1-4 市場調査1
折角の休日だから、今日はPSMLに遊んでもらおうと思ってにゃごママはベットに戻った。
時計を見ると午前11時を過ぎている。
(こんな時間に休日に寝直すのは変よね)
PSMLをセットすると冴えていた意識が眠りへと入って行く、意識が分けられた感じだ。
木で作られたベットの上で目が覚めた。
『おはよう、にゃごママ』
コンシェルジュ・キャスターのルッコラが声を掛けてきた。
「おはよう、ルッコラ。ところで、私の設定ってどうなっている?」
『ちょっと待つコラ。名前はラグラ、性別は女性、年齢は20歳、誕生日は未設定となっているコラ』
「うーん、名前はにゃごママにして、誕生日は11月14日にしてもらおうかな」
『分かったコラ。両親や子供時代の設定も作れるけど、どうするコラ?』
「まぁ、とりあえず、いいわ」
部屋に目を移すとちょこんと黒い冷蔵庫が部屋とは異質な感じで置かれていた。
「どれどれ」
冷蔵庫のドアを開けると3本の瓶が入れられている。
ビールを取り出してラッパ飲みする。
「高めの物を選んだんだけど、ちょっと残念な味ね」
『そういう時代コラ』
冷蔵庫の後を覗いてみるとコンセントケーブルが無い。
「電気は?」
『ここは夢の中コラ。電気は必要無いコラ』
「なるほど、納得!」
冷蔵庫のドアを閉めた。
空いたビール瓶を置いた。
「ゴミは?」
『次、来た時には無くなっているコラ』
「ゴミ処理代は掛かるの?」
『ここの日常設定には無いコラ。ゴミの処理代の掛かる日常設定の世界も有るコラよ』
「ふーん、市場に行きますか。それとルッコラの姿ってスマホしかないの?」
『好きな設定に出来るコラよ』
「じゃ、マスコット的な……魔法少女的じゃない方向で」
『こんなんでどうコラ?』
緑の髪で、緑の目、和風とも中華風とも見て取れる不思議な服装の30㎝くらいの人形が宙に浮いている。
「ああ、いいコラ。じゃなかった、とってもいいよ」
『これからはこの姿コラ。それから【ルッコラ】と、声を掛けてくれると周りのNPC、オーディエンス・アクターには聞こえないコラ。もちろん、姿も見えないコラ』
「なるほど、じゃ行こうか」
にゃごママは部屋を出ると、立ち止まった。
「あっ、お金忘れた」
『ポケットに中銀貨9枚と小銀貨10枚、大銅貨1枚、中銅貨5枚、小銅貨6枚が入っているコラ』
「結構、重いね」
『お財布か、バックを買うコラ』
「そうね」
街の繁華街が見えてきた。
「前回来た時より、活気があるね。店も増えた気がするけど……」
『気のせいじゃないコラ。前回の9,232人という設定から63,522人に変更されているコラ』
「課金したせい?」
『それもあるけど、神様が何か考えているコラ』
「ふーん、まぁいいや。買い物を楽しもうかな」
武器屋や防具屋、飲食店に雑貨屋、花屋、八百屋が建ち並ぶ。
「まずは服を何とかしなくちゃね」
まずは近くの服屋に入った。
店に入るとグルッと一回りして店を出た。
「何か地味ね」
『この街には貴族様も領主様もいるので高級店があるコラ』
「じゃ、そこへお願い」
『こっちコラね』
通りから外れる形で立派な入り口のお店に着いた。
「おおっ、スゴイね。いいよ」
店に入る。
「いらっしゃいませ」
髭を生やした白髪の初老の店員が挨拶する。
「お嬢様、今日の趣は何でしょうか?」
「普段着とドレスをお願い」
「では、これはどうでしょうか?」
深紅のドレスを持って来た。
「わぉお」
「いいかでしょうか?着てみますか?」
「いいの? じゃ、お願い」
女性の店員が連れ添って試着部屋に入った。
普通の1DKくらいある部屋が試着室だ。
にゃごママは着付けてもらった。
「うん、すごい、すごいね」
にゃごママはドレスを着て鏡に向かって回って見せた。
「お値段いくらかしら」
「少しお待ち下さい」
女性の店員は下がるとしばらくして会計ボードに挟んだ手書きの価格を持って来た。
「ええっと、ルッコラ」
『ハイコラ、価格は100万ルクセンコラね。日本円で500万円くらいコラ』
「予算の10倍か。ここは価格を負けることは出来るの?」
『この店は誰かの紹介があれば負けるコラ』
「と言うことは出来ないと言う事ね」
『そうコラ』
鏡を見てため息をついて店員を呼んだ。
「すみません」
「はい、何でしょう」
「もっと、冒険者向けで手ごろな価格で、色は赤の物が欲しいんだけど……」
「わかりました。少々お待ち下さい」
しばらくして女性の店員が戻ってきた。
「色々冒険者向けをお持ちしたのですが、赤はいまはこれ一つだけなんです」
「じゃ、着てみる」
深紅のミニのスカートでブーツも同じ色の深紅で統一されている。
ところどころ金色と黒で引き締まった感じがする。
「エルフの弓使い見たいね」
「エルフですか?ターケンシャオのデザインです」
「このナイフは?」
「いまは飾りです。武器屋で購入して下さい」
「わかったわ。感じはいいわね。値段は?」
「少々お待ち下さい」
また、奥に引っ込んだ。
「まぁ、仕方無いか。レジでパチパチじゃないからなぁ」
女性の店員が戻って来て会計ボードを手渡す。
「2万2千ルクセン、一式で?」
「はい、そうでございます」
(下着も深紅でフルセットなら買いかな)
「買うわ。このまま着ていても大丈夫」
「はい、会計はこちらです」
試着部屋を出ると初老の店員が対応した。
「良くお似合いです。2万ルクセンになります」
「あれっ」
「当店のサービスでございます」
「そうなんだ」
中銀貨を2枚出した。
「ありがとうございます。今度は深紅の物を用意しておきます」
「うん、ありがとう」
にゃごママは冒険者の格好で店を出た。
『にゃごママ、カッコイイコラ』
「そう、ルッコラ」
『ナイスコラよ』
ルッコラは宙返りして喜んで見せた。