小五~冗談~
後回しになってしまったが、元々四人はクサビの問題を解決するために集まっていたのだった。
「ンデよ、封。文香の方はどぉすンダ?」
「大丈夫大丈夫。そっちもお嬢をからかってる片手間で考えといたから」
「ほぉ、言ってくれんな? 次は龍拳がいいか?」
「おーっと! わかったわかった、悪かったよ、アレは洒落にならねぇ」
ジョウドウが立ち上がって拳を握ると、ハカマは慌てるように距離を取った。
「…………確かに。あの時は死んでもおかしくなかった」
と、サカキもしみじみ言う。三人の間では、昔なにがあったのだろう。
しかしこの会話はクサビの件とはなんの関係もなく「で」の一言で、ジョウドウが軌道修正した。
「考えってのは?」
ハカマ=フウは席に着いて、フフと笑い、一拍。
「題して『なんか気になる作戦』だ!!」
「……はぁ…………内容は?」
「おい! 逆城! なんで一回ため息吐いたんだよ!」
「うっぜぇな! さっさと話を進めろよ!」
殴った。
転。転。転。転。転。
十分後。
「へぇ。つまりは、クサビが、周りのみんなが気になって話しかけたくなりそうなことをする。ってことだね」
ハカマの意見をまとめるとそう言うことらしい。これだけのことに随分と時間をかけたな。なんだか久し振りに喋った気がする。
「でも、具体的には何をするの?」
本人からの意見だ。確かに、そこが無ければ何も始められない。
「それは、ソングの出番だろ」
…………。
「っあ。僕か」
とぼけたわけではなかったが「ふふふっ」とクサビが笑う。笑われた。だけど、それは、心地が良い笑いだった。
「そうだよ、忘れんなって」
「でも、どうして僕」
「だってお前、アメリカで暮らしてたんだろ?」
「そうだよ」
「なら、なんか向こうの流行とか知ってそうじゃん」
「アメリカにいっとき、ソングはいつもどんなことしてたンだ?」
いつも……と言われても、普通に生活していただけの気がするのだけど。だからと言って、変わったことと訊かれれば、それはそれであまりにも多い。そもそもの話。環境がまったく違うなんて言うのは、全てが違うのと同じようなものだ。言葉も人種も時間も生活も、自分すらも変わった気がする。
「んん、そう言えば、日本に来てから、音楽を聴く機会が減ったかな。前は一日中聴いてた気がする」
「流石ソングな意見だな、なるほどじゃあそっちの路線で……」
はい、一、二、三秒。
「文香をヴォーカルにしてバンドでも組むか!」
彼は三秒以上考え込まない性格なのか? 音楽を聴く方の話をしたのに、突拍子ない方向転換だ。
「――――!……いやぁ袴くん、それはちょっと」
「無理だろ」
「……俺も、楽器なんてできないぞ」
しかし、全員ノリノリと言うわけではないらしい。
「僕も、興味ならあるけど……」
「なんだよノリわるいなぁ。おもしろそうだろ? 文香がうたって、逆城がベース、お嬢がギター、ソングがキーボード、そんで俺がドラム。ちょうどいいじゃん!」
「でも、歌うとか恥ずかしいし……」
「っつか、なんでお前がキーボードじゃないんだよ、ピアノ弾けんだろうが」
「違う楽器だってやりたいじゃん」
「……そもそも、楽器だって、そんな簡単に用意できないだろ」
それは、それはそれはもっともな意見だった。僕たちは全員、ただの小学五年生なのだ。自分で用意することはまず無理だし。家族に頼んでも、すぐに用意できるほどお金持ちが居るわけではないだろうし。日本の漫画やアニメなんかでは、学生五人が集まれば一人くらい、大に超が付くほどの金持ちが混ざってたりするものらしいが……現実はご都合主義ではできていないはずだ。いくらあだ名がお嬢だからって、ジョウドウ=キズナが本当のお嬢様というわけではないだろう……? ないよね?
「まアァ、アタシら三人は、揃って貧乏だしな……」
やっぱりご都合主義ではなかった。思っていた通りだ。本当に、五人集めた程度で大金持ちが集まるほど、世の中お金はありふれていないんだ。まったく、予想通り過ぎて言葉もない。
「…………………………っ」
「貧乏とか言うなよ、中流階級だって。何だかんだ言って、本気で頼めば、みんな買ってくれるって。何なら俺が説得しに行ってやってもいいゼ?」
本当のところを言うと、ハカマ=フウの意見は魅力的だ。僕は退屈な日々を過ごしていたし、彼らとは初めてあったけれど、仲良くやっていけそうだ。それに、何より僕は音楽が好きだ。全く興味が無いと言ったらウソになる。
「……でも、なあ? キズナ」
サカキが渋った、というか困った顔で首を回す。
「んん。ま、自信はネェわな」
きっぱりと言った。
彼女の印象には、当てはまらない発言に僕は驚き、クサビ=フミカは、
「ぅた、ぅた、うた、う、ぁぁ、むりむりむりヒトまえでうたうなんてそんなのはぁぁぁ……」
聞いていないな。
「自信がないって?」
「いや、それはこっちの話だ。気にすんな。それより、もう冗談はいいからちゃんとかんがえんぞ。見ろ、文香なんて、本気にして動揺しまくってんじゃネェかよ」
「…………………………そうだな。おい楔、落ち着け……封の冗談はいつものことだから」
「え、ホント……?」
「冗談。なの?」
クサビもそうだが、僕も本気の提案だと思っていた。
「いやいややるよ。全然やる。CD出すよ。メジャーデビューもする!」
「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
クサビは小声で驚愕……なんとも素直な性格をしている。
「だぁぁぁぁあから。無理だっての。馬鹿なこと言ってんじゃネェよ」
「……」
「んだよ、お嬢も逆城もつまんねぇなぁ」
ハカマ=フウの言葉には、少しだけ僕も同意したかった。