第167話 血徒の性質と伯爵の部下
「血徒というのは、吸血鬼か何かなのかという話だ」
「あぁ……それよりもっとたちが悪いと言いますか、とにかく感染るんです」
「んだんだ?そういう話は俺様からしてやった方が早いぜ」
「むぅ……わかったよ。てか神出鬼没に表れるのはほどほどにしてよもう」
ハーネイトが顔色悪そうに、血徒について説明しようとした矢先、彼の背後にすっと伯爵が現れた。それに少し驚きつつ注意した彼だったが、伯爵の手土産を見るな否やそれ以上言わず、説明を任せたのであった。
「わりぃわりぃ。んで、血徒ってのは血に関する病気、あるいは血液感染などを起こす微生界人、いわば微生物のことだ。俺も微生界人なんだけどな、俺はあいつらに恨みのある奴と思えよ?んで、取り憑かれた生物は耐えきれず周囲に血をまき散らしながら汚染し死に至るか、ゾンビになって周囲を襲うか、はたまた適合して見た目は変わらないが眷属と化した生物、つまり子になるか……」
伯爵はそうして説明を一通り行い、いかに質の悪い存在かを強く協調していた。実際にそれはそうであり、放置しておけばすぐに血徒にその地は支配されてしまうほどである。
血徒は自身の血及び犠牲者の血と合わせ、呪血領域なる血海を形成する。これが一番の厄介な点であるとも伯爵は説明する。
「おいおい、そんな恐ろしい奴がいるのか」
「なあ、今まで報告されてきた吸血鬼に関する事件って、そういうのと関係があるのか伯爵?」
「分からんなあ。だがゼロではないかもしれねえ。最も、昔は栄養状態があれだったから栄養補給のために血を求める奴もいたかもしれんし……だが、出血熱の発生など、感染症の動きとは大いに関係あるぜ。微生界人だからな、血徒は」
韋車たちの質問に対し、伯爵でも昔のそう言った吸血鬼にまつわる伝承については、血徒との相関関係についてはそこまで優位とは言えないと述べつつ、それならば感染症の歴史の方を見た方が100倍速いと説明する。
特にU=ONEと化し病原性が消えたぺスティス、もといペストなどについては中世ヨーロッパでの惨劇を知っていればどれだけ広がりを見せたかが分かる。
「死んで周囲を汚染するスプレッダーに、ゾンビ吸血鬼になる血屍人、そして血鬼人……そんな危険なものが近くにいるのハーネイト君?」
「可能性は、大だろうね。どこまで汚染が広がっているか、今のうちに調査に行こうと思う」
伯爵とハーネイトの話を聞いて、頭で整理した渡野は声を少し震わせながら、そんな恐ろしい存在が敵として立ちはだかるのかと質問し、それは本当だと言いながら実態調査を自身はすぐに行おうと考えていることを述べた。
「俺たちがついて行っちゃああれか?」
「大和さんが別地域で聞き込みとかして今ここにいない以上、韋車さんに足の方はお願いしたいのだけど……」
現在大和は四国の方に向かいある事件の取材をしているという。そのため宗次郎の依頼をこなすためには、地理的に詳しい韋車の力が必要であり、どうしても彼だけは連れて行かないといけなかった。
「Cデパイサーに霊量装甲の機能を追加しておいたけど、今の状態でみんなを連れて行くのはな」
「しかしハーネイト。俺やスカーファは悪魔のような奴と接触している。症状は出ていないが」
「霊量士は元々血徒に対し耐性が高い。100%ではないけれどね。細胞に取り付かれなければ感染が成立しないので、身を霊量子で守るのが最適解なんです。ただ、霊量子の操る量が少ないと、かなり危険です」
「よ、エヴィラを連れて行けばいいじゃねえか相棒」
全員を同行させるか話をしていると、いつの間にか神出鬼没で現れた伯爵は、エヴィラを連れて行けばいいとアドバイスする。
「伯爵……それじゃ人手が」
「おいおい。俺にはこいつらがいるんだぜ。ほらよ」
「全く、僕こういうの苦手……はあ。また会ったね君たち。どんどん成長して、実っていく、フフフ」
「王の命ならばこのウェルシュ、いつでも馳せ参じます」
「若も何を考えておるか。だが、野放しにはできぬ話だ。細菌界をやった輩ではあるからな。我が滅殺してくれるわ」
伯爵はその場で指を鳴らす。すると彼の背後に、緑を基調とした服を着た少年ことカラプラーヴォルス、水色と白の貴族風なきちっとした衣装をまとった剣士、ウェルシュ中将、最後に厳つい紺色の鎧とスーツを纏った大男が現れた。
この大男はボツリナウスと呼び、あのボツリヌス菌の微生界人であり、3人とも数少ない伯爵に忠誠を誓う恐るべき腹心である。
「あぁ……そういや仲間呼べるんだよね」
「他にも呼べるし、正直俺エヴィラ苦手なんちゃ。だからそちらに任せるぜ」
「もう……仕方ないな。だがエヴィラがいれば、血徒本体が出ても対応はできるはず。彼女の力は破格だからね」
伯爵は背後に呼んだ忠臣たちを振り返りながら見た後、ハーネイトに任せとけと言わんばかりのジェスチャーでアピールする。
「あまりあてにされるのも困るわよ2人とも。向こうの戦力がどれほどか、私ですら分からないのに」
そう声が聞こえるな否や、すっと姿を現すエヴィラは、全ての話を聞いており呆れた表情を見せていた。
「いつの間に来ていたんだ?」
「さっきからずっとよ。……まあ、私も気になるし手伝うは手伝うけれど」
「助かるよエヴィラ。山の中の探索だから、それ向けの装備が必要となる。狂暴化した原因が血徒でないならまだましなんだが」
「そうね、それならこちらもだらけることができるけど。折角久しぶりにこうお出かけするなら、どこかで遊びたいわね。デートしたいわ」
ハーネイトはそう言いながら、渡された地図をもとにどう調査を進めていくか算段を考える。それをエヴィラは覗き込みながら声をかける。
「それと、分かっていると思うけど対象が血徒かどうかは私が調べればその場で分かるわ。検体を持ち帰る必要もないし」
「そういうところは助かるが……血徒の中には元仲間もいたのだろう?」
「はん?仲間だって?裏切り者に、私は容赦しないわ」
「おっかねえ女だな」
「私はハーネイトとその仲間たちがいればいいわ。こっちの方が賑やかで楽しくて好きなんだから」
元血徒の王であるエヴィラなら、色々調査もやりやすい。ここは自分たちだけで現地に向かおう、そうハーネイトは結論を出したのであった。
エヴィラは自身と一部の仲間から離反し襲い掛かった、現在血徒として活動している17衆及び妹・スーザンノーツェを許さないと言い、殺意を滾らせる。
その上で、今自分はU=ONE化を命がけで施してくれたハーネイトを愛していることと、その仲間も大切にしたいという気持ちを口に出したのであった。
かつての同胞など切り捨て、自分は望んだ姿にしてくれた彼のために自身の力を使う、そう決意と覚悟を決めたのであった。
「……ここは油断せずに慎重に。もう一度確認のために言いますが、不測の事態に備えるために韋車さんとエヴィラは私についてきてほしい。それ以外の人たちは申し訳ないが次の呼び出しがかかるまで自由にしていてほしい。1つ言っておくが、魔界復興同盟との決戦は近い。後悔しないようそれに備えた準備をお願いします」
ハーネイトはすごく申し訳なさそうに、しかし毅然とした態度も見せ渡野たちに対しそう指示を出した。
まだ完全に対策を施せない以上、リスクを上げてまで連れていく理由が見当たらないうえに彼らには今のうちに基礎技術を更に高めてほしいという思惑もあった。




