第170話 新技術・PA(プロテクシオン・アルミュール)
「先生!」
「少しだけ時間を頂けませんか?ハーネイト様」
「気になることがあってよ兄貴、話を聞いてくれねえか?」
3人ともいつになく真剣な面持ちでハーネイトに話しかける。それにただ事ではないなと思った彼は、キーボードを打つ手を止めてから彼女たちの方を向いて静かに対応する。
「どうしたのだ、3人とも。血相を変えて」
「先生が開発した、プロテクシオン・マージナイザーのことについて話がしたいなって」
「あれか、何かいいこと思いついたのか?」
「装備をデータにして、それを基に能力を向上できるのが今のPMですけど、その逆ってできます?」
彩音たちは、以前開発した拾った装備のデータだけを抜き出し、強化に充てることができるPM、プロテクシオン・マージナイザーの応用で、逆のことはできないのかと尋ねてきたのであった。
「電脳化したデータを、また実体化か、ああ……現に私の魔本変身がそれに該当するな。戦形変化も同様だが、あれはなぜあの形に変化するのか理由が自分でも……ふむ」
「では、確立できる理論はあるのですね?」
「確かにある……のだが、それには創金術の力が。いや、待て待て。別に見た目だけの再現ならそこまで使わなくてもいけそうか。霊量子だけで……外側の見た目だけを再現するなら」
彩音たちの提案するそれは確かに、自身の能力では再現できる。様々な人や機械のデータを、自身の武装や分身として実体化するそれはよく行っている。
だが、それは創金術があってこその技術であり、その力の資格を持たない彼女たちにどうやってそれを再現させればいいのか悩んでいた。
しかし、見た目だけ表現するなら別に創金術で一々霊量子から元素を構築し物質を作らなくても、エネルギー装甲バリアの要領で霊量子を展開し、それっぽく装備に見立ててみれば難しくはない。
試しに計算して比較してみると、30%も霊量子の消費も少ない。現在対血徒用に開発しているバリアは防御性能を重視しているため、球体上のバリアを形成して身を守る形にしているが、どうしても霊量子消費が激しいのが欠点でありそれに苦慮していた。
しかし、身に纏う霊量子の膜を薄くし、その代わり副次機能をつければ何かいけそうだとハーネイトは考えた。
「そうだよ兄貴、俺たちさ、それを使って霊量子の服を着てみたいんだよ」
「血徒の感染能力にも限界があるんじゃないかって、話を聞いて思ったの」
「霊量子に、何か秘密があるのではないかと私たちはそう思いまして」
「私もそれを思っていた。何せ私は生まれつき血徒の影響は受けない体質だが、それが分かったのも霊量子のおかげ……そうだな」
3人の話を更に聞いた上でハーネイトは、今考えたそれでも防御条件は満たせるはずだと踏んで、すぐにPCに何かを打ち込んでいく。
「……ああ、そうだ。あの時も思い出すと、霊量創甲を纏った部分は何もなかった。そうだな、そういうことか。別に強大なオーラのように霊量子バリアを展開する必要はない。ならば、表面保護を意識して……ふむ」
「お、先生閃きました?」
「あぁ、任意の装備を霊量子による疑似創金術で召喚し、それを纏えばそれだけで血徒に対する堅牢な鎧になる……かもしれん。しかも霊量子で作ったものなら軽さも桁違いだ」
「まるで、血徒の使う血衣みたいねえハーネイト。あれは血と霊量子、自身の眷属を混ぜて服を作っているけど」
「な、そんなものがあるのかエヴィラ」
「ええ。私の今着ているのもそんなものよ。だから、その霊量子で防御礼装というか衣を作ることは可能なはず」
「それはいいな。もっと話を聞かせてくれ」
ハーネイトは今までの戦いを思い出しながら、霊量子で纏った部分は異常に強化され、強固な膜として保護している状態になる。それを他の技術と融合させれば、簡易にして高い性能を誇るだろう。
また話を聞いていたエヴィラは、血徒の技術に類似したものがあると言いその上で、霊量子でそう言う装備を作るのは事実上問題なく、出力と編み込んだ霊量子次第で堅牢な防御装備ができるかもとアドバイスする。
しかも着せ替え自在で変装や隠ぺいなどにも応用がいくらでも利く何かが作れる。そう確信したハーネイトは終始嬉しそうに、必要なプログラムを手早く構築していた。
「これをこうして、データを魔本変身の様に術者の表面に展開し……なんと、これなら君たちの扱える霊量子の量で制御できそうだ。あとは、そうだ。エヴィラ、そこにある試薬を取ってほしい」
ハーネイトはあっという間に制御に必要なプログラムの構築に成功し、すぐさまそれを再現して見せた。ここまではすぐにできる。
だが、いくらできても防御が出来なければ意味がない。そこで近くにいた、血清をやっと作り終えたエヴィラに声をかける。
「しょうがないわねほら。で、うまくいきそう?」
「あとは、できた装甲にこれをかけて貫通しなければ……フ、フフフ。やはりそうだ。実験は成功だぞ」
エヴィラから薬をもらい、ハーネイトは霊量子でできた、かつて時枝たちが回収した鎧にそれを数滴たらした。するとそれははじかれ少しずつ分解していくのであった。それを見た彼は、実験は成功したと喜び笑っていたのだが、最後の分解していくところについては妙だなと言わんばかりの表情を見せていた。
「やりましたねハーネイト様」
「試してみてえんだけどな、いいか兄貴?」
「ほら、今プログラムを送っておいたからそのアイコンを選択して見てくれ。身に着けたい装備を選んで……」
ハーネイトはそれを使ってみたい九龍に対し、データを送り使えるようにしてから試しに使わせてみた。問題は、それを押した後に起きた出来事であった。そう、成功はしたのだが、予想外というか、予定外のことが起きていた。
「んん……?なんで創金術が発動している?やはりさっきの挙動は、霊量分解によるものか。まさか、私の作ったCデパイサーって、神具扱いになるのか?」
九龍が身に着けた、霊量子防御バリアにもなる美しいドレス。実体化に成功していたが、それに触れたハーネイトは、ある異変に気付く。
それは、生地に触れたときに明らかに、金属布のような感触が指先に残ったからであった。もしすべて霊量子でできたなら質感はないはずであり、また先ほどの試薬の分解という面についても自身の能力が彼女たちにも少しだけ連動しているのではないかと考える。
「これって、先生の使うあの技?」
「そ、そうだな。しかしどういうことだ。あれは特殊な因子を持つ人にしか使えないし、負担も大きいのに。ん、あぁ……このCデパイサーは実質私の一部のような物だ。創金術もCデパイサーをフルに使える術者ならある程度まで行使できる、のかもな」
ハーネイトの怪訝な顔に、3人は大丈夫なのかと確かめるが、すぐに彼の顔は元に戻りため息をつきつつも、結果はうまくいっており、使用者の負担もほとんどないものが出来上がった。これなら血徒汚染にも十分対抗できると彼は確信していた。
「ということは、完全なあれではないのか?兄貴」
「完全に、私が良く使う術が君たちの展開している防御力場にも利用されている。だから防御効果自体は十二分にある。というか凄すぎる何かができた」
「じゃあ、成功なのかな先生」
「あとは実際に試してみないと分からないが、これは……」
九龍は大丈夫なのかと尋ね、問題はないと返すハーネイト。彩音と亜里沙は、彼の様子がおかしいのに気づき気遣うも、それは杞憂であった。
「様々な攻撃を受け止め分解しつつ、……自由自在に、服を着せ替え出来る、か。まさか……それ目的で話をけしかけてきたわけではないよな3人とも」
「え、あ、いやあ、そんなこと」
「そ、そうだぜ兄貴。俺たちは思っていたことを」
「話してみただけですがハーネイト様?」
そもそもなぜそのような話を持ち掛けてきたか、それは恐らくミッション中に拾った装備の中に、現代でも十分に美しい装備が少なくなく、それを自由に着飾ってみたいという年頃の女の子の想いがあったのだろうとハーネイトは考え、それについてはほぼ完ぺきに当たっていた。
しかし一つ違うことは、彼女らは血徒への対策としてそれはそこまで考えていなかったということであった。
「……そういうことにしといてあげるよ、全く。だが、難しく考えすぎるとうまくいかないこともあるな。勉強になったぞ、ありがとう3人とも。すぐに全員に使えるように調整してみよう。任せたまえ」
自分は難しく考えすぎるときがある。こういう時こそ柔軟にいかなければと自省し、彩音たちに感謝の意を述べながら、さらに研究に没頭していた。
「悪いけど、私休憩するから」
「ありがとうエヴィラ。色々助かるよ」
「全く、体を壊さないでね」
「そろそろ私たちも帰りましょうか。明日が楽しみね」
そうして、エヴィラと彩音たちは研究室から出ると、それぞれ目的の場所に向かうためエレベーターに乗り込んだのであった。




