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いつかの花  作者: 憂木冷
8/11

小五~冗談~



 後回しになってしまったが、元々四人はクサビの問題を解決するために集まっていたのだった。

「ンデよ、封。文香の方はどぉすンダ?」

「大丈夫大丈夫。そっちもお嬢をからかってる片手間で考えといたから」

「ほぉ、言ってくれんな? 次は龍拳がいいか?」

「おーっと! わかったわかった、悪かったよ、アレは洒落にならねぇ」

 ジョウドウが立ち上がって拳を握ると、ハカマは慌てるように距離を取った。

「…………確かに。あの時は死んでもおかしくなかった」

 と、サカキもしみじみ言う。三人の間では、昔なにがあったのだろう。

 しかしこの会話はクサビの件とはなんの関係もなく「で」の一言で、ジョウドウが軌道修正した。

「考えってのは?」

 ハカマ=フウは席に着いて、フフと笑い、一拍。

「題して『なんか気になる作戦』だ!!」

「……はぁ…………内容は?」

「おい! 逆城! なんで一回ため息吐いたんだよ!」

「うっぜぇな! さっさと話を進めろよ!」

 殴った。

 転。転。転。転。転。

 十分後。

「へぇ。つまりは、クサビが、周りのみんなが気になって話しかけたくなりそうなことをする。ってことだね」

 ハカマの意見をまとめるとそう言うことらしい。これだけのことに随分と時間をかけたな。なんだか久し振りに喋った気がする。

「でも、具体的には何をするの?」

 本人からの意見だ。確かに、そこが無ければ何も始められない。

「それは、ソングの出番だろ」

 …………。

「っあ。僕か」

 とぼけたわけではなかったが「ふふふっ」とクサビが笑う。笑われた。だけど、それは、心地が良い笑いだった。

「そうだよ、忘れんなって」

「でも、どうして僕」

「だってお前、アメリカで暮らしてたんだろ?」

「そうだよ」

「なら、なんか向こうの流行とか知ってそうじゃん」

「アメリカにいっとき、ソングはいつもどんなことしてたンだ?」

 いつも……と言われても、普通に生活していただけの気がするのだけど。だからと言って、変わったことと訊かれれば、それはそれであまりにも多い。そもそもの話。環境がまったく違うなんて言うのは、全てが違うのと同じようなものだ。言葉も人種も時間も生活も、自分すらも変わった気がする。

「んん、そう言えば、日本に来てから、音楽を聴く機会が減ったかな。前は一日中聴いてた気がする」

「流石ソングな意見だな、なるほどじゃあそっちの路線で……」

 はい、一、二、三秒。

「文香をヴォーカルにしてバンドでも組むか!」

 彼は三秒以上考え込まない性格なのか? 音楽を聴く方の話をしたのに、突拍子ない方向転換だ。

「――――!……いやぁ袴くん、それはちょっと」

「無理だろ」

「……俺も、楽器なんてできないぞ」

 しかし、全員ノリノリと言うわけではないらしい。

「僕も、興味ならあるけど……」

「なんだよノリわるいなぁ。おもしろそうだろ? 文香がうたって、逆城がベース、お嬢がギター、ソングがキーボード、そんで俺がドラム。ちょうどいいじゃん!」

「でも、歌うとか恥ずかしいし……」

「っつか、なんでお前がキーボードじゃないんだよ、ピアノ弾けんだろうが」

「違う楽器だってやりたいじゃん」

「……そもそも、楽器だって、そんな簡単に用意できないだろ」

 それは、それはそれはもっともな意見だった。僕たちは全員、ただの小学五年生なのだ。自分で用意することはまず無理だし。家族に頼んでも、すぐに用意できるほどお金持ちが居るわけではないだろうし。日本の漫画やアニメなんかでは、学生五人が集まれば一人くらい、大に超が付くほどの金持ちが混ざってたりするものらしいが……現実はご都合主義ではできていないはずだ。いくらあだ名がお嬢だからって、ジョウドウ=キズナが本当のお嬢様というわけではないだろう……? ないよね?

「まアァ、アタシら三人は、揃って貧乏だしな……」

 やっぱりご都合主義ではなかった。思っていた通りだ。本当に、五人集めた程度で大金持ちが集まるほど、世の中お金はありふれていないんだ。まったく、予想通り過ぎて言葉もない。

「…………………………っ」

「貧乏とか言うなよ、中流階級だって。何だかんだ言って、本気で頼めば、みんな買ってくれるって。何なら俺が説得しに行ってやってもいいゼ?」

 本当のところを言うと、ハカマ=フウの意見は魅力的だ。僕は退屈な日々を過ごしていたし、彼らとは初めてあったけれど、仲良くやっていけそうだ。それに、何より僕は音楽が好きだ。全く興味が無いと言ったらウソになる。

「……でも、なあ? キズナ」

 サカキが渋った、というか困った顔で首を回す。

「んん。ま、自信はネェわな」

 きっぱりと言った。

 彼女の印象には、当てはまらない発言に僕は驚き、クサビ=フミカは、

「ぅた、ぅた、うた、う、ぁぁ、むりむりむりヒトまえでうたうなんてそんなのはぁぁぁ……」

 聞いていないな。

「自信がないって?」

「いや、それはこっちの話だ。気にすんな。それより、もう冗談はいいからちゃんとかんがえんぞ。見ろ、文香なんて、本気にして動揺しまくってんじゃネェかよ」

「…………………………そうだな。おい楔、落ち着け……封の冗談はいつものことだから」

「え、ホント……?」

「冗談。なの?」

 クサビもそうだが、僕も本気の提案だと思っていた。

「いやいややるよ。全然やる。CD出すよ。メジャーデビューもする!」

「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 クサビは小声で驚愕……なんとも素直な性格をしている。

「だぁぁぁぁあから。無理だっての。馬鹿なこと言ってんじゃネェよ」

「……」

「んだよ、お嬢も逆城もつまんねぇなぁ」

 ハカマ=フウの言葉には、少しだけ僕も同意したかった。



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