第156話 血徒(ブラディエイター)の恐怖
「とにかくだ、マルシアス。お前はもうその上の3人に近寄るんやない。万が一と言うことがある」
「伯爵と言ったなそなたは。血徒とは何なのだ一体。魔界で起きている奇妙な病も、それが原因なのだろ?」
「ああ、それで間違いない!」
「しかも、大分汚染が進んでおる。奴らは見境が無くなっているのう」
「また来たな!Cデパイサーで連絡できるだろルべオラ」
伯爵はマルシアスに対し静かで重い口調でそう指示する。マルシアスは結局今起きている異変が血徒という存在によるものだとは分かったが、そもそもそれは何なのだと説明を求める。すると、彼らの目の前にまたもルべオラが現れたのであった。
「こ奴は、一体何者なのだ。いきなり現れたぞ」
「これはこれは、幹部の者じゃな?わしはルべオラ。血徒に入っておったが騙されたことに気付いての、奴らをマサクゥルしたい者じゃ」
「どういう存在なのだ全く。まるで分らん」
ルべオラは挨拶し、マルシアスに対し血徒について話をする。
魔界にて感染者が増えていることと同盟15位のザジバルナの件を伝え、急いで合同で対策本部を作るのだと彼女は諭す。更に、響たちの話していた内容にも言及する。
「先ほどの響と彩音の会話を聞いたのじゃが、その線で間違いないと見ていいのう。エヴィラが血徒17衆の1人と交戦し、情報を得てきたのじゃが、そやつが魔界を滅茶苦茶にしようとしている奴で間違いない。しかも、かなり前から魔界人の一部を操って、その魔界人たちが得意とする洗脳であの死霊騎士とやらを操っているとな」
現在ハーネイトの仲間で元血徒の女王エヴィラは、裏切者を倒すべく血徒17衆の一人と交戦して、追跡中であるとルべオラは説明し、彼女から送られた情報についても話をしたのであった。
響の思っていたことは、本当であったのだ。
「そうなのかルべオラ。よく調べてきてくれた」
「こちらも色々事情があるからの。それと同盟に接触した血徒を見つけたのはエヴィラじゃ」
「分かった、今度会ったら彼女の願いでも聞いてあげようかな」
「マルシアス、もし様子がおかしい奴がいたり、体から血を流したり先ほど見せた紋章が出ているやつがいたら即刻隔離しやがれ。魔界が瞬で滅ぶ」
伯爵は落ち着いてから再度確認し、ルべオラと共に伯爵はマルシアスに対しあるアドバイスというか仕事の依頼を行った。
もし見逃して範囲が拡大すれば、世界が丸々1個滅ぶ可能性もある。血徒はそう言うものだと説明した。
それと、自身やハーネイト、ルべオラも含め、この場にいる者の3分の1がヴィダールの手先こと神造兵器であること、血徒もそれに属する者であると説明する。
「世界を創造せし種族、ヴィダールの手先とは驚いた。つまりソロン様とも関わりがあるのだな」
「一応はですね。ただ血徒は、その手先である神造兵器第2世代、微生界人の中の異端組織という立ち位置です。血で地を支配し多くの命を喰らいつくす恐ろしい敵です。中でも隠密性と感染性、残虐性は屈指の者です」
「……その話、肝に銘じておこう。……ありがとう。あのお方らの様子が日に日におかしくなっているのは見ていたが、どうしようもできなかった」
マルシアスは、魔界において位による格差について話をしながら、同盟の長やその側近があるときから直接顔を見せなくなり、けれど自身らは命令に背くことができず命令のままに活動していたことを話す。
もし背けば、命を奪われる。現に数名危険を察知し離脱しようとしたが全員遺体で発見されていた。それを見てしまったマルシアスらは反撃の牙を抜かれてしまったようなものであった。
しかし上司らの異変が、別世界の住民、というよりは目覚めさせようとしていた存在の手先によるものだと分かった以上、ここにいてはいけない。そう彼は思い話を続けた。
「……事情はどうあれ、我らは他の世界を、貴様らの世界を傷つけた。誤っても許してはもらえないだろう、せめてこれ以上被害を防ぐために、我は魔界に戻り他の組織と共同で、血徒について調査する。それともう、どこにも行かなくていいんだと、残りの無事な仲間に伝えよう」
「おかげで、異変の正体をこちらでも正確に理解できた。私も礼を言おう。至急その血徒について調査規模を拡大せねばならない」
「最後にだが、幹部の殆どは今自由勝手に動いておる。もはや操られているようにしか見えんが、その血徒というのがうつる存在ならば、気を付けて接触してくれ」
「では行こうかの。ハーネイト、血徒があらゆるところで再び活発的に動く日はそう遠くない。星が消えるほどに、彼奴らは影で騒めき血を広げるのじゃ。今以上に、天を描く星々に気を配るのじゃよ」
そういい、マルシアスは元来た道を歩き、部下を連れて魔界に戻ったのであった。ハーネイトはそれを見送り、違う形でなら友として出会えたかと思っていた。
それに続いてルべオラも新たに伝えたかったことを述べてからハーネイトたちの元を去ったのであった。
「結局、魔界に住む住民たちも別の世界の住民、というか血徒と言うのに操られている、ということで証拠が固まったんだな先生」
「そうだね時枝」
「全く、奇怪にして悲しい事件ね。誰も幸せになれないじゃない」
時枝は話を脳内でまとめ上げ、それをハーネイトに確認する。これで、一連の事件全てについて整理がつく。
辺境の村で起きた幾つもの怪事件、行方不明事件、異界化浸蝕現象による事件、死霊騎士及び魂食獣がもたらした事件、更に魔界復興同盟の者が起こした事件、最後に血徒が魔界人を利用し活動している件。全てが複雑に繋がっていたことが証明できるのであった。
「私はもう一度フューゲルに連絡をする。確定した調査結果と、魔界復興同盟の件について話をしないとな」
「先生、その血徒と言う存在について、時間のある時でいいので教えてください。でないと、私たち納得できません。どうであれ、魔界同盟の人たちが私の家族の命や響のお父さんを殺した犯人、ですから」
「勿論だ。……だが、仇討ちが、その血徒に対象が変わる、だけかもしれない。君と響が話したように、血徒はソロンの復活も、Pという存在の復活も目指しているのが分かっている以上戦いは避けられない。奴らの行動は、無慈悲に命を奪う死そのものであり、病の概念でもある」
ハーネイトは魔界に連絡してみようと考えつつ、響たちの顔を見て話しかけた。彩音はそういい、まだわだかまりは消えないし、魔界の住民を許せないと強く訴える。
確かに一番ひどいのは血徒だ。先生がBW事件の犯人の正体ではないかと言うのも、敵の特性や能力からよく分かる。だけど今こみあげている怒りを直接ぶつけられない、それが辛かったのであった。
それは、事件に巻き込まれた人たち全員が心のどこかで思っていたことであった。
それに彼は、魔界の住民らも生存競争を生きていたことを踏まえ、自身らも下手をするとその立場になるし、魔界の住民が他世界への侵略を行った背景にヴィダールと関係があると話した。
それは、魔界の環境が悪化したのがヴィダールの神柱らによるものだったという記録があるということから分かるという。
「もう一度言いますが、これからは血徒という存在との戦いも増えてくるわけですよね。今度全員を集めて今分かっていることについて再度教えて欲しいです」
「黒幕が分かった以上、対策のシフトが求められると俺は思いますがどうですか先生」
「勿論だ、残りの幹部も含め対処せねばならない。……あれ、これはマルシアスの……これは、敵の本拠地の場所か?フッ、最後の置き土産だな」
ハーネイトは徐々に異界化が解除されていくのを見て、マルシアスが完全に撤退したと判断する。すると床に何かが落ちているのを見て、それを拾った。
それは1枚の地図のようであり、中央に赤い点が一つ書いてあった。それをのぞき込んでみた響と彩音、翼ははっとした顔を見せる。
「どうした響と彩音」
「俺たちの故郷、矢田神村だ」
響と彩音は地図を見て、即座にそれが自身の住んでいた故郷であることをハーネイトに教えた。
わざわざこれを置いて行ったのは理由はあるなと思ったハーネイトの言葉に、2人それぞれそう思いながら、徐々におかしくなっていく仲間の姿に耐えられなかったマルシアスに少し同情していた。
「ドガさんが見たのって、やはり……。マルシアス、もしかすると誰かに止めてもらいたかったのかもしれない。周りの仲間が変わっていって、組織自体がダメになって、でもそれをどうにかしてくれそうと先生を見て思ったのかな」
「だといいのだがな先生」
「ああ、そう思うよ」
「きっとそう、よ。でないとこれを渡すことはないと私は思うわ。真の仇が誰なのか、ようやく分かってきたわね」
「改めて、気合入れていくぞ!」
今までの長い調査の結果がようやく出た。だがそれは、更なる恐怖の始まりに過ぎない。
今やるべきことは本拠地である矢田神村を攻略し、残りの幹部全ての撃破と死霊騎士の解放であることを全員で確認するのであった。




