↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/33

28

 甲板指揮所から後方を見張っていたエルは、『ハウンドドッグ』の脇を抜けてくるランドレッグを認めた。


「右舷銃座! 敵抜けてくるわよ――ってあのランドレッグ!?」


 伝声管に指示を飛ばしながら、エルは砲火の閃光に銀色に浮き上がるそのランドレッグの正体に思わず声を上げた。

 帝国軍用ランドレッグ鉄樽(スチールバレル)。そしてその搭乗者は――。


「アラン・スミス!」


「おとなしくマリアを差し出せ、エル・メラルダ! そうすれば命だけは助けてやるぞ!」


 エルの声に反応するように、拡声器を通したアランの勧告が聞こえてきた。


「嘘ついてんじゃないわよ! 知ってんだからね、あんたがあたしらを殺そうとしたことは!」


 返答と言わんばかりに『カリグラ』の銃座が火を噴く。アランの鉄樽は滑らかなホバー機動で横に大きく動き、その火線の追尾を難なく振り切ると、すぐさまに肩部の機銃で応射した。


「うひゃ!?」


 エルが身を屈めると同時に響く、鉄板に炸裂する着弾音。ガンガンと撃ち込まれるその機銃弾に耐えながら、伝声管にむかって叫ぶ。


「撃ち返せ!」


「駄目です! 動きが速くて当たりません!」


 返ってくる悲鳴に、エルは床を叩く。敵の様子を見ようと少し首を上げた瞬間にガァンという音が耳を突き、頭の上の手すりに火花が散った。慌てて首を引っ込める。


「くそー……あれ、おっさん?」


 床に伏せて唇を噛むエルは、そこで『カリグラ』の左舷側に走り込んでくるバッタを見た。その荷台の上には黒いマントと鍔広帽を身に付けた人影があった。そんな格好をしている人物をエルはディック以外には知らない。その人影を乗せたバッタは、そのままエルの位置からは死角になる『カリグラ』の左舷の影に入っていった。訝しげにその姿を見送ったエルの耳に、アランの大声が届く。


「マリアはどこだ!?」


「あんたなんかに言うもんか!」


 叫び返すエルに、容赦ない銃撃が降り注ぐ。


「ちくしょー!」


 頭を抱えてその攻撃に耐えている間も、伝声管から艦内各所の報告が次々と上がってくる。


「後部格納庫で火災!」


「こちら右舷銃座! 弾が切れそうです!」


「後部通路! 負傷者運ぶのに人手が!」


「消火班、後部格納庫火災! すぐ行って! 弾薬班、右舷銃座に給弾! 急いで! 看護班、後部通路負傷者! 担架持ってって!」


 エルは銃撃の切れ間を窺いながら伝声管ににじり寄ると、矢継ぎ早に指示を出す。そのとき甲板指揮所に上がる階段に人の気配を感じた。下を覗いてエルが素っ頓狂な声を上げる。


「マ、マリアちゃん!?」


 そこには部屋に戻ったはずのマリアが思いつめた表情で立っていた。その後ろにはトルパットがその大きな身体に似合わない弱った顔で控えている。エルは状況を察した。


「すみませんお嬢様……。どうしてもと聞かず」


 トルパットが謝罪する。マリアが口を開いた。


「私のために死ぬ必要なんてありません。私が出ていけば……!」


「ダメよ! ダメダメ! あなたは必ず守るって約束したじゃない!」


 予想通りの言葉にエルがぶんぶんと首を横に振る。それは到底エルには受け入れられない言葉だった。最初ディックに捕まったとき、そうしてマリアに助けられた恩がある。その恩を返し、さらに搬送業者(キャリアー)として彼女を目的地まで送り届けるのがエルの使命であり、矜持であった。エルは必死にマリアの言葉を否定する。


「だいたい、あいつらは一度あたし達を皆殺しにしようとしたのよ? 投降したって、きっと意味がないわ!」


 だが、マリアも「投降する訳ではありません」と反論する。


「アランの目的が私であるなら、前に出れば盾の代わりぐらいにはなるはずです。実際、前の戦いのときにはアランは私を避けて攻撃をしていました。私を使えば少しは有利な状況を作れるはずです」


「マリアちゃん……」


 それは事実であり、先のアランとの戦闘ではディックはそう戦い、戦況を覆した。しかし。


「でも、だめよ」


 エルはきっぱりと言った。それでも危険であることには変わりなく、しかも今は夜間であった。敵がしっかりとマリアを視認できる保証はどこにもなく、また乱戦状態の今の状況では流れ弾が当たる可能性も否定できない。そのことを話し、「それに」と付け加える。


「あなたを人質にするみたいな卑劣な真似なんてできる訳ないじゃない。あたし達はあなたを守っているのよ?」


「でも……」


 エルのまっすぐな視線にマリアが口をつぐむ。交錯する機銃弾の音の中で続く沈黙。しかしこの沈黙は予想外の方向から破られた。


「こっちだアラン!」


 突然に上がった聞き覚えのあるその大声に、エルが顔をむけ、マリアが階段の上に頭を出す。


「貴様、ディック・ビーン!」


 アランが叫んだ。甲板側面に付けられた荷揚げ用クレーンの点検用足場である。そこに黒マントをなびかせた男――ディック・ビーンが、ライトの灯りに照らされて立っていた。


「そこまでだぜ。こいつが目には入らねぇか!」


 その腕の中に人がいた。風に吹き乱れる赤い髪の女性の姿。


「ナディーンか!?」


 アランの言葉にニヤリと笑うディック。その右手の銃の先は、腕の中の女性――アランの側近にして愛人であり、エルの手によって捕虜となっていたナディーンのこめかみに据えられていた。


「そういうことだ。引いてもらうぜアラン・スミス。でないとあんたのかわいいナディーンちゃんの頭に穴が空いちまうぜ? フハハハハ!」


 ゴリゴリと銃口をナディーンのこめかみに突き付けてディックが哄笑する。


「あ、あいつ、人質なんて卑劣な真似を……!」


「ディ、ディックさん……!」


 その姿を怒るとも呆れるともつかない表情で、エルとマリアは見つめるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。