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1-1 PSML

「暇だぁ……暇で死んでしまいそうだぁ…」

「にゃごママ、そう言わないで、私この店好きだよ」

岸はカウンターに座って声を掛ける。

「今日は岸さんしか、来てくれないし……終わっているよ」

「溜まっているね」

「溜まっているよ。ストレスの百貨店だよ」

「じゃさぁ、これ知っている?」


岸はスマホを持つと検索を始めて、動画を見つけて見せた。


『一度だけの人生を一度だけにしていませんか?

人生の時間は限りある時間です。

その有限な時間を倍にするもう一つの人生があります。

P・S・M・L、プレイスリープマイライフ。

眠っている時間に冒険に出てみませんか?

眠っている時間に新しい人生を送ってみませんか?

PSMLが人生の第二部をお送りします。』

岸は動画を止めると聞いた。


「知っている?」

「知らない。だいたい、店やっていると、ゲームやっている時間なんて無いんだわ」

「うーん、にゃごママが気にする時間は関係無いんだ。寝ている時間の意識をアップロードして仮想デジタル世界に持って行って冒険して起きる頃に、また意識を脳にダウンロードするの」

「ええっ、そんなこと出来るの?」

「出来るんです!」

「へぇー、あぶなくないの?」

「ダウンロードと言ってもあらすじ程度なので脳への負担にはならないんですって」

「じゃ、夢見れないじゃん」

「夢って覚えている?」

「覚えている内に人に話せば覚えている」

「何か役に立っている?」

「そう言われるとね。怖い夢見る方が多いし、役には立たない」

「でしょ、だったらいいわよ。寝ている時間にカラオケ歌い放題!ストレス発散し放題!」

「いやいや、それでもやらないわ」

にゃごママは首を振った。


「にゃごママは50代の知識で20代の自分が送れたらいいなって言っていたじゃない。

それにアメリカの開拓時代みたいなのいいなって言ってたよね」

「うん、まぁ」

「その世界に行こう。行かしてあげる。私、新しいPSMLに変えたばかりなんだ。

だから、1世代前のやつだけど貸してあげる。そこで生産系の冒険しよう」

「生産系?」

「色々なものを作ったり、料理を作ったりする系ね」

「そうなんだ」

「ちょうど、これ持って来ているからパーソナルデータだけ取っちゃいましょうか?」

「えっ、なに!?」

彼女はバックから名刺台の箱を取り出すとカウンターに置いた。


スマホを操作するとそれは空中にゆっくりと浮き上がる。

「なに?なに?SFチックだね」

「ウルトラマイクロドローン、フライングハッチよ。

じゃ、そこに立ってもらえる?うん、もう少しこっち側、そうそう」

「ここでいい?」

「OK。じゃ始めるよ」

ドローンが顔の前に飛んできた。


『これよりパーソナルデータを集取します。確認よろしければお名前は発音してください』

「えっと、にゃごママです」

『にゃごママで確認しました。これよりキャブレーションを行います。手を閉じた姿勢でしばらく動かないようにお願いします。』

ドローンはにゃごママの背の高さまで上がるとまた、爪先まで降りて3辺をスキャンした。

『キャブレーション終了。パーソナルデータを収拾します。右手を挙げてください。右手を降ろしてください。右手の指を開いたり閉じたりしてください。左手を挙げてくだ……』

「身体検査みたいだね」

「もう、終わるよ」

『パーソナルデータの収拾終わりました。音声署名をお願いします。お名前を発音してください。』

「にゃごママ」

『完了しました』


岸はもう一杯だけ日本酒を頼むと

「明日楽しみにしていて、にゃごママの気に入る世界を用意してくるから……」

そう言って岸は日本酒Barにゃごりんを後にした。


翌日、岸はPSMLを紙袋に入れてやってきた。


「本体に繋いでこれを付けて寝るだけ」

「こんなものなの?」

それは後から付けるヘッドホンみたいな形をしている。

「ヘルメットみたいなものを連想していた?VRやARじゃないからね。PSMLはDRだからね」

以前に店で付けていた脳波で動く猫耳より楽みたい。

「これを付けて寝るだけ?」

「最初の1回目は意識のアップロードに4~5時間掛かるけど2回目以降は10分程度で終わるよ。

まぁ、やってみないとわからないね」

「そうだね」

家に帰るとPSMLを紙袋から取り出して説明書に目を通して組み立て始めた。


いつもより早い時間に布団に入るとPSMLを起動した。


最初の一回だけは大量のデータを抽出するため、スマホや固定電話も電源を落とした。

最初からやり直しになるのはいやなので念を押した。

首の裏から耳に掛けてあるインターフェイスがほんのり暖かい。

今は脳にある意識なのか。デジタルの中の意識なのか。

ポツンとその自己の存在は感じれるのに孤独や不安はない。

流れる川?海?を見ているようだ。

ずっと、それをいつから見ているのだろうか?

不意に暗くなった目が開く、光と共に見知らぬ天井が目に入る。

ここが新しい世界?


スカートを履いたまま寝ていたらしい、情報が頭に注ぎ込んでくる。

『村娘A、名前はラグラ、お針子の仕事をしている、一人で暮らしている』

異世界物で言うラグラという娘に転生したのね。

手足を動かしてラグラという娘を動かしてみる。

本当に現実と変わらないのね。

部屋の中を探してみるがベットと着替えの寝間着と革袋にコインが少しと何も無い部屋だ。

鏡がないので顔を確かめようがない。


岸さんに設定をお願いしたから仕方が無いか。

ボディのプロポーションは良さそうなので非道いブスということはないだろう。

『コンコン』とドアを叩く音がする。


ドアを開けるとお針子の仕事の雇い主が出たので仕事は今日で辞めさせてもらうと伝えると

今日までの賃金を手渡ししてくれた。


NPC的だ。外の世界もそうなのだろうか?

とりあえずお針子の村娘Aは新しいラグラへと変わったのだ。

さっきの賃金と革袋のコインを足してみた。

さて、何が出来るのかな。


空中にメッセージが出てきた。

『6時間が経ちました。目覚めますか?継続しますか?』

「最初はここまでかな。目覚めます」

『了解しました。目覚めのシークエンスに入ります。』

「で、どうだった?」

店に来て岸さんの開口一番はそれだった。

「いや、なんというか。村娘Aで目を覚ましました」

「でっ」

「なんというか、不思議な感覚だよね」

「若返った感じはどう?」

「あー、鏡がないから身体の感覚だけ…」

「そっかぁ、基本的な物しか用意しなかったから…鏡か。

あっ、でもスカートのポケットにスマホが入っていたでしょ」

「そうなの?気がつかなかった」

「今日はそこからね」

その後、何人かのお客さんが帰った後、レジを締めて家に帰った。

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