それには人でも戦力がいることから了承したうえで最後に控えたAチームへの連絡を行おうとする。
「だったらAチームに連絡しないと。私たちは一旦帰還しないといけないのよ」
「む、では代わりに事情を話して伝えてくれ」
「しょうがないですねえ。……まったく。ですがハーネイトさんならばこう考えるはず。何が何でも利用して、勝つか。では伝えておきます」
「ありがたい。それとこれを渡そう」
「これは、手形の様ななにか」
「奥にあるエリアのカギだ。それを使えば、直接我が雇い主たちのいる場所まで移動できる。止めに来たのだろう?それは俺らも同じだ」
悪魔は懐からある鍵の様なものを渡す。これを使えば、次のエリアで敵の本拠地に入るための扉を開けることができるという。
「どういうことだ?悪魔よ」
「魔界に存在する別勢力のスパイなのだよ。魔界復興同盟が、魔界で起きている異界化と関係があるのではないかとフューゲル様に頼まれ、我らが率先して潜入捜査をしておったのだ」
「てことは、間接的にあなた方は仲間になるのね。以前そのフューゲルという悪魔さんに会ったけれど、少なくとも悪い存在には見えなかったわ」
自身はある組織の密偵で、魔界で起きていた異変を調べるために潜入していたが、その表向きの雇い主である魔界同盟トップ3から感染し病に冒されていたという。
その本来の主を聞いた文香たちは、師であるハーネイトがつい最近会った仲間の名であることを理解し、そうなれば自身らの味方でもあると判断する。
「知っているならば早い。早くエンベルス様をお助けせねば。彼は要塞内部の資料の管理を任されている」
「どうしたんだBチーム、まだ帰って……ってわああ!」
「響たちか、すまん。取り込んでいてな」
「我が名はヴィシャル、魔轟四天王の1人だ。情報を提供する代わりに、我の兄を助けて頂きたい。フューゲル様から仕事を手伝うようにと指示を承った」
ヴィシャルという名前をようやく明かしたうえで、奥にいる兄エンベルスはなんと敵本拠地内部の設計図を持っていると説明し、助ければそれを手に入れられるから手伝ってほしいと、Bチームの異変に気付き駆け付けた響たちAチームに声をかけたのであった。
「エレクトリールさんから連絡があったわ」
「はい、この魔轟四天王らはフューゲルさんの部下として、同盟に潜入して事件の調査をしていたとのことです」
「あら、こんな所でまた出会うなんてね」
「むぅ、お主はルべオラの仲間、エヴィラだな」
エヴィラはBチームのメンバーと話をし事情を改めて聞いてから、以前魔界で出会ったヴィシャルの顔を見て声をかける。それに彼も答え話をする。
「そうよ、あんたのお兄さん助ける代わりにこちらの仕事を手伝いなさい」
「ああ、勿論だ」
「さあ、裏切者には制裁を!響たち、手を抜かないで頂戴ね」
「勿論だ。とにかく急ごう皆。大切なことは事件をこれ以上増やさないことだ。別世界の住民をも手玉に取る脅威は、こちらにとっても脅威だ!」
「行きましょう、ハーネイト様たちもそろそろ事を終えるかと」
こうしてBチームは最後の仕事に向かうAチームを見送ってから、予定通り一旦ホテル・ザ・ハルバナに帰還したのであった。




