小五~音楽~
しばらくすると、ハカマ=フウが一人だけで図書室に戻ってきた。どうやらどこかでジョウドウ=キズナの目を逃れて来たらしい。
「お前らの悩み。この俺様が解決してやるゼ!!」
開口一番、偉そうだった。
「……封。キズナは?」
「トイレに流してきた!」
本人が居なくなっても、排泄物扱いは続くらしい。僕から見ても、サカキがあきれているのが分かる。
「……わかった。それで、解決ってのは?」
「まずはお前だっ!!」
見るヒトが見れば、センスがあるとか格好いいと言うかもしれないし、変だとかダサいと言われるかもしれない、なんとも明言し難いポージングで人差し指を顔の前に突きつける。僕の眼前。そこからレーザーでも発射するのではないかと思うほど、自信というエネルギーに満ち溢れていた。
「お嬢に教わったジョジョ立ちだ。しらないか?」
「???」
「まあいい。お前、得意科目は?」
銃口の様に差し迫った指先を動かさぬままに、僕へ質問を放つ。
「あぁ、僕はまだ国語や社会はよく分からないし、運動もものすごくできるわけじゃあないから」
「つまり、算数以外はできない、ってことか」
「算数も文章があるのはできないけれどね、あとは……音楽くらいかな」
「なるほど、音楽な」
僕に向けた銃口を下ろし、考え込むこと一、二、三秒。
「決まった」
この場の全員が理解できないうちに次の言葉へ。
「今月のお前の――」
「ここにいやがったかぁ!! クソハゲ!! 喰らえ! 邪王炎殺煉獄焦!!!!」
「おいキズ――」
仲良しな二人は。友達を本気で、連打で、殴っているように見えた。殴られたハカマ=フウは地を転がる……ぶっコロがすとはこういうことだったか……。そっとクサビ=フミカを見ると、彼女もこちらの視線に振り向く。
「ね? 仲良しでしょ?」
「……クレイジーだ」
「…………安心しろ、キズナは少年漫画が好きなだけだ。悪い奴じゃない」
しかし、どう見ても――突然現れ、隙をついて、殴り倒すというのは、悪役の振舞いであった。