未払いセックスレス11
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気がつけば、僕は自室である物置小屋にいた。
どうやら、車で寝てしまったあと、ハマーに運ばれたらしく、服をきたまま、僕は布団に寝かされ、上から乱雑に毛布をかけられていた。
ベッドサイドの目覚まし時計は午前六時をさしている。僕はうなりながら起き上がる。
目をこすり腕をぐっと上に伸ばしたところで、意識が一気に覚醒した。
「おはよう、兄貴」
「え?御風???!」
なんと、僕の布団と平行になるように、ネグリジェ姿の御風が寝そべっていたのだ。ライトパープルのシルク製のそれは、ある常連客が月に一度新品をくれるのだと言っていたっけか。いや、そんなことよりも、なぜ、御風がこんな時間に僕の部屋にいるんだろう。
「そんなに驚くこと?寝床に侵入なんか、アンタ私に何度もやらかしたことじゃない」
「……でも、ほら、僕は御風に近寄っちゃいけないし、そもそも、僕のこと嫌いでしょ……?」
「うん、嫌い。大っ嫌い」
息を呑むような笑顔で御風ははっきりと言った。けど、言葉とは裏腹に毛布の中に御風の長い脚が侵入してきた。
「ちょっと……?」
「ん?」
「ん?じゃなくて、御風の、あ、しが……僕の……」
「なあに?聞こえないなあ」
御風はにまにまとアニメみたいに笑顔をはりつかせ、大きな瞳をくりくりさせながら、僕の表情を伺う。その間も、毛布の中でネグリジェからでた生足を僕の下半身に絡ませ続けた。
なんで僕はこの場に及んでジーンズなんか履いてるんだろう。
いますぐ脱いで、彼女体温をじかに感じたい。けど、両手は敷布を後ろ手に掴んだまま動かないし、体も固まったままで、僕にできることといえば、歯を食いしばって御風を見つめ返すことだけだ。
「ふふ、兄貴の脚、相変わらず細いね。でも」
「ん……?」
「やっぱりムショで運動とかしたの?ふくらはぎとか硬くなってんの、デニムの上からでもわかるよ」
「み、かぜ……」
「あと、腕とか、胸板とか。前みたいにふにゃふにゃかと思ったけど、ちゃんと筋肉がついて引き締まってる。くやしいけど、兄貴、案外いい体してるよね」
指先で僕の腕や胸をちょんちょんと品定めするようにつつく。だんだんと目が慣れてきて、登りかけた朝日の白びた光の下、御風が薄く化粧をしているのがうかがえた。
僕の頭は激しく混乱している。
同時に興奮もしている。硬く締まった中央がその証拠だ。
でも思考回路なんかとっくにショートしているし、なぜここに彼女がいるのか、目的は何かなんて、なんかもう、どうでもよくなった。
御風は毛布を剥ぎ取り、首に腕を回して僕の上にまたがった。つやつやのプラチナブロンドからは、シャンプーと思わしきローズっぽい匂いがふんわりと香った。
「あ、あ……あ……」
全身をミイラみたく包帯でぐるぐる巻きにされたみたいだ。
まともに口なんか聞けないし、相変わらず体も動かない。
ただ僕は御風といっしょに倒れてしまわないように、腹筋にふっと力を入れた。だって、二人で布団の中にエスケープなんて冗談でもやっちゃいけない気がしたから。
特にあんなことを思い出したあとは。
「お酒、たくさん飲んだんだって?」
とろけるような声で御風は尋ねた。
「う、ん……わかんない、けど……」
「初めてなのに?」
「い、や……その……」
「ダメじゃない。私の目の届かないところで勝手な真似しないで」
耳元に唇を寄せ、御風は囁く。
「兄貴は、ぜんぶ、私のものなんだから」
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